昨日は、第10回吃音親子サマーキャンプの1日目を紹介しました。今日は、そのつづき、2日目、最終日の様子です。このとき、初参加で「3日間では短すぎる。来年は1週間にしてほしい」と真剣に頼んでいたK君、大人になってからはスタッフとして参加してくれていました。仕事の関係で、会場に入るのが深夜になることが何度もありました。なつかしく思い出します。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/02/04
吃音親子サマーキャンプ 報告
豊中市立庄内小学校 通級指導教室 松本進
《2日目》
劇の練習が始まった
今回の劇は「ライオンと魔女」。C・S・ルイス(イギリス)が書いた「ナルニア国ものがたり」(全9巻)の第1巻である。このキャンプのために竹内敏晴さんが書き下ろして下さったものだ。
子どもたちを指導するスタッフが、事前に合宿で竹内さんのレッスンに参加し、この「ライオンと魔女」を竹内さんの演出で直接指導を受けている。大阪のどもる仲間だけでなく、遠く山口県や千葉県のことばの教室の先生やスピーチセラピストが事前のレッスンに参加している。その熱意とエネルギーには、ただただ頭が下がる。シナリオが、だんだんと劇になっていくのは、さすがにプロの演出家だ。私たち大人がまず十分に楽しんだ。
1日目には見本を見せるのが恒例になっている。練習不足ながらも、キャンプ地に着いてから夕食後の稽古が効いたのかまずまずの出来で、子どもたちも楽しんでくれたようだ。見本を見てあの役をしたい、あの役は嫌だなどと考えていたようだ。
劇の練習は、好きな子とそうでない子がいる。
積極的にやりたい役を選ぶ子と、できるだけセリフの少ない役を選ぼうとする子がいる。しかしいったん練習が始まると、スタッフの勢いにも押されて、みんな熱心にやる。中には休み時間もセリフを覚えようと努力している子もいる。この練習はかなり厳しく、泣きべそをかいたり、喜んだり、思わず拍手が出たり、劇のシーンごとにグループが組まれて練習に励む。この練習が実はこのキャンプのメインかもしれない。
ウォークラリー
2日目の午後は、少年自然の家のすぐ後ろにある荒神山を縦断するウォークラリー。生活グループごとに、時間差をつけて出発する。急な上り下りの多い難コースだった。幼児も何人かいたが、スタッフに助けられながら全員完歩。自然の家からは見えない琵琶湖が、山の上からはきれいに見えた。
親の学習会 担当 伊藤伸二さん
ウォークラリーの時間帯と平行して行われた。論理療法が中心であった。論理療法とは、あるできごと(A)が悩み(C)を生じさせるのではなく、そのできごと(A)をどう受け取るか、その受け止め方(B、ビリーフ)が悩み(C)を作る、という考え方である。その受け止め方の誤りには、事実に反する・不当な過度の一般化・過剰な反応・絶対論的思考などの非論理的思考がある。まず、親のもちやすい吃音に関して話し合い、次のことが出された。
◇(どもる子どもには)友だちがいないといけない
◇どもる子は、強く、明るく、たくましく生きるべきだ
◇当てられたら答えなければならない
◇あいさつくらいはできなくてはならない
◇人は常に努力すべきである
◇どもる子は、困っているにちがいない
◇どもっていると、自分を発揮できない
◇どもることは恥ずかしいことだ
この後、親ひとりずつから悩みを聞き、その中に潜む非論理的思考(イラショナル・ビリーフ)を伊藤さんが指摘していった。なかでも論議されたのは、「教師の仕事に集中しなければならない時、子どもとちゃんとつきあえる時間がなかった。その時の愛情不足で、吃音が進んでしまったのではないか?」という親の悩みが出されたときだ。それに対して「母親は愛情を持って、子どもとの時間を常に優先しなければならない」という考え方はイラショナル・ビリーフではないか、という指摘があった。愛情を持って子どもに接するにこしたことはない。しかし、子どもと長時間つきあうことだけが愛情ではないし、家計を支えるために、また仕事に集中しなければならないとき、というのはある。たとえそうでも、子どもは成長するし、いつか理解してくれるものだなどと話し合い、また、多くの親が自分の体験を話した。
《3日目》
最後の練習と上演
子どもたちが劇の練習をしている間、親たちも、伊藤伸二さんによる「からだとことばのレッスン」を行っていた。そこでは劇上演の前座となる、詩の朗読の特訓が行われていた。出し物は、谷川俊太郎作「生きる」と日本吃音臨床研究会メンバー合作の「どもる」。
特訓の成果は素晴らしかった。みんな堂々と、よく通る声を出していた。我が子たちを前にして、まず大人が一生懸命な姿を見せてくれたのはよかった。
次は子どもたちの番である。自分の出番が近づくと緊張し、どもっても懸命に演じる。途中つまってことばがなかなか出てこなくても、共演者も観客もじっと待ってくれる。そして一つの場面をやり終えたときには、観客の拍手と演じた子どもたちの満足がある。参加3回目のある親は、「1回目のときは子どもたちの吃音に目がいっていたが、2、3回目は吃音が気にならなくなり、劇そのものが楽しめるようになった」と感想を述べていた。
こうして、暑い3日間が過ぎた。
親の感想として、
◇子どものどもりについて悩みの整理がついていなかったが、ここで一つの方向を見いだすことができた。
◇こういう子どもを持っていることが「つらい」と思ったこともあったけど、話し合ったり劇を見たりして、この子どもで良かったと本当に思えるようになった。
◇「楽しくて、どもっても大丈夫、サマーキャンプ」という印象だ。など
最後に、子どもの感想として、K君(小6)から直接言われたことを書いておこう。
「お願いですから、3日間は短すぎる。来年は是非、1週間にして下さい。」
「スタタリング・ナウ」NO.62(1999年10月)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/02/04