山王小訪問 看板 サイズ変更 千葉市のことばの教室とは関係が深く、秋には千葉で吃音キャンプがあったばかりです。ふたつの学校から依頼を受けて訪問し、どもる子どもたちや保護者から質問を受け、対話をしました。
 まず午前中の山王小学校に入ると、手作りの歓迎の立て看板が目にとまりました。チャイムが鳴り、子どもたちが集まってきます。子ども6人と保護者、担当者、そして僕たちがそろって、授業が始まりました。
山王小訪問 みんなで輪 山王小訪問 伸二ひとりはじめに、子どもたちが、自分にとっての幸せとは何かについて書いた画用紙を見せながら自己紹介をしてくれました。
 そして、子どもたちから僕への質問コーナーに移りました。
・今年、放送委員をしている。アナウンスするときに、自分がどもることを考えたことはない。もし、伊藤さんが僕と同じ放送委員だったら、どんなことを思いますか。
・大人になってから、どもって困ったことはありますか。
・休みの日は1人で遊ぶことが多いですか。
・どもっていると、つけない仕事があると思いますか。
・私は友だちが110人います。自分から「友だちになろう」と声をかけて友だちを作るけれど、伊藤さんはどうやって友だちを作りますか。
・どうして、世界大会やどもる人のグループを作ったのですか。
・僕は吃音について、将来の不安がありません。「なんでそういう話し方なの?」と聞かれることは今までもあったし、これからもあると思うけれど、慣れていくしかないと思っています。どもりと向き合う心の作り方も分かりました。困ったら、そのとき考えればいいと思っています。こんな僕をどう思いますか。
・どもらなければもっと楽しい生活になるだろうと思う人がいます。なぜ、そう思うのだろうか。どもっていても、楽しい生活はできると私は思います。
・吃音を気にしないレベルを10段階で表したら、伊藤さんは10に見えます。私は10を目指しているけれど、今、レベル7の位置にいます。あと3は気になってしまいます。気になる3をなくし、10になるにはどうしたらいいですか。

 小学生の子どもたちが、こんなことを考えているのかとびっくりします。質問の意味を確かめ、子どもひとりひとりとやりとりをしながら、僕は自分の考えていることを話していきました。個別学習やグループ学習で、しっかり吃音を学び、自分の吃音について考えているからなのだろうと、自分自身の小学生の頃と比べてしまいました。

山王小訪問 心の作り方図解 僕と同じ名前の伊藤君が、「どもりと向きあう心の作り方」という図を見せてくれました。
 前は、僕の全体が吃音だったけれど、今は、僕の中のほんの一部が吃音で、ほかにもいろいろあるのが僕だ、ということだそうです。すごいなと思います。
 もちろん、これからの人生の中で、いろいろなことがあると思います。理不尽なことにも遭遇するかもしれません。でも、そんなときもきっと、小学生のある時期、こんなことを考えていたという実績は消えることはありません。吃音親子サマーキャンプで出会った子どもたちのように、苦しいことやつらいことがあったとしても、なんとかしのいでいってくれるだろうと確信しました。
松が丘小訪問 全体 午後は、松ヶ丘小学校に行きました。ここは、17家族が参加しました。人数が多いので、体育館で行いました。ここも、はじめは、幸せについてひとりひとりが話してくれました。そして、質問の時間になりました。

・ことばがなかなか出ないときはどうしたらいいですか。
・どもってよかったことは何ですか。
・将来、どもっても、なりたい仕事につけますか。そのためには、何か苦労がありますか。
・どもっているのに、どうして大学の先生になることができたのですか。
・友達や仲間をどうして作ってきたのですか。
・受験のとき、面接でどもっても大丈夫ですか。
・どもっていても、楽しく暮らせますか。
・カレー屋さんになったとき、どもって困ったことはありましたか。僕はないと思うのですが。
・子どものころ、どんな大人になると考えていましたか。将来の夢は何でしたか。

松が丘小訪問 伸二 ここでの質問も本当にいい質問ばかりでした。僕は、子どもたちと対話しながら、たくさん話しました。お寿司屋さんになりたいという夢をもっている子には、僕のカレー屋さん時代の話をしました。大阪教育大学を辞めて、カレー屋さんになったとき、店の名前をどうするか悩みました。インドの詩人「タゴール」が好きだったので、「タゴール」としたかったが、タ行は苦手です。でも、やっぱり「タゴール」にしました。心配していたとおり、材料の注文のときには「こちら、○○です」と言ってから注文しないといけませんが、なかなか「タゴール」が出てきません。でも、そのうちに相手が僕のどもっていることに慣れたのか、「タゴールさん?」と言ってくれるようになりました。また、閉店時刻を尋ねられたときも困りました。閉店は7時です。僕は、「しち」も「なな」も、とても言いにくいのです。そんな懐かしい話をすることができました。
 最後の感想で、「伊藤さんの昔の話を聞くことができてよかったです」と言ってくれた子がいましたが、僕の方こそ、昔の話をすることができてうれしかったです。
 ことば教室訪問は、無事終了しました。新鮮ないい刺激を受けて、とても気持ちのいい時間でした。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2022/12/10