昨日の続きです。「ことば供養」について、大阪吃音教室で話し合った内容を紹介しています。

伊藤 アメリカの、自身がどもる言語病理学者でもある12人の、吃音者へのメッセージを集めた本を翻訳して出版しましたが、その『人間とコミュニケーション』(NHK出版)の中に「言い替えをする自分を許そう」という表現があります。
 吃音を受け入れて生きるという主張の中に、どもっても決して言い替えをしてはいけないという主張がこれまでにあって、息苦しさを感じていたのですが、「言い換えを許す」はとても新鮮で、そうだそうだと共感したのをよく覚えています。
 言い替えをすることに罪悪感を持ってしまうと、横田さんが言ったように、いつも自分を責めてしまうことになり、とっても辛い。
 そこである人は、自動的に自分の身を守るために、感じなくしてしまう。それが日常的になってしまうと、気づけなくなる。
 知人のスピーチセラピストが広島の病院で仕事をしていた時の話です。
 ある人が、上司から紹介されて吃音の相談に来た。つきあいのある私たちのことを話したり、どもりは、逃げたり隠したりするのが問題ですねなどと話をしていたら、その人がワーっと泣き出して、自分のことを話し始めました。

 『子どもが学校で事故で片目を失明した。裁判で訴える話もあったが、仕方がないと示談で済ませた。物分かりのいい人間を演じていた。《どもる人は吃音を隠し、逃げる》という話を今聞いて、実は僕もそうだったのだと気づいた。
 裁判になると、話さなければならない。吃音については隠して、誰にも話していなかったので、周りの人に吃音であることを知られるのが怖かった。それで示談で済ませたのだ。どもりを隠して、どもりたくないために、自分は大事な娘の失明の事でも、主張しなければならないのに主張しなかった。自分がどもりでなかったら、きちんと言っていただろうと思うと悔しい。娘に申し訳ないことをした』

 いつも避けたり逃げたりが日常的になると、逃げていることに気づかなくなってしまう。そうでないとバランスがとれないので、サバイバルという意味でそれはそれなりに意味があったのですが、一方で、それを意識化していく作業も必要な時がある。逃げている自分を意識するのは辛いけれど、そうしなければ、東野さんが言う不全感であったり、徳田さんが言う納得できない生き方であったりする。こう気づいた時に、辛い対応かも知れないが、その問題に直面していくことが大切ですね。ことばについて言えば、直面するきっかけに「ことばの供養」がなればいいなあと思います。
 それでは、どもり方を磨くに話をすすめますが、気持ちだけでなく、症状面でも変化している人は多いと思いますが、以前のどもり方と今とずいぶん違うと思う人、いれば教えて下さい。

佐藤(女・会社員) だいぶ変わってきました。言い替えをしてどもるのをごまかしてきたので、友達もどもるのを知らなかった。それが、ごまかさないようになったので、前よりどもるようになりました。

徳田 随分変わりました。今は自分がどもりだと自覚してしゃべっている。以前はどもりだと思いたくなかったし、なんとかうまくしゃべろうとして、言い替えを非常にしていた。今はほとんどやってません。今は言いたいときは、随意吃を使ってでもしゃべる。その方が自分そのものやと思うし、今はかっこよくしゃべろうとは思わない。同じどもるにしても素直にどもりたい。
 僕は心地よいどもり方という表現が好きで、それは、しゃべる方も聞く方にもいい。同じどもるにしても、聞きやすいし、心地よい。表情が豊かであれば、症状的にどもっていても、何を言ってるか素直に伝わってくる。

曽根 僕は今年の正月ぐらいから、どもりがひどくなった。自分で考えたんですが、いつも緊張気味の方が、どもらずに喋れるので、僕の体が自分のどもりを受け入れてきたようで、緊張が緩んで反対にどもり出したんかなと思う。症状的には目立つが、気分的には違います。

平沢(男・会社員) この大阪吃音教室に初めて来た中学1年の頃は、あまり人の顔を見ることができずに、しゃべることが多かった。顔をひきつるように話すことがあったのですが、どもっても声を大きくしてしゃべろうとして、だいぶどもりが軽くなった。最近は、どもっても、人の顔を見てしゃべればみんな聞いてくれます。

杉本(男・自営) 僕はあまり昔はどもりを意識しなかったが、ここに来て自分はどもると意識するようになった。最近よけい、ひどくなった。最悪です。それでも楽ですが…。

東野 ずいぶん軽くなりました。最初出なくて、難発だった。変わった理由は、どもってもいいやと思い出してからです。どもってもいい、どもりを受け入れようと思ったときから軽くなっていきました。それまではやっぱりどもらずにしゃべりたいとか、どもりであるのにどもりの自分を否定してるからよけいことばが出なかったのです。
 今は気持ちが沈んでいる時は確かに調子悪いですが、また元に戻るわぐらいで、吃症状に関しては考えませんからね。(つづく)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2022/06/16