昨日の続きです。昔、僕が大学生の頃は、大学で就活セミナーなどなかったと思うのですが、今は、すべての大学が力を入れている活動です。どもる人にとってはこの就活セミナーはかなりハードルが高く、就職に不安や恐怖をもち、挫折するきっかけになることもあるようです。そのセミナーをむしろ活用することを、対策2として考えました。

◇就活の準備 対策2 就活セミナーを活用する

吃音Q&A  4《第3問》奥田 就活の準備として、バイトの話が出たけれど、もうひとつ、大学がしてくれるセミナーでの体験がしんどかった。そのセミナーというのは、就活の前段階のマナー講座みたいなもので、電話の仕方、お辞儀の仕方、面接の仕方など、みんなの前で実技をするものだった。このみんなの前でするということが、私にはとてもプレッシャーだった。私は、自分の吃音を知られないように必死に隠していた。だから、みんなの前で実技をすると、自分の吃音がバレてしまう。私は、どもりを隠したいという気持ちが強かったので、このマナー講座のセミナーがとても苦しかった。

吃音Q&A  7伊藤 セミナーで、吃音がバレるのが嫌だから隠そうとすればするほどしんどくなるよね。就活の始まる前に、まず「どもる覚悟」をしておくこと。決して隠さないこと。どもる時は自然にまかせてどもることだね。吃音を公表するかどうかなんてことを、よく言うけれど、わざわざ公表しなくても、自然にどもれば、みんなには分かってしまう。だから、どもって周りの人に吃音だと分かったことを失敗したと思わず、失敗を楽しむ、そんな感覚になれたらいいのだけれどね。就職活動は、吃音を隠すことをやめることから始めるしかない。
 よく例に出す消防士の話だけど、彼も、消防学校の時が一番大変だった。僕たちに相談してきたとき、就職してしまえばなんとかなるから、なんとか学校時代を耐えろと、彼に言った。そんなとき、同じようなことを言ってくれる先輩が身近にいたらなあと思う。それと同じ意味で、「就活のセミナー」がつらく、苦しかったというのはとてもよく分かる。本番である仕事に就く前の練習台として、嫌な体験をいっぱいしてしまおう。就活のセミナーなんて、本番前の練習だと思って、そんな感覚でやり過ごせばいいよ。そう言ってあげたいね。
 仕事に就く前に、場数を踏むことによって、周りの目に対する耐性がつく。早く恥をかくことだ。落ち込んでもいいけれど、落ち込むのは一日だけにしておこう。就職してからの練習をしているのだと思えばいい。結論としては、就活対策2として、セミナーを活用することを提案したい。それも、どもったときの就活担当の大学の教員の反応を見るなど、おもしろがって活用することだ。
 図らずも笑われたという経験や思い出はマイナスのものとして強化される。恥をかきたくないと思ってかく恥は、自分にとってダメージが大きい。でも、きっと恥をかくだろうと、恥をかく覚悟をしてかいた恥は耐えられるし、恥ずかしい思いに耐えた体験として、残る。(つづく)

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2022/04/27