吃音と就労は、吃音にとって永遠のテーマと言ってもいいくらいの、大阪吃音教室に初めて参加する人から出るテーマであり、各地の相談会でも話題になることです。面接が怖い、面接をなんとか切り抜けられないだろうか、どもるということを公表した方がいいのかどうか、など、就活直前をどう切り抜けるかということが中心だったように思います。
 でも、たとえ、なんとかその場をごまかしたとしても、仕事人生は長く続きます。そう考えると、もっと根本的な対策が必要になってきます。就活のスタートは、直前ではなく、早め早めに、これが基本でしょう。ここからスタートした吃音Q&A、この第1問のやりとりが、第2問へとつながります。対話型のQ&Aになりました。

◇就活の準備段階に何をしたらいいか 対策1 アルバイトの活用

《第2問》
奥田 大学3回生や4回生になって、みんなが就活を始める頃ではなく、もっと早い段階から、準備を始めた方がいいということだったけれど、どんな準備をしたらいいのか。準備段階をどう過ごしたらいいのか。

Q&A  6伊藤 みんな、将来は働くということを考えたら、高校生や大学生だけでなく、小学生だって不安をもつ。『親、教師、言語聴覚士が使える 吃音ワークブック』(解放出版社)の中に、どもる人の職業というワークがある。たくさんの種類の職業が書いてあって、どもっていたら、この職業に就くことができるかどうかチェックするようになっている。
 「これならできる、これは無理だ」、と子どもたちはチェックしていくんだけど、どんな職業にも就けると分かって安心する子どもがいるという話を、よくことばの教室担当者から聞く。つまり、就活の準備は早めにと言ったけれど、極端に言えば、学童期から始まっているとも言える。吃音は治せるものではないので、折り合いをつけて生きていくことが大切。どんな仕事に就きたいのか早く考えることが大切になる。
 どもる人が有利なのは、他の人より早くから職業について考え、準備できること。仕事に関するテーマパークがあるけれど、そういう所に行くなどして、考えることができる。子どもも不安だけど、親もきっと不安だろう。不安になることは決して悪いことではない。不安を持ったら、それだけ早く、そして真剣に対策を考えることができる。
 ウォーミングアップとして、高校生、大学生にはアルバイトを活用することを提案したい。僕は、21歳のとき、どもる覚悟をして生きていこうと決めてからは、ありとあらゆるアルバイトをした。嫌なこと、苦しいこともたくさんあったけれど、僕の場合は家が貧しかったから、アルバイトをしないと生きていけない。だから苦しくてもがんばった。たくさんの仕事を実際に経験して、どもっていても、どんな仕事にも就けるという確信を持った。それは、自分が実際に経験したから言えることだ。学生なのだから、一番大事なのは、勉強だけれど、アルバイトを活用することをおすすめしたい。できれば話すことの多い仕事がいい。たくさん失敗して、恥をかいて、つらくても場に慣れていくしかない。また、アルバイトだと思えば、耐えられる。これは僕の大学生活の6年間で経験したことです。

吃音Q&A  3奥田 私はパン屋に憧れていて、学生時代にパン屋でアルバイトをした。ところが、実際には、接客8大用語といって、「ありがとうございます」など決まったことばを言わないといけないことが分かって、とても苦労した。パン屋でパンを売るという姿を想像していたけれど、その前に接客用語で疲れてしまった。それで8ヶ月でもうだめだとなって辞めた。

伊藤 だけど、8ヶ月も続けたんだよね。続けられたのには、奥田さんにどういう力があったのだと思う?

奥田 このまま辞めたらアカンと思った。ここで逃げたら、これから他のバイトもできなくなる。これくらいのことには耐えないといけないと思った。そう思って、がんばったけれど、結局は8ケ月で辞めた。でも、想像と実際とは違うということを知る、いいチャンスだったと思う。(つづく)

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2022/04/26