1月30日(日)の午後、大阪の十三にあるミニシアター、第七芸術劇場に行きました。前日から、『テレビで会えない芸人』が上演されていて、その日は、上演後、主演の松元ヒロさん、監督の四元良隆さん、牧祐樹さん、東海テレビのプロデューサーの阿武野勝彦さんの舞台挨拶があります。前売り券は完売で、当日券はありませんでした。僕は大阪吃音教室の仲間がチケットをとってくれて、4人で行きました。
 松元ヒロさんとの出会いは、2005年の「笑いとユーモア」をテーマとした吃音ショートコースの講師として来ていただいたときからです。
 ヒロさんの存在を知ったのはそれ以前で、『週刊金曜日』という雑誌に掲載されていた姜尚中さんとヒロさんの対談を読んで、この人の「笑い、ユーモア」は本物だと感じ、その何ヶ月かのスケジュールを調べて、名古屋でライブがあることを知りました。松元ヒロさんのライブの間中、大笑いし、涙もこぼれました。そして、3日間の「笑いとユーモアの人間学」のワークショップの講師は、この人だと決め、その場で、初対面なのに、吃音の話をし、吃音に悩んできた人、悩んでいる人に「ユーモア、笑い」が必要だと講師の依頼をしたのでした。2時間ほどのライブしか経験のない松元ヒロさんが、躊躇するのは当然です。最初はとても戸惑っておられたようですが、しばらく考えてから「やりましょう」と言ってくださいました。ショートコースは、大笑いした楽しい3日間でした。
 その時のワークショップの記録は『笑いとユーモアの人間学』の日本吃音臨床研究会の2006年度の年報として発行しています。当然、ライブの部分は再現できませんでしたが、笑い、ユーモアについて松元ヒロさんが考えていること、そして、僕たちの質問に丁寧に応えてくださっていることは掲載することができました。僕たちの大切な冊子になっています。
2019年正月 国会前 ヒロさんと それから後、可能な限り、大阪はもちろん東京にも、ヒロさんのライブのためにだけでも出かけて、舞台を観に行くようにしていました。コロナ前、2019年の正月3日に国会議事堂前の「アベ政治を許さない」のデモにも参加し、お会いしました。僕たちは、ヒロさんが参加していらっしゃるかもという予想をしていましたが、ヒロさんはまさか大阪在住の僕たちが国会議事堂前に来るとは全く予想されていなかったので、僕たちの姿をみつけると、とても驚かれていました。写真を撮って、その場にいた人たちと、思いを共有することができました。
 その松元ヒロさんを追ったドキュメンタリー作品を鹿児島放送局が作成し、話題になりましたが、それが映画になり、全国的なニュースになっています。
 しっかりとした信念を持ち、ブレることなく、笑いやユーモアをもって、伝えているヒロさんの存在に、大いに励まされます。

七芸1 舞台挨拶ポスター テレビで会えないはずなのに、テレビで全国放送されたドキュメンタリー番組をよりふくらませた映画を観て、会場は笑いに包まれました。権力に対する怒りの少数派の思いも共有しました。憲法の前文を謳いあげるヒロさんに、身震いするほどの力強さも感じました。
 映画の冒頭シーンは、撮影開始の日に偶然出会った白杖の女性とのかかわりからスタートしました。「お手伝いしましょうか」と声をかけるヒロさん、「明るく困っていましたね」との女性とのやりとりから、ヒロさんの人柄がにじみ出ていました。お連れ合いも息子さんも登場します。鹿児島実業高校の陸上部顧問の先生に会いにいくシーンもありました。ヒロさんは駅伝で優秀な成績を収め、それで法政大学に入学するのですが、すぐにやめてしまいます。申し訳なくて、なかなか顧問の先生に会いに行けなかったらしいのですが、「松元君はどんな生徒ですか?」の質問に先生は「記憶にない」と言います、とびっきりの笑顔で。でも、ヒロさんの新聞記事やヒロさんからのはがきは大事にしている先生でした。
 テレビに出たかった初期の時代、笑パーティーの時代、ザ・ニュースペーパーの時代、ソロになり、たくさんの人との出会いの中で、自分が大切にしたかったものを大事に守り抜いてきたヒロさんの姿を、映像は映し出していました。

七芸4 舞台挨拶4人 大阪・十三の第七芸術劇場では、まだ上演されています。ぜひ、劇場に行ってみてください。いい時間だったと思っていただけることでしょう。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2022/02/01