新聞や雑誌には、人生相談のコーナーがあります。吃音の問題もときどきですが、掲載されます。「スタタリング・ナウ」NO.18(1996年2月)に、そんな人生相談が掲載されていました。
 僕は、吃音ホットラインという電話相談をしています。新聞や雑誌に掲載されている人生相談と違って、相談者とやりとりしながら、質問に答えたり、相談者と一緒に解決方法をみつけたりしています。一人あたり15分から40分、電話してきた人の話に耳を傾けます。どもる人本人だけでなく、どもる子どもの親や祖父母、職場の上司や同僚、友人、ことばの教室の担当者や言語聴覚士などからの相談もあります。最近は、保健所や病院で紹介されたという人からの相談もありました。僕にとっては大切な時間です。

人生相談にみる吃音問題
 新聞や雑誌にはよく人生相談のコーナーがあります。
 結婚、就職、人間関係、自分の性格等、様々な悩みが出され、それに専門家の方がアドバイスしておられます。吃音の問題もときどき出てきます。今回は、それらのうち3つを紹介します。同じ悩みをお持ちの方には何らかの参考にしていただければ、また、自分ならどう答えるだろうかと、視点を変えてお読みいただくのも興味深いかと思います。
 どの人生相談もぴったり来るものも、そうでないものもあります。参考にできるものは参考にしてみて下さい。

答えは自分の中に〜人生案内の窓から〜
                 三木善彦・大阪大学人間科学部教授
 ブレーン出版 1500円
 読売新聞「人生案内」で大阪大学の三木先生が回答されたものが本になりました。
 その中の吃音に関する人生相談を紹介しましょう。

問い どもりで自信持てない―22歳、仕事したいのに…
 22歳の女性です。
 私の悩みは「どもる」こと。小学2年ごろから中学を卒業するまでが一番ひどく、一言話すたびにつまってしまい、自己紹介が一番苦手でした。
 自分の名前すらすんなりと言えなかったのです。同級生に笑われ、どもるのをまねされたこともありました。
 そのため、話せば笑われるというのが頭にあって、中学を卒業したあとすぐに就職しましたが、対人関係がうまくいかず1年で辞めてしまいました。
 それからは家事手伝いをしています。
 今は仕事をしたいの思うのですが、やはりどもるのが気になって自信が持てません。(愛媛県・N子)

答え どもりながらも工夫して、自分のやりたい仕事をやりなさい。
 家の中に引っ込んでいたあなたが外に出て働きたいと思うようになったのは、大変な進歩です。そうですよ、桜の咲く春が来たというのに、うら若い女性が家でくすぶっているのは体に毒。どもってもいいではありませんか、思い切って外に飛び出しましょう。
 私の親しい友人の両腕のない画家は、人々の好奇の目をものともせず、足ブレーキのついた自転車に乗って公園に行って、花の絵を描いています。
 あなたも周囲の人の反応を気にせずに、どもりながらも工夫して自分のやりたい仕事をやりなさい。
 自分のどもりとの付き合い方についてはどもる人たちの組織である日本吃音臨床研究会(大阪府寝屋川市打上919-1Bの821、06・441・8559)発行の資料が役に立つでしょう。これは親や教師にも参考になります。同会に切手四百円分を同封して請求して下さい。
 ※現在はこの資料は絶版になっていますが、代わりに「吃音と共に豊かに生きる」のパンフレットがあります。これは700円分の切手を同封して請求していただければお送りします。また、住所は、次のように変わっています。
〒572-0850 大阪府寝屋川市打上高塚町1-2-1526 072-820-8244
    

問い あ行ではじまる言葉がいいづらい
 あ行ではじまる言葉がいいにくく、「アアあみ」というようにどもってしまいます。とくに人前にでると、どもるのがはずかしく、緊張して声がでなくなります。それが原因で精神的にも弱くなってしまいます。なんとか治せないでしょうか。(23歳・男性・福岡県)

答え 話し方は長年の癖でもあります。時間をかけて変えていって。
               森山晴之(国立リハビリテーションセンター)
 あなたの話し方の癖に焦点をあてて考えてみました。

練習  屮△△漾廚函頭の音をわざとつけてゆっくり読んでください。次に「アアあみ」と、くり返す回数をふやし、その次は、速さを変えて試しましょう。
 これは、自分でくり返すことで、本当はちゃんといいたいのに、自動的にくり返してしまうのを防ぐ効果があります。また、くり返してもあわてず、自分の意志で声のだし方を変えられる幅を広げるのにも役立ちます。
練習◆ 屬◆爾漾廚里茲Δ法頭の音を伸ばして、小さい音から声量を上げていくようにいってください。「あーさ」「あーきのあーさ」のように、徐々に文章につづけてみましょう。
練習 練習△亡靴譴燭蕁気楽な人を相手に練習してみましよう。伸ばし方を短めにして、相手にはおかしく聞こえない程度に工夫してみましょう。

 練習でうまくいっても、本番で成功するとはかぎりません。本番は、そのときいえるいい方を自分に許してください。当分は練習と本番は別ものです。
 そして「多少はどもってもよい。よどみない流ちょうな話ぶりよりも、不器用な話し方のほうが真心が伝わる」と考えてください。「どもりを治してから何かを始めよう」という考えは緊張を生み、楽に声をだそうとする構えを邪魔することが多いと思います。
 話をするというのは、少なからず時間をかけて作ってきた癖です。それを変えていくにも、時間をかけて徐々にというふうに考えてください。急がば回れ、焦らず、気長に、じっくりと! ご健闘を祈ります。       『Just Health』1995年12月号


人生案内 読売新聞 1995.9.15
 うまく発音できず消極的に
 22歳女子大生、来年は就職だけど…

問い 22歳の女性。小学校の時から言葉のことで悩んでいます。特に「し」「ち」「に」「じ」はいくら練習してもうまく発音することができません。本格的に気にし始めたのは中学のころからで、笑われたり、ばかにされたりしました。それから学習意欲をなくし、ただ隠すことばかりを考えて消極的に生きてきました。
 来年は大学を卒業して就職します。ふだんの生活では言えない言葉は使わないで、言い換えなどでしのいで来ましたが、勤めるようになればそれでは通用しないこともあるでしょう。いつもびくびくして仕事をすることになるでしょう。「気にしない」というのが、最も賢いことだと思いますが、そんなに強くなれません。(東京・J子)

答え 早乙女勝元(作家)
 はるか昔のことですが、少年時代の私は吃音で、ずいぶんと悩んだものでした。もともとが小心で、人前で何か発言しなければと思い詰めると体中がコチコチになって、最初の発音にどもってしまうのです。青春期になって、文章を書くようになってから、うそのように治りました。
 とかく発音しにくい音は、多かれ少なかれ、だれにでもあるものです。また地域独特のなまりや方言もあります。最近のタレントには、故郷の方言を生かして個性を出す方もいないではありません。
 人間というものは不思議なもので、いつもそのことばかり気にしていると、つい口から出てしまうものです。すると、あわててまた繰り返してしまうのです。気にするなと言っても無理でしょうから、あなたはいま青春に積極的に挑戦し、好きなことに熱中して、大いに打ち込んで下さい。そうして自信がつけば、気持ちが晴れやかになります。


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2022/01/21