ことばの教室でできること、ことばの教室の役割など、具体的な指導にかかわる話になっていきます。今、大阪吃音教室は、年間40回ほどの講座を組んでいます。どれも、どもりながら自分らしく生きていくために必要なことばかりです。ことばの教室でも、どもりながらも、どもりに負けない子どもに育てるため、子どもと一緒に考えてほしいなと思います。昨日のつづきです。

《吃音ショートコース分科会》
     早期自覚教育について

ことばの教室担当(長崎) 大阪吃音教室ではどんなことをしているのか?

伊藤 「職場で発表がある」「見合いをする」「就職試験がある」など、どうしようかな、恐いな、と逡巡し、避けようとしているどもる人に、「やればできるかもしれんぞ」「やってみないか」と、肩をポンと押す。実際にやってみてうまくいったら、「すごいな、がんばってよかったなあ」と言うし、失敗したら、「一度ぐらい失敗しても仕方ない。もう一度してみよう」と、またポンと肩を押す。いろいろなプログラムはありますが、結局は、日常生活に出て行くことを励ますことにつきます。
 どもらずに仕事がうまくできるようになることでなく、どもりながらも、逃げずに、目的を達成したということの積み重ねです。その中から、どもっていても、大丈夫という考えができてくる。それが、吃音の受容につながるんです。
 同じことがことばの教室にも言えると思う。「やれるかもしれへんで」「がんばってみないか」とポンと肩を押す。それくらいしかできないし、それがまた大変重要だと思う。

ことばの教室担当(長崎) いろいろしているが、どもること以外では優秀な子どもを、45分間預かるのは大変難しい。

伊藤 そのような子どもをことばの教室で指導する必要はなぜあるのか? 発想を変えて考えて欲しい。「はじめに45分ありき」ではない。担当者が通級の必要ないと思うなら、どもっていても、ことばの教室に来なくていいと思う。45分を何とかしなきゃ、という発想自体がおかしい。取り組む必要があるから、45分を使うのではありませんか。
 この夏、静岡県の言語障害の研究会の事例検討会に出ました。その事例は、子どもよりも、母親への指導がより重要だと私には思えました。しかし、母親へのアプローチはまったくしようとせず、子どもの指導を45分どうするか困っておられました。
 半年ほど、子どもの通級をやめてでも、母親指導に時間を使うべきだと私は意見を言いました。

 ◇具体的な指導について
伊藤 夏の「吃音親子サマーキャンプ」で、中学1年生のT君は、グループセッションでこう言いました。
 「僕は今まで順番が回ってくるとドキドキして、嫌で嫌でたまらなかったけど、きょうは、早く順番が回って欲しいと、待ち遠しかった」
 私達どもる人間は、「どもると恥ずかしいから、止めとこう」と、「いや、やっぱり言いたい」という二つのことを天秤にかけている。「どもってでも言いたい」という思いが強ければ、「恥ずかしい」という思いを突破して喋る。
 恥ずかしさ、嫌さを突破できるような、自分の意見を持つ子に育てたい。そのためには、感動体験、やり遂げることの楽しさなどを経験することが大切です。話す内容を豊かにする指導だと思います。
 話す内容を考える時、文章を書くことも必要です。「この書き方ではあなたがどう感じたか分からない。ここの部分をもう少し具体的に書き直して」この作文指導が、表出言語にも生きてくるでしょう。
 また、僕たちはどもるからといって、人の話が聞けない場合があります。聞くことがうまくない人は実は多い。そこで、大阪吃音教室では《聞く》ことについて話し合い、聞くトレーニングをしています。話し手の話をよく聞き、何を言ったか、フィードバックします。話を聞いて、質問し、誰の質問が、話し手の自分としてうれしかったか、などをもとに話し合います。吃音親子サマーキャンプでは話し合いの時間がありますが、誰かが話しているときは、しっかり聞いて、わからなかっことは質問するなど、実に素晴らしい聞き方をしています。ことばの教室でも、このような聞くトレーニングはできると思います。子どもが、聞き上手になったとき、今まで友だちができなかった子が、「○○さんは、よく話を聞いてくれる」と、いい友だちができるかもしれません。
 どうしたら人と人とのよい関わりを持てるようになるか。コミュニケーション能力を高めるために、ことばの教室ですることは、たくさん考えられるのではないでしょうか。(つづく)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2022/01/19