昨日のつづきを紹介します。両親教室では、一方的に話をするのではなく、参加している人の意見を聞きながらすすめています。成人のどもる人の話は、どもる子どもの保護者にとって、我が子の将来の姿を見ることになり、我が子の代弁者としてのことばを聞くことになります。吃音をめぐり、いろいろな立場の人が参加していることの利点ということになります。たくさんの声が重なり合って、温かい空間になっていくのです。

どもる子どもの両親教室
    1995.7.8
    大阪市社会福祉指導センター

〈子どもがことばが出ない時に、親としては言いたいことが想像できるのですが、待ってやった方がいいか、先取りして言ってやった方がいいか〉

 これは、どもる人がどう思うか聞いてみましょう。

◆大きくなってからは自分の考えていることは言いたい、あまり先取りして言ってほしくないと思いました。子どもの時は、自分では言いたかったと思いますけど、あまり間があくのは恐かったという気もします。ちょっと手助けしてもらってもいいかな。
◆僕の場合は、言ってくれた方がいいです。それは楽だからです。分かってるなら早く言ってという感じです。
◆僕は、最後まで言い切りたいので、先取りしてほしくないです。
◆僕も場合によりますけど、目をそらされるのが一番嫌です。
◆場合によるけど、先取りして言ってもらった方が楽でいいかな。
◆僕は基本的には待ってもらうのがいいんだけど、明らかに分かることってありますよね。そういうことは、言ってもらった方が楽です。
◆待たれる態度っていうのも、ものすごく違うと思います。きちんと話を聞きたいんだという表情で待ってくれてたら話しやすいけど、「早く出ないの」という顔の表情で待たれるとものすごく喋りにくいです。

 状況による、場合によるというのは、こんな風に考えられますかね。自分自身の個人的なこと、自分の心の動きや、自分の意見を言おうとするときは、これは自分固有のものだから、それを先取りされると、僕はそういうつもりじゃなかったのにということにもなります。だけど、「お隣の田中さんが・・」の「た」が出ない時は「田中さん」と言ってもらっても傷つかない。自分の本当に言いたいことは先取りされると嫌だけど、名前とか、自分がどうしても言いたいこととは違うことで、どもって立ち往生している時は、言ってもらった方が楽でいいという感じでしょうかね。

 参加されている保護者の方に聞きますが、子どもがどもっているときに待てない時ってありますか。

《親》待ちたいと思うんですけど、子どもが「どもっている時は死ぬ思いや」って言うんです。そんな時には私が先取りして言います。基本的には子どもが言うことを最後まで待ちたいという気持ちはあるんです。子どもが「死ぬ思いやったわ」と言った時など、それだったらこんなに待たない方がよかったかなと思いました。あるときは先取りして言うと、「僕、言おうと思っていたのに」と言うこともありました。
《親》黙って聞いているけど、時には辛くなることがあります。
《親》基本的には聞きますが、忙しい時には背中を向けてしまうこともあります。
《親》子どもの小さい間は、親が、ああやろ、こうやろと先々言っていたけど、「言わないで待ってあげて下さい」と言われてから待つようにしています。
《親》どもっている時は、絶対しっかり聞いてやるようにしています。
《親》今ふっと思ったんけど、本人はもう5歳だから分かっているんじゃないかな。今まで分かっていないと思っていました。意識していないと思っていたのです。でも、僕がどもっているから待ってくれている。いつものママだったら絶対待ってくれないのになんてことを思っているんじゃないかなと、ふっと思ったけど、どうでしょうか。

 そうです。そうだと思います。子どものどもっているときと、どもっていない時と、お母さんの態度が微妙に変わると、その子どもがしゃべっているときに、○を出したり×を出したりということを結果としてしていることになる。だから、どもっているときもどもっていないときも同じ態度でないといけません。肯定的なメッセージを送ろうと思っていても、知らず知らずのうちに、結果として、否定的なメッセージをずっと送り続けているということはあるだろうと思います。基本的には、どもりを受け入れているか、いないかということだと思います。
 どもりだからとか、特別な配慮だとか、特別な思いというのはやめた方がいいです。腹が立ったら腹が立ったと言えばいいし、聞けなかったら、今は聞けないと言えばいいのです。忙しかったり、自分で聞く気持ちの余裕のない時は、背中を向けてしまうよりは、「今聞けない」とか、「忙しいから後でゆっくり聞くからね」とか言う方がいいでしょう。本当は聞きたくないのに聞かなければならないと思って聞くというのは、子どもは敏感ですから聞きたくないんだなあと分かりますよ。また、これが一番大事なことですが、本人抜きには特別の配慮はしないことです。つまり、どもった時、待った方がいいか、言うことが想像できたときは手伝ったほうがいいか、本人に聞いて下さい。そうすると、こんな時は、こうして欲しいなど、子どもは言ってくれると思います。本人のためにと、よかれと思ってしたことが裏目に出ることはあります。それを防ぐには、本人に、考えや気持ちを常に聞いて確認することです。すると、そのようなことはなくなります。(つづく)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2021/12/21