吃音と就職、面接は、どもる人にとって、共通するテーマで、僕のブログでも、これまで何度も取り上げてきました。今日、紹介する田村一正さんも、面接にしぼって自分史を書いています。面接官から尋ねられたときの答えが、僕は好きです。
 「日常的な、あまり重要でないことについては、どもるために言いたいことを言わないことがあるかもしれませんが、重要なことについては、どもりながらでも自分の言いたいことをきっちり言うようにしています」
 僕も同じです。どうでもいいことでは、今でも僕は逃げたり、言うことをやめたりしていることもあります。でも、自分が絶対に言いたいこと、言わなければいけないことでは、どんなにどもってでも言うと決めています。それが、僕の、「どもる覚悟」です。

  
面接
                          田村一正

 大学院で、今している研究が、新しい医薬品として期待される新しい化合物の合成ということもあり、医薬品に興味を持ち、ぜひとも製薬会社に入って人の役に立ちたいと考えていた。会社面接の際には、どもることもあるだろうが、私は修士なので学部よりも有利であるし、なんとかなるだろうと楽観的に思いながら就職活動に臨んだ。
 A薬品では、まず面接官三人と私で面接が行われた。しかし、非常に緊張していて自分の名前や大学名を言うのでさえ、ひどくどもってしまった。面接官は「緊張しないでリラックスして頂いていいですよ」と優しく言ってくれた。私も何度も落ちつこうとしたが、話すたびに次から次へとどもってしまい、更には自分でも何を言おうとしているのかわからなくなる程、頭が混乱してしまった。二日後、不合格の連絡がきた。
 B化学は、大学研究室の教授が強いつながりを持っていることもあり、会社の人が私を面接するために東京からわざわざ来てくださった。面接は、大学で教授も加わって三人で行われた。ところどころどもることはあっても前の面接よりもかなり落ちつけたし、話す内容もまあまあうまく言えたと思う。また、日頃厳しい教授が、私が受かるようにと、さかんに私を進めて下さったので、教授の気持ちに感謝しながら、必ず合格せねばと思った。面接が終わり会社の人が帰ってから教授に呼ばれた。結果は不合格であった。理由は、教授が会社の人に聞いたところによると、大学院修士卒の人にはあくまでも会社の指導的な人になってほしいので、どもると問題があるからとのことであった。
 しばらくして、所属する研究室の別の教授に私の就職のことで呼び出された。どもることや私の消極的な性格が面接の際いかに不利であるか、それにもかかわらず規模の大きい会社に挑戦しているという甘さを指摘されてしまった。ショックだった。この時、どんな仕事でもするから私を採ってくれる会社ならどこでもいい、とさえ思いつめた。
 その後、所属する研究室の教授の紹介で大阪のC薬品を受験した。面接は三度あり、社長とも話をした。最終面接で「どもるために自分の言いたいことが言えないということはありませんか」と聞かれ、一瞬焦ったが、次のように答えて「危機」を乗り越えた。
 「日常的な、あまり重要でないことについては、どもるために言いたいことを言わないことがあるかもしれませんが、重要なことについては、どもりながらでも自分の言いたいことをきっちり言うようにしています」
 一週間後に合格の連絡を頂いた。
 私は最初、大企業に就職したいと思っていた。そして入社後は、皆に遅れないように必死でついて行く自分の姿を想像していた。しかし、小さな会社に就職することに決まって、今度は会社の先頭に立って皆を引っ張って行こうと思っている。(2009年)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2021/5/11