吃音の世界大会の夢は、実は、ずいぶん前からありました。1978年1月に、僕たちのニュースレターの「吃談室」という小さなコラムに、僕が書いた文章があります。今から43年も前の夢の話です。世界大会はこの文章の8年後に開催され、「一国の大統領」の文言の通り、ジョー・バイデンさんがアメリカの大統領になりました。
 これを機会に、しばらく第一回世界大会のことを紹介していきます。
吃談室
      
<コラム:吃談室>
 A君、私は今、言友会館の10階にある大ホールのコントロール室にいます。今、まさに私たちの念願だったどもる人の世界大会が開かれようとしています。司会者がどもりどもりしかも非常に晴れやかにあいさつを始めました。でも、残念ながら、同時通訳の人は、ユーモアあふれるそのどもりを再現できずにいるようです。
 かつてどもる人が嘆き、嫌ったどもりがその人にとってかけがえのないものとして尊重されています。世界各国のどもる人たちがその国の様々な障害を乗り越えて次々と「吃音者宣言」をし、その成果が今、各国の代表によって発表されています。一国の大統領がいます。教師や医師もいます。コックさん、トラックの運転手さんがいます。この大会期間中、様々な分野の人々がどもりだけでなく自分たちの職業に関しての交流も進めています。……A君、私の初夢はここで終わってしまいました。でも、いつかこの夢が夢でなくなる日がきっと来ることを信じてペンを置きます。(1978.1)


第一回国際大会報告書、カンパパンフ_0001 第一回吃音問題研究国際大会は、今から35年前の1986年に京都で開催しました。今のように、インターネットもない時代です。海外のグループと連絡をとるのも大変でした。どの国にどんなグループがあるのかも分からず、最初は、日本でいう文部科学省や厚生労働省へ、吃音の研究・教育機関とどもる人のグループの所在を問い合わせる手紙からスタートしました。長い長い道のりだったなあと思います。
 そうして、海外と連絡をとりつつ、日本国内では、カンパが少しずつ集まり始め、これまでつきあいのあった方から、応援のメッセージが届き始めました。
 それらを励みに、僕たち事務局は、フル活動をしていたのです。あのエネルギーは、今、思い出しても、すごいものだと思います。「私たちも応援します」とメッセージを下さった方のことばを紹介します。

井上ひさし(作家)
 私もどもりの苦しさは体験して『日本人のへそ』を書きました。私にとって「ことばと人間」は、永遠のテーマです。

コロムビア・トップ(参議院議員)
 口蓋裂の問題について、福祉の方面から取り組んできた関係で、言語については関心があります。この国際大会をきっかけに吃音問題の理解の輪が広がることを期待しています。

羽仁進(映画監督)
 皆さんとお会いしたこと、『吃音者宣言』のこと、いつまでも忘れません。話すということ、聞くということについて私たちが、もう一歩深く考えるヒントがそこにあるからだろうと思っています。

沼田曜一(俳優)
 語るということは、生きるということだ。がんばりましょう。

村井潤一(京都大学教授・心理学)
 自主的に国際大会の開催、すばらしいことと思います。皆の力で成功させたく思っています。

山内久(シナリオライター)
 私は多くの吃音者が持っている羞かみの心はむしろとても大切なものだと思います。ずうずうしくなったからといって上手く口がきけるものでは決してありません。恥ずかしいけれども言いたいことはハッキリ正確に言おうという人間的な意欲を持ったとき、きちんと話ができる人間になるのではないでしょうか。クヨクヨしない大らかさと科学的に物を見る目を持った人間になって下さい。世界大会の成功を祈ります。

小川口宏(東京学芸大学教授・聴力言語障害研究)
 来年の京都で開催されるという国際会議は恐らく、古くて新しい文化の流れの一つのエポック・メーキングとなるのではと大きな期待を抱いております。小生のほんの些細な余力でもお役に立てるようでしたら喜んで提供させていただきます。

水町俊郎(愛媛大学教授・言語障害児教育)
 周知の如く、我が国における吃音研究は大幅に立ち遅れています。今度の国際大会が、吃音研究の活性化を促す契機になればと期待しています。グレゴリー博士をはじめ、著書や論文を通じてしか知らない著名な研究者に直接お会いできるかと思うと、今から胸躍る思いです。

野木孝(全国公立学校難聴・言語障害研究協議会副会長)
 自閉症患者の過去を振り返って手記を読んで、自閉に対するアプローチについて大きな示唆を受けたことがあります。我が国における吃音教育は、まだ混乱状態といっても過言ではないほどなので吃音者自身の発言が大事だと思います。貴大会が成功し、臨床家にとっても示唆に富んだ大会になるよう祈念致します。

川端柳太郎(神戸大学教授)
 昨年、京都で開かれた全国大会で、自分史についてお話しながら、講師である私の方が強く感動しました。それはこの運動が単に吃音の方々の持つ様々な問題を、総合的に解決する方向に向かっていると知ったことだけでなく、普通の人と見なされながらもハンディを持つ人の生き方をも示唆していると感じたからです。現代の社会では、ハンディのない人、悩みのない人などいません。それでこの運動の輪が世界にまで広がるということは、普通の人も含めた人間の生き方にまで、大きな福音をもたらすものと信じています。

入部皓次郎 日本放送出版協会 取締役第1図書編集部長
扇谷正造  社会評論家
大久保忠利 日本コトバの会会長
大橋佳子  金沢大学教授(言語障害児教育)
神山五郎  鳥山診療所所長
佐野浅夫  俳優
田辺一鶴  講談師
長沢泰子  国立特殊教育総合研究所(言語障害研究室)
永淵正昭  東北大学教授(聴覚言語欠陥学研究室)
西川盛雄  熊本大学助教授(言語学)
村山正治  九州大学教授(臨床心理)
八木晃介  毎日新聞大阪本社学芸部記者
山口彰   臨床心理学者
柚木馥   岐阜大学教授(障害児教育)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2021/1/31