第30回吃音親子サマーキャンプ最終日の午後のプログラム、トークセッションのつづきです。今回で最後です。過去の30年の月刊紙『スタタリング・ナウ』をもとに吃音親子サマーキャンプについて紹介してきましたが、よくまあ、こんなに、自分で書くのもおこがましいですが、すごいキャンプを、良い仲間たちと続けてきたものだと、改めて幸せな気持ちになります。
 昨日の大阪吃音教室は「どもり内観」でした。これはナラティヴ・アプローチにも通じる僕たちだけの取り組みで、とてもおもしろいものです。吉本伊信の内観法を吃音に活かし、「どもりさん」の身調べをしていきます。
 1 どもりさんにしてもらったこと
 2 どもりさんにして返したこと
 3 どもりさんに迷惑をかけたこと
 15分ほど、この三つの項目で振り返ります。一人ずつ出されたことをホワイトボードに書いていきますが、とても書き切れないたくさんのものが出ます。「どもり内観」については、また、大阪吃音教室の講座の紹介で書きたいと思います。
 「どもりさん」のおかげで、僕は、いい仲間と、吃音という、唯一無二のライフワークに出会いました。これが、どもりさんに「してもらったこと」です。そして、どもりさんに「して返したこと」が、この吃音親子サマーキャンプです。「どもり内観」を通して、キャンプや大阪吃音教室に集まり、吃音について豊かに語り合える幸せを、みんなで感じた、昨日の大阪吃音教室でした。

  
話し合いの場を成り立たせる難しさ

渡辺 : 話し合いの場を成り立たせる難しさって、何でしょう。伊藤さんは、今、文化ということばを使われましたけれど、話し合いの時間をとって、円になって、学年ごとに話し合いをしていますというだけだったら、伊藤さんが書かれているものを読んだら分かる。でも、ほかの所ではそれを成り立たせにくいものにしている。ここでの話し合いの文化とは一体どういうものなのか、それぞれ、話し合いについて思うことや印象に残っているエピソードがあったら、聞かせて下さい。
東野 : 大阪吃音教室では、どもる当事者同士が悩みを分かち合い、課題にどう対処していくか、どう生きていくか、話し合います。このキャンプの話し合いには、必ずどもる大人の当事者とことばの教室の担当者、言語聴覚士、教育関係者などが入っています。当事者が入っていると、話をする子どもたちにとっては、話しやすい気がしますけど。同じような体験をしない人に話をしても伝わらなかったり、理解されない部分もあるので、大人の当事者がいると、「それ、よく分かる」「こういうことやろ」と、応答ができる。
渡邉 : 話し合いをする時、信頼関係が大事だと思います。初めて会った人に、自分のことを語るって、すごいことだと思うんです。だから、子どもたちが、自分のことを話してくれるとき、信用してくれているんだな、話してみようと思ってくれたんだな、と感じています。ここに来ると、どもりのことを話すものだと思っているリピーターの子どもたちが話を始めるから、初めて来た子も話してみようかなと思うし、どもる大人が入っていると、体験を話してくれることもある。それと一回目の話し合いより、作文を書いた後の話し合いは、なんか違っている気がします。作文で自分と向き合い、自分のことを考える時間がとってもよかったのかなあと思います。スタッフの側が参加者である子どもたちの語る力を信じているから、話し合いをメインにできるのかなと思います。
伊藤 : このキャンプに来る前は、渡邉さんはことばの教室で、どもりについての話し合いを子どもたちとしていたの?
渡邉 : どうしていいか分からないから、とにかく、子どもと仲良くなろうと思って、ひたすらピンポンをやったり、ゲームをしたりしていました。どもることについて話したり聞いたりしていいのかなという不安がありました。ここに来たら、自然に話し合いをしていて、あっ、そうなんだと思って、それからは話し合いができるようになりました。子どもたちと話し合いができなかったのは、初めて会った相手と話し合いなんてできないと、勝手に思っていたのかもしれない。
渡辺 : 東野さんがおっしゃった点に関してはどうなんですか。当事者の力とか、当事者じゃないとできないとなると、
渡邉 : 当事者でないと分からない点もあるのかもしれないし、大人の当事者の体験を聞きたいということもあるかもしれないです。私が何年もしていることばの教室に、担当者としてどもる当事者が来たんです。一回目のグループ学習で、「この先生も、どもるんだよ」と言ったら、何年も一緒にやっている子どもたちが、ぱっとその人の方を見て、「先生、どもるんですか?」と、一瞬で通じていた。負けたと思いました。でも、そこからまた私の力で取り返しましたけどね。どもる人がいるのはいいことだと思うけれど必須ではない。どもらない私ができるとしたら、私はどもる経験は話せないけれど、こうして多くのどもる人と出会ったことで、その話をすることができる。こんな経験をした人がいたよ、こんなふうにがんばっている大人がいるよ、こうして乗り越えてきたんだって、と伝えることはできる。でも、こういうキャンプに来ないとそれはできなかったかもしれません。私は、皆さんと出会ったことで、いきいきと毎日を過ごしている人、がんばっている人がいることを伝えることができる。ひとりじゃないんだよということも伝えることができる。それは、どもらない私でもできることです。
坂本英樹 : キャンプの構造についてですが、このキャンプは2泊3日ですよね。1泊2日だと、子どもと親が来て、次の日に一緒に帰っていくが、2泊だと、真ん中の1日は、子どもだけの世界ができる。そこで、子どもたちのセルフヘルプグループができて、知的な活動をする。他の子と仲良くやっていけるだろうかと思った我が子が、実にいきいきと、いろんな子どもたちと関係を作って、たくましく活動している、その姿を見て親は安心できるし、スタッフも子どもたちはすごいなと思う。たとえば、今のこの時間、これだけの長い時間、子どもたちはよく聞いてますよね。聞く力があるということです。たとえば、どもってなかなかせりふが出なかった子が、一番せりふが多い役をとるんです。僕はやる!という力があるということであり、それをスタッフが感じ取ることができる。だから、話し合いのときも、待つことができる。私たち学校の教員は待てない。すぐ子どもの中に入っていって、効率よく回していこうとする。でも、ここは、子どもには力があると信じているから、不確実性に耐えることができて、待つことができる。その中で、子どもたちは信頼してもらえているからしゃべることができる。対話ができ、話し合いができるということだと思います。
伊藤 : 特別ということでは、ここは2泊3日です。それにこだわるのは、今、坂本さんが言ったように、3日はどうしても必要で、3日あるから、話し合いもできるし、劇もできる。1泊2日だったら、劇はできないし、話し合いも2回はできない。僕がこだわったのは、1回目の話し合いをして、一晩寝かして、翌日、作文を入れることだった。1回話し合って自分をみつめて、今度はひとりで作文を書く。それも90分という長い時間、自分をみつめる。そして、またもう一度話し合いをする。
 このように、サンドイッチにしたことで、徹底的に吃音に向き合うことができた。このように組んだことはよかったと思います。一人で、自分の課題に向き合うというのは、実は大変で、ひとりで90分の作文を書いていると、過去の苦しかったことや辛かったことを思い出して、泣き出す子も出てくる。25年くらい前、高校生が作文を書いているときに泣いて次の話し合いには参加できなかった。「気持ちが済むまで、散歩してきてもいいよ」と言った。それで、彼女は2回目の話し合いには参加しなかった。その後、彼女は帰るかもしれないと思ったけれど帰らなかった。彼女は演劇がしたかったらしい。帰ろうという気持ちも強かったけれど、最後の演劇を見届けないと悔しいと思って、彼女は最後まで残った。その頃は、話し合いが3回あったんですよ。90分、120分、そして最後に60分あった。そのときは、卒業式がなかったから、話し合いの時間をとることができた。
 話し合いと演劇の2つがあることが特別だといえる。話し合いは苦手だけれども、演劇は楽しいからする、また反対に演劇は嫌だけれど、話し合いは好きだとか、2つがあることが、特別なことなんじゃないかなと思います。だから、プログラムは上等じゃないかと自画自賛しています。
浜津 : ここのキャンプは、話し合いがあって、中に作文がある。劇の練習もあって、吃音と真正面から向き合わないといけない。これまで向き合えていなくても、ここでは強制的に向き合わないといけない。でも、そういう環境に入っているからできる。同じ状況でがんばっている友だちがいるし、自分の悩みとは全然違うところで悩んでいることもある。自分よりももっと悩んでいる話も聞く。いろんな話を聞くことによって、子ども自身も成長できるし、話を聞いている大人も成長する。このキャンプには、いろんな要素が詰まっていて、いいのかなと思います。
渡辺 : 話し合いで何か印象に残っていることってある?
浜津 : 僕は昔、音読が大嫌いだったんです。でも、音読が好きだという子どもがいて、僕からしたらあり得ない話で、なんで好きやねん、好きなはずないやろと思っていた。僕と180度違う。人前で話をすることも、その子は、平気だと言う。普通の会話の方がどもってしまうらしい。僕が一番びっくりしたのは、恋愛の話で、どもっている方が、一生懸命言ってくれていると感じるかもしれないよということばです。ずっと残っています。
東野 : さっきの補足を兼ねて言います。僕が最初に話し合いのグループに入ったのは、中学生グループでした。1回目か2回目だったと思います。5、6人の中学生がいましたが、シーンとなったままで全然発言してくれないんです。沈黙がずっと続きました。後から考えると、僕は教員ではないので、普段、子どもたちと関わっていないので、接し方に慣れていなかった。また、僕自身が人とコミュニケーションをとるのが苦手ということもあった。さっき、僕は、どもる人が話し合いに入ると、とてもいい効果があると言いましたけれど、それは、どんな人でもいいというわけではないんです。ここに来ているどもる当事者でスタッフの人は、ちゃんと話が聞ける人です。浜津君が言いましたけど、どもる人はひとりひとり違います。音読が苦手な人がいるかと思えば、音読が得意の人もいる。ひとりひとりが違うことをちゃんと知った上で、また、吃音をしっかり大阪吃音教室で勉強した人がスタッフとして来ています。だから、話し合いに入ったときに、自分とは違うからちゃんと話を聞こうとなるし、あなたのどもりの話を聞かせてね、と言える。それと、今、どもりで悩んでいて、どうしようもない闇のまっ只中にいる、悩んでいるどもる成人の人には、スタッフとして入ってもらっていません。自分の吃音のことを客観的に、肯定的にとらえることができる人に限っています。どもる人だったら誰でもいいということではないということを補足しておきます。
渡邉 : 話し合いの時間が好きな子がいました。多分、浜津君たちと同じ年頃だと思うんだけど、話し合いの時間が足りないと言って、夜遅くまで話し合っていたよね。夜は寝なさいと言われて、夜がだめなら、朝早く起きるのはいいですかと言って、朝早く起きて話し合っていたよね。
浜津 : 普段、みんなと話がしたいけど、どもってみんなのペースについていけない。けれども、話したいことはいっぱいあるんです。キャンプに参加するまでの1年間のストーリーがあって、それをたった1時間から2時間の話し合いでできるわけがない。みんなのどもりについての話と、どもり以外の、今、こんなことがんばっているとか、こんなことが辛い、こんなことがあったんだという話も大事にしていました。だから、夜遅くまで話していたんですね。スタッフもある程度大目に見てくれていたのかもしれないけれど、いっぱい話をしていた記憶はあります。
伊藤 : 昔はね、大目に見ていましたよ。でも、スタッフの老齢化がすすんできたので、スタッフの睡眠を確保しないといけないから、最近は消灯時間を守るようにしています。
渡辺 : さて、そろそろ時間です。職場などでキャンプでの経験がどうつながるのかという興味深い質問もあったのですが、それはまた、今後のキャンプの機会に聞いてもらえたらと思います。じゃ、この時間、ここらで区切りにしたいと思います。(2020.1.20) (了)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/10/24