第30回吃音親子サマーキャンプ最終日の午後のプログラム、トークセッションのつづきです。

   
吃音親子サマーキャンプとは何かを伝えるとき

渡辺 : なるほど。伊藤さんの怨念から始まった劇が、こんなにいろんな形で話し合いできるなんて、おもしろい。続いて、「このキャンプのことを、キャンプ関係者以外に伝えるときの難しさ」。キャンプに来ている者同士だと通じ合えるものがあるけれど、キャンプに来ていない他のどもる子どもやその家族にしゃべったり、あるいはどもりと全然関係ない家族にしゃべったり、ことばの教室の先生がここに来たことのない同僚にしゃべったり、そんなとき、多分、難しさというか、伝えられる部分と伝えられない部分があるかと思うんです。
 私自身、ある意味、門外漢的な形でかかわって、だからこそ、キャンプの中の世界と外の世界のつなぎ目になろうと思って原稿を書いて、キャンプのことを発表してきたりもしてきたんですが、それでも、私自身、キャンプの中にずぼっと入ってしまっているから、外に向けて発信しようとして、改めて原稿を書くときの難しさを感じたりしています。ほかの人を誘うときに、「携帯、持ち込み禁止なんて、なんか変な宗教集団?」みたいに思われたり、「えっ、キャンプに行って話し合い?」と思われたり、難しさがあると思うのですが。キャンプのことを伝えたときに感じた難しさ、難しさなんて感じたことないよとか、そもそも伝えること自体怖くて伝えていないとか、近くの人としゃべっていただけますか。(少し待つ)はい、そろそろ時間を区切りましょうか。こんな話が出たよとか、ぜひ紹介したいと思うこととか、どうぞ。
森田 : 私の場合、吃音を周りに話していないので、そこから説明しなくてはいけない。また、キャンプだと野外活動と考えられるので、キャンプのことばを使わないで説明しないといけない。
伊藤 : 昔は、野外活動もしないし、テントを張るわけでもないから、吃音サマースクールだった。京都の児童福祉センターの言語聴覚士数人と一緒に始めたのが最初です。言語聴覚士たちは、どもる子どもは、それでなくても、日頃ストレスを感じ、しんどい思いをしているから、演劇や話し合いなどのしんどい活動でなく、楽しく、遊びを中心にしようと言う。僕は、与えられた楽しさは、一瞬の楽しかったで終わってしまうけれど、本当の楽しさは、ちょっとしんどいことにチャレンジしてやり遂げ、そこでじわじわと湧いてくる、私にもできたいう喜びが楽しさに転じることが大事だと思っていた。だから、最初から話し合い、劇を入れていた。その意見の食い違いからか、向こうが忙しくなったからか、分からないけれど、向こうが離れていったときから、吃音親子サマーキャンプという名前に変わったのかもしれない。
渡邉 : 私は、毎月、ことばの教室でグループ学習をしています。9月は、少し時間をもらって、ホームページから写真をとり、スライドを作り、キャンプの報告をしています。一度、ことばの教室に通っている子が、私と一緒に、キャンプに来たことがあります。その子が、グループ学習で、キャンプの報告をした。子どもたちは、私が毎年報告しているのに、「ほう、へえ」と、初めて聞くみたいに聞いていたの不思議だった。子どもは同じ子どもから聞きたいのかなと思った。私はことばの教室の先生だから、ことばの教室の先生に伝えるときには、なんとなく伝わるのかなあと思う。子どもが子どもに、お母さんがお母さんに、そういう同じ立場の人が同じ立場の人に伝えていくことで伝わるのかなあと思いました。
渡辺 : 夏休みのイベントみたいなイメージとのギャップも、伝わりにくさなのかなとも思います。伊藤さんは、このキャンプは特別だとよくおっしゃるけれど、どういうところが特別なんでしょう。
伊藤 : どもる人で、どもりを話題にしたくない人は少なくありません。僕も、昔、どもりを否定的に考えていたときは、どもりということばも大嫌いでした。ところが、1965年に東京正生学院で、30日間の合宿生活をしたときに、聞きたくもなく言いたくもなかったどもりについて語り、それをみんなが一生懸命聞いてくれる。また、苦しかったことを話して、お互いに笑うという経験は初めてだった。僕たちにとっては、最初は話題にしたくもなかったことだけれども、それを聞いてくれる人たちがいれば、ほんとは話したい。自分を語ることで、客観的に整理することができるし、他の人の体験を聞くことによって、こういう考え方もあるんだなと新しい価値観に出会える。これは絶対キャンプには欠かせないと思って入れました。話し合いは、最重要のテーマです。
 僕が講師として関係しているキャンプは、島根、静岡、岡山、群馬、沖縄、千葉ですが、1泊2日か1日で、それぞれに、特徴がある。それらのキャンプのスタッフで、滋賀のキャンプを経験した人がいる所は、話し合いを中心に置きます。今年21回目となる島根のキャンプは、話し合いや吃音についての作文の文化が根づきました。4回目の沖縄も、3回目の千葉も、滋賀のキャンプに参加しているスタッフがいるので、話し合いの時間を特別に大切にしています。吃音についての話し合いや作文などで、吃音に向き合うことにを徹底しているというのが特別かもしれません。(2020.1.20) (つづく)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/10/22