吃音の中学生・高校生の話し合い
昨日の続きです。第4回吃音親子サマーキャンプのドキュメントに続いて、子どもの話し合いの様子を紹介します。ひとりひとりの発言が丁寧に報告されています。また、ひとつの話題で、子どもたちとその中にいるファシリテーターのどもる大人が対等に話をしていることが分かります。そして、よりよい人間関係をつくるための体験学習までしていました。僕たちは、吃音についての話し合いの時間を大切にしてきました。僕たち自身が、吃音について語ることで自分の生き方をみつけていった経験があるからです。
第4回吃音親子サマーキャンプ(1993年)
会場 京都府綾部市 聴覚・言語障害者総合福祉センター「いこいの村」
参加者 39人
第4回吃音親子サマーキャンプの報告は、明日の、その3に続きます。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/8/23
昨日の続きです。第4回吃音親子サマーキャンプのドキュメントに続いて、子どもの話し合いの様子を紹介します。ひとりひとりの発言が丁寧に報告されています。また、ひとつの話題で、子どもたちとその中にいるファシリテーターのどもる大人が対等に話をしていることが分かります。そして、よりよい人間関係をつくるための体験学習までしていました。僕たちは、吃音についての話し合いの時間を大切にしてきました。僕たち自身が、吃音について語ることで自分の生き方をみつけていった経験があるからです。
第4回吃音親子サマーキャンプ(1993年)
会場 京都府綾部市 聴覚・言語障害者総合福祉センター「いこいの村」
参加者 39人
子どもの話し合い
1日目の夜の3時間と2日目の昼の3時間の合計6時間が、メインのプログラム、子どもの話し合いである。2日間を振り返る。
§どもりの悩み
A子(中学3年)
じゃんけんで負けて、学校のキャンプの出発の時の挨拶をすることになった。ここでやめたらバカにされると思い、練習もしてがんばったが、よくどもった。恥ずかしい思いをしながらも、最後まで言い切ったが、「ご苦労さん」との友だちの嫌みなことばで、その日1日恥ずかしい嫌な気持ちで過ごした。
B男(高校3年)
自分の書いた作文が選ばれて、校内放送で発表されることになったが、どもって友達を失うことを恐れ、断った。そのため別の人が発表することになったが、あの時逃げたとの思いが今も残っている。
また、同じクラスにどもる子がいた。本読みは大丈夫なのだが、日常会話ではどもるという僕と全く逆のタイプだった。クラスのみんなは僕には理解があったが、その子には「なんでそんな喋り方になるんや?」としつこく聞き、その子はだんだんとおとなしくなり、やがていじめられるようになった。僕はその子の気持ちが痛いほど分かったが、一言も声をその子にかけられなかった。
C男(高校2年)
小学校時代は友達もいたが、中学になって、誰も寄ってこなくなった。どもりだけが原因ではないだろうが、友達は一人もなく、ただ、学校と家の往復だけだった。二つのクラブに入ったが、友達がいない孤独に耐えられなかった。自分の孤独を恥じ、恥じ入れば恥じ入るほど、ますます、孤独感が募った。このように、僕のどもりの悩みはほとんど人間関係だった。
D男(高校1年)
小学校の時、「早く言い! 私は待てへんで!」と先生に言われた。ショックと悲しさと悔しさで涙がぼろぼろ出た。別の先生には、算数の答えを言っているのに、無視され、からかわれた。中学校の時はひどいいじめにあった。ケンカには自信があったので、暴力的ないじめはなかったが、僕の一番弱い、どもりのことでのいじめがひどくて、精神的にまいってしまい、胃が痛くなったり、頭痛がしょっちゅうし、学校へ行けなくなった。
以上、挙げたのが、今回参加した子どもたちがプログラムのひとつ「文章教室」で書いた、自分史のごく一部である。それぞれに、どもることでつらい体験を積み重ねていることを伺い知ることができる。
連続して参加している子どもは、初めて参加した時、どもりは自分だけかと思っていたのにどもる人がこんなに沢山いてほっとした、気が楽になったと言う。今回新たに参加した子どもも、ひとりじゃなくて安心したと、まず、そのことにふれた。
辛い体験を、どもりを理解してくれる人、同じ悩みを持つ人の前で話し、受け入れられる。どもっていても、平気で聞いてくれる、平気でどもれるという場で子どもたちは少しずつ心を開いていくのである。ふれあいスクールでは、これら子どもたちが書いた自分史をもとに話し合うこともあるが、今回は、前回も参加した子どものこの一年の様子や、今どもりに関して知りたいことは何かなど、子どもからの自主的な発言を待った。
連続して参加しているT君が、自分がいかにこのふれあいスクールによって変化してきたかを語ると、前回参加している子どもが最近の変化について話し始めた。
☆どもりの症状に大きな変化はないが、気持ちの持ち方が変わった
☆今までなら言いにくいことばを使わないで話していたけれど、今はそのことばを使ってでも、どもってでもしゃべろうとしている。学校の教科書を読むのは嫌だけれど、昔よりは楽になった。今までだったら嫌なことは避けてきたけれど、今は前向きに考えているので、充実感がある。
☆中学校の時、ほとんど友達はいなかったが、高校に入って運動部に入ったので友達ができた。
これら一年間の近況を報告し合った後、どんなことでも、今この場で話したいこと、知りたいことがあったら出すように促すと、T君がスタッフに「高校時代、彼女がいましたか」と質問してきた。このような話題を出すこと自体、どもりに悩み、死にたいと言っていたT君にとって、大きな前進だといえよう。
§異性の友人関係
異性の友人について、スタッフも自らの体験を話すと、子どもたちは口々に、学校生活の中での異性の存在の大きさを語った。
中学時代は、男女共学だったので、どもるたびに男子からからかわれたと言う女子は、男子が怖いし嫌いだったが、女子校に行って随分気持ちが楽になったと言う。しかし、やはり異性の友達は欲しいと言う。男子校なので女性を意識しないでいられるので楽だと言った男子もいたが、異性の存在がどもりにかなり影響を与えていることが分かった。
何故、このような質問をしたかに話がいき、T君は、恥じらいながらも次のように話し始めた。
「彼女じゃないけれど、女の友達がいる。最初は別に好きじゃなかったんだけど、友達として付き合っているうちにだんだん好きになった。そのことを伝えたいと思うけど、それを告白すれば、もしあかんかったらそれからはその子としゃべれなくなるし、それは友達をなくすことと一緒やから今迷っている」「こういう女友達ができてから、ええことじゃないと思うけれど、かっこをつけたいから、どもりのごまかし方がうまくなった」「その場になれば結構どもりのごまかしはうまくいくが、ものすごく疲れる」こう言うT君に、「疲れるけれど、楽しいから一緒にいたいんかな。それで、今の方針で続けるんですか」「それは辛いなあ。しんどいなあ」などと周りはかかわった。それに対して「しんどくても会って楽しいという方が大きいから」とT君が答えた。いろいろ意見が出される中で、「どもりたくないと、仮面をつけたような付き合いよりも、どもっているそのままを受け入れてくれての付き合いの方が楽だし、楽しいのではないか」との意見に何人かがうなずいていた。このような話を聞いて、来年T君がどう変わっているか楽しみである。
これら異性の友人関係の話し合いの中から学校での人間関係全体について話が進んでいく。
「クラスの中心的な存在に自分がなったらええんや」
「活発になることじゃないかな。例えば、球技大会などで先頭に立ってがんばるとか」 「どもっていても、にこにこして自分から話しかけていけば友達はできるで」
「僕がうまいこといったきっかけは、高校に入って最初の遠足があり、バスで行ったけど、カラオケがあった。誰も歌わなかったが、僕が一番最初に歌った。それですごく盛り上がってそれから僕がクラスの中心的存在になった」
このような体験が話され、人間関係がいい方向に向かっていけばどもりの悩みが随分小さくなってくる、どもりの悩みから多少なりとも抜け出すコツは人間関係かなあ、などの意見が出された。
どもっていても人間関係がよければ、どもりはあまり大きな問題とはならないとの共通認識ができて、1日目の話し合いは終わった。
§体験学習
前日の話し合いを受けて、2日目は、友達を作るということ、つまりよりよい人間関係を作るための体験学習をすることにした。それは、学校生活を楽しくさせるというだけでなく、今後社会生活を営む上でますます重要になってくるからである。どもっている僕たちだからこそ、よけいに、今の中・高校生時代によりよい人間関係を作るためのトレーニングをしておかなければならない。よりよい人間関係を結ぶための5つの要素
1)健康的で明確な自己概念を持つ 2)感情を適切に表現する 3)人の話を傾聴する
4)適切に自己を主張する 5)自己を開示する
についてそれぞれ体験的に学習をした。特に、自己主張については、ロールプレイによって◇ノンアサーティブ、◇攻撃、◇アサーティブな表現の区別を学習し、はっきりと「ノー」と言う実習では、初めて大きな声を出したと言う子どももいた。ジョハリの窓を使って自己を開示することの大切さを確認し締めくくった。(了)(1993.10.28)
第4回吃音親子サマーキャンプの報告は、明日の、その3に続きます。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/8/23