「エール」と弱さの強さ

 これまで全く見たことがなかった朝の連続テレビ小説ですが、今、放送中の「エール」は、主人公の小山裕一(作曲家の古関裕而がモデル)がどもっていると教えて下さる方が何人もいて、初めて見ました。子ども時代の子役も、青年期を演じる窪田正孝も上手にどもっています。子どものときは、朗読の時に笑われたり、からかわれる描写もありましたが、愛されていると実感できる家族と、大好きで得意な音楽があるから、何の問題にもなっていません。また、恩師にあたる藤堂先生の「人よりほんの少し努力するのがつらくなくて、ほんの少し簡単にできること、それがおまえの得意なものだ。それがみつかれば、しがみつけ。必ず道はひらく」とのことばも、印象に残りました。
エール 新聞記事 その「エール」について、朝日新聞記事に小さなコラムがありました。斉藤道雄さん関連で、【「弱さ」を社会にひらく】という文章を紹介したばかりなので、よく似たタイトルに惹かれました。
 僕にとっては「弱さ」は自分を語り、見つめるキーワードであり続けています。弱いということを自覚したとき、弱さはしなやかさに変わる。それが、どもりと共に生きることにつながるのではないかと思いました。主人公・窪田正孝演じる小山裕一は、どもっていますが、人柄とマッチして少しの違和感も感じません。どもることは恋や友情、仕事に全く障害にはなっていません。さわやかなどもり方は、まねをしたくなるほど心地よいものです。周りに恵まれ、好きなこと、したいことがあれば、吃音は何の障害にもならないことを、あの時代でも証明してくれているようです。
 新聞記事を紹介します。

   
「エール」と弱さの強さ
 「弱さの強さ」。今春始まったNHKの連続テレビ小説「エール」を見て、その言葉の意味を考えている。主人公の小山裕一(窪田正孝)は、作曲家・古関裕而がモデルだ。ただドラマは、昭和の天才作曲家というより、「弱い人」の印象が強い。
 裕一は幼少期、運動音痴でいじめられっ子だった。商業高校でも落第を経験し、レコード会社でも苦労する。「頑張れ」と応援しながら見ていると同時に、彼の弱さに共感し、一生懸命な姿に元気をもらっている。
 裕一の恩師・藤堂清晴先生(森山直太朗)の言葉は、視聴者にも救いを与える。話す際、言葉が詰まる裕一に「歩く速さも違う。話し方も違う。違いを気にするな」と伝える。また、裕一の音楽の才能についてはこう話す。「人よりほんの少し努力するのがつらくなくて、ほんの少し簡単にできること、それがおまえの得意なものだ。それが見つかれば、しがみつけ。必ず道はひらく」
 古関は、前回の東京五輪の開会式の入場行進曲「オリンピック・マーチ」の作者だ。志村けんさんを死に追いやったコロナ禍がなければ、今頃は、日本中が五輪一色の雰囲気だったに違いない。五輪のモットーは「より速く、より高く、より強く」で、裕一の姿とはほど遠い。だが彼は、音楽とともに弱さで人々を応援していると思う。(宮田裕介)
         2020年5月29日 朝日新聞 記者レビュー


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/5/30