吃音についての真摯な対話〜国立特別支援教育総合研究所で

 3月2日、国立特別支援教育総合研究所の第三期専門研修の吃音の講義がありました。ずいぶん前から、毎年、呼んでいただいています。
 新型コロナウイルスによる肺炎の影響を受け、来所に不安があれば申し出てほしいというメールを事前にいただきました。いろいろなイベントが自粛されている影響でしょう。当然、不安もありませんので行きました。真剣に、言語障害のこと、吃音のことを考えていて下さる方と、少人数でじっくりと語ることのできる、僕にとってとても大切な場です。
 前日入りのため、伊丹空港から羽田に向かいました。梅田から空港へのリムジンバスの乗客は、4人。さすがに驚きました。空港も閑散としていました。乗る予定の飛行機が整備不調で遅れていますのアナウンスがあり、それはよくあることなのですが、突然「欠航になりました。キャンセルの払い戻しか、別便予約のために窓口にお越し下さい」のアナウンス。ほとんどの乗客が1時間後の次の便に乗れたということは、整備の遅れではなく、乗客が少なく、経費の関係で、1時間後の便にまとめたのだと想像します。いつものことながら、説明不足にはあきれるばかりですが、行けたことでよしとしましょう。
 
 前日、よく眠れなかったので、ホテルではしっかり寝たいと思っていましたが、また、3時頃に目が覚めてしまいました。以前は、このようなことが時々あったのですが、最近はそんなことがまったくなくなっていたのに、久しぶりのことでした。新型コロナの影響で、政府に腹が立っていたからでしょうか・・・・

 受講者は、11人。スクール形式のスタイルだったのを、机を移動してもらい、全員が顔を合わせられるような席にしてもらいました。僕の横にも受講生が座っているという、まさに、膝をつき合わせながら、丸1日の講義が始まりました。僕は、質問してもらうのが好きで、質問に答えているうちに、僕の脳が活性化していくので、今回も、「どんな質問でもいい。どんなことにも答えるから、質問してほしい」とお願いしました。
 90分ほど、最近僕が考えていることを話した後は、すべて質問に答える形ですすめていきます。ひとり4枚の質問用紙を配りました。現場での経験がある教員ばかりですから、経験に基づいたいい質問をたくさんして下さいました。僕は、たくさん本を書いていますし、講演記録や資料があります。でも、そのような、すでに書いたことを話すより、今、この場でのライブ感覚を大切にしたいと思いました。みんなが書いてくれた質問一枚一枚を読み上げ、質問の意味を確かめたいときは質問し、僕の体験、僕が出会ったたくさんのどもる人やどもる子どもたちの体験を紹介しながら、50年以上考えてきたことをお伝えしました。
 たくさんの配布資料は紹介だけして、また、用意したたくさんの枚数のパワーポイントも2枚のスライドを使っただけで、生の声で話しました。後で読んでもらえれば分かるようにしてあるので、理解して下さるだろうと思います。
久里浜集合コロナの影響で午前中の講義がなくなったからと、飛び入りで参加した別のコースの人も含めて、皆さん、熱心に聞いて下さいました。僕も、気持ちよく、話すことができました。僕の考えは、少数派です。でも、実際にお話すると、聞いてくれた人はちゃんと理解してくれます。伝わっているということを実感できます。
 書籍や冊子や文字だけでは伝わらない肉声の強みがあるのでしょう。どこかの国のリーダーは、国民に犠牲を強いるような大切なことでも、一方的な演説で終わらせ、対話することから逃げます。繰り返しになりますが、僕の吃音に対する取り組みや考えは、超少数派です。直接的な対話以外に伝わりません。大きな会場での講演も大事ですが、こうした小さな集まりで話すことの方が僕は好きです。辻説法のように続けていくしかありません。話すことがどう伝わっているか、ダイレクトに、反応として返ってきます。このように直接出会って、話すことのできる機会を今後も大切にしていきたいと思いました。
 今回、「伊藤さんは、本音で話してくれた」ということばをよく聞きました。本音でしか、というか本音しか話せないだろうと僕は思うのですが、このようなことばを聞くことは、自分の本音よりも、学術論文的な話もあるということでしょうか。これまでも、これからも、僕は、僕の体を通して考えたことを、正直に、率直に語っていこうと思います。

 国立特別支援教育総合研究所の牧野泰美さんは、講義の後、僕が新幹線で大阪に帰るぎりぎりの時間まで、居酒屋で食事をしながら受講生と話す時間を設けてくれます。今回も14名の人が参加してくれました。講義では触れなかったことを質問をしてくれ、僕にとってはプライベートなことも話せるいい時間です。みんなも喜んでくれたのか、アイドルのように、スマートフォンによる僕とのツーショットの撮影タイムもありました。

 夏の「親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会の紹介をしましたので、何人かとは再会できるかもしれません。帰りは新幹線を使いましたが、僕が乗った車両には、5人くらいしか乗っていません。いつもならほとんど席が埋まっているのに、とても不思議な感覚でした。これも新型コロナの大きな影響なのでしょう。一人一人の受講者の顔を思い浮かべながら、眠ることなく大阪に着きました。
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 講義後の集合写真と居酒屋での写真を、2人の方が送って下さいました。ブログで紹介することの了解は得ています。せっかくなので、送っていただいたもの全て、使わせていただきました。


日本吃音臨床研究会会長 伊藤伸二 2020/3/4