群馬吃音キャンプ 若い人たちとの対話 6

  全校生徒の前でどもることに不安になっている君へ

          
参加者 僕は、来月から高校の生徒会の役員をやることになっているんです。

群馬キャンプ2日目 伸二伊藤 ほう、自分から立候補したの?
参加者 今まで、僕は、手伝いとして生徒会に携わっていたんですが、今回、欠員が出て、役員になってくれと言われて役員になるんです。今までも、生徒会の手伝いをやっているときに、マイクを持って、みんなの前でしゃべらないといけないことがあったんですけど、先生に吃音のことを言って、他の人に回してもらっていたんです。でも、今度、役員になったら会計の役割になるので、決算とか今年度の予算を言わないといけなくて、これは、先生に言ってほかの人に回してもらうのができなくなると思うんです。「どもってもいい」とは思っているんですけど、マイクをもって、みんなの前でしゃべるのが怖くなっていて・・・・
伊藤 怖いよね、そりゃそうだろう。
参加者 今、それが悩みで、他の人に回せないし、でも、しゃべらなきゃいけないし、どうしようかな。
伊藤 そうか、悩むよね。どうしようかと迷っている段階ですか? ということは、やってみようかというのと、嫌だから誰かに代わってもらおうかと思っているのと、半々くらい? どっちかが上ということはないの?
参加者 やってみようかなというのがちょっと上にあるんです。でも、どうしても、怖いというか、
伊藤 そうか。僕は、半々だったら、どっちでもいいと思うよ。逃げてもいいし、やってもいいし、でも、君が、やってみようという気が少し上回るのなら、挑戦してみる価値はあると思うよ。会計がマイクで言うの?
参加者 生徒総会の場で、生徒が学校をこういうふうに改善してほしいというのを言うのですが、そのときに、今までの生徒会の活動の報告として、昨年度の決算額を会計がマイクを持って言うんです。
伊藤 ということは、人数がいっぱいいるわけ?
参加者 全校生徒の前です。
伊藤 すごい高校だね。
参加者 だから、会計役の役員は、それはどうしても避けられない。
伊藤 会計をすることは、みんなの前でマイクを持ってしやべることで、そうなると、どもるということは予測できるよね。そういうことを予測できたとしても、なんとかやってみようという気はあるの?
参加者 はい。
伊藤 ほう、すごいね。だったら、挑戦したらどうかな。参考になるかどうか分からないけど、消防士の話をするね。消防士になりたいけれど、こんなにどもる僕でも挑戦してもいいかどうかと相談があった。本当にしたい仕事なら、挑戦した方がいいと勧めて、彼は消防士になった。その彼の話は群馬のキャンプでも何回かしたよね。初めての人もいるので、少し話すと、「そんなにどもっていて、市民の命が守れるのか。消防学校の時代に吃音を治せ」と言われて、悩んだけれど、僕たちが支えて、彼は消防士になった。どもることで苦労もあったけれど、5年間、消防士として働き、昇進もして、昨年実績が認められて、本庁の司令室に配属された。司令室は、119番の電話を全部そこでとって、聞いて、各消防署に指令を出すところ。彼は、消防署なら、名前が言えないなど苦労はあるが、なんとかやれてきたけれど、司令室は、ことばだけで指令するところで、いくらなんでも無理だと思い、上司に、人事を変更してほいとお願いした。けれど、もう人事は決まっているので変えられないと言われ、すごく不安を持ちながら、去年の10月から司令室に入った。つらかっただろうと思う。3月の人事の季節になっても、異動はなく、今もそのまま司令室にいる。いろいろあるけれど、がんばっているとこの前、メールがきた。上司に恵まれて、なんとか司令室でがんばってるらしい。
 彼が滋賀での吃音親子サマーキャンプに参加したとき、ちょうど5年生の子が、なりたくなかったけれど放送委員になってしまい、自分のどもる声が全校に流れるのがとても嫌だと言った。そのとき、彼は「僕のどもっている声は、無線で、大きな市の全域の消防署に流れるんだよ。無線をとる人間は、みんな僕のどもりを知っている」と話してくれた。校内で自分のどもる声が響き渡るのと、大きな市全域に流れるのと比べて、学校だけならまだいいやと言った子がいた。

 参考になるか分からないけれども、僕は、小学生、中学生、高校生の間に、いろいろと挑戦してみて、いっぱい恥をかいたり、みんなに笑われたり、嫌な思いをしたり、そういうことをたくさん経験しておいた方がいいと思う。今のうちに、そういうことに慣れておくと、社会人になって、似たことが起こったときに、それを乗り越えられる力がつくんじゃないかな。

 笑われたりすることに対する耐える力は大事だと思う。ちょっとそのときは気分が落ちこむけれども、3日も4日も落ちこんでいたら損だから、一日くらいで気分転換がぱっとできるような練習を今のうちにやっていた方がいいと思う。
 だから、君がちょっとでもやってみようと思うのなら、生徒会の役員をやってみたらいいと思う。うまくいけばそれはそれでいいけれど、もしすごくどもって、自分では失敗したと思っても、なんとかしのいだ、耐えられた。マイクで自分のどもっている声が全校生徒に響き渡った。でも、なんとか逃げ出さないで、最後まで放送した。そのことは、覚悟を決めて挑戦したことだから、自信になると思うよ。どもらないで放送しようと思ってどもったら、それは失敗だけれど、どもってもいいとか、どもろうと思って放送してどもったとしても、それは失敗ではなく、会計報告したことが成功だと思う。
 少しは参考になりましたか。がんばってみて。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2019/12/28