出会いを大切に〜吃音講演会・相談会inにいがた〜

新潟講演 タイトル 会場の万代市民会館に着くと、家田さんはじめ、すでに何人か集まって、いすを並べ、会場設営をして下さっていました。申し込み不要なので、何人参加されるのか見当もつきません。僕たちからは、新潟や山形など、近隣のことばの教室に案内を出しました。家田さんたちも、新聞社を通じて広報していただきました。配布する資料のセットをしながら、どんな出会いがあるか、楽しみでした。受付の時間になると、少しずつ参加者が集まってきました。新聞社も2社、取材に来てくれました。
 家田さんの挨拶の後、僕の講演が始まりました。

 少数でも、自分の信念を大切にしている家田さんたとの仲間を応援したくて、今回の講演会・相談会をもちかけたということから話し始めました。また、先日、朝日新聞に掲載された記事についても触れました。取材を受けた藤岡さんを紹介しました。治らないものを治そうとすることがどれだけ苦しいことか、吃音と共に生きることを決めてから、今はよくどもるけれど、楽になったことなど、実在の人を紹介することができました。
新潟講演 会場全体2新潟講演 伸二 昨年の東京大学先端科学技術研究センターでの講演の準備の中での発見についても話しました。「どもれる体」になれた東京正生学院での合宿経験と、その後のセルフヘルプグループでの活動で得た共同体感覚について話しました。こうして出会い、僕の話を聞いてもらうことが、これから先何度もあるとは思えません。これが最初で最後という人もいるはずです。そう思うと、僕が考えていることのすべてを伝えたいと思いました。
 精神医療、福祉の世界が大きく転換している今、これまでの疾病生成論ではなく、健康生成論に基づき、幸せに生きるために何ができるか、どうしたらいいかを考えたいと思います。それが、人一倍どもりに悩み、苦しんできて、深く考えて、今、幸せに生きている僕の使命だろうと思います。
 与えられた時間いっぱいを使って、たくさんお話しました。お渡しした資料で補っていただけるでしょう。休憩後は、相談会。知りたいことを書いてもらって、それに答える形で、話しました。
新潟講演 会場前から
1.小1の子ども。おしゃべりが好きで、困っていることはないと言うが…。(ことばの教師担当者)
 ことばの教室は、吃音を学ぶ所だと位置づけ、どもりのことを話題にして一緒に勉強して欲しい。また、どもる子どもと一緒に、歌を歌って、ことばや声のレッスンもできる。子どもと相談して、ことばの教室で何をするか、一緒に考えることが、健康生成論の把握可能感、処理可能感、有意味感につながる。子どもと一緒に、指導の時間を構造化してもらいたい。

2.どもる人は電話が苦手だけれど、どう対処すればいいか。
 どもりたくないと思うから、電話がうまくいかないのだろう。電話で大事なことは、相手に分かるように要件を伝えること。大阪吃音教室の電話の講座を紹介しました。電話の前、電話中、電話の後に分け、論理療法を使って考えることを提案しました。

3.幼児期に育むことは何か。
 自立心、社会性を養ってほしい。自分の人生は自分でコントロールできるということを体験を通して身につけていってほしい。

4.人と信頼関係を築くには。
 これは自己肯定感と関係すると思います。相手のいいところはみつけられなくても、リスペクトすることはできます。好きにならなくてもいいから、相手の強みをみつけることから始めてみようと話しました。

5.ことばのレッスンをどんなふうにしたらいいか。
 日本吃音臨床研究会のホームページの「竹内敏晴さんから学んだ、ことばのレッスン」の動画を紹介しました。大きな声で、母音を意識しながら歌を歌うことをすすめました。

 その他、こんな質問も出ました。
6.息子のどもりについて。ほとんどどもっていないので、母としてこれまで気づかなかった。息子の心が折れている今、親として何ができるか。
7.伊藤の症状の変化について知りたい。
8.言語関係図について再度説明をしてほしい。
9.アドラー心理学の人生の課題について、もう一度聞きたい。
新潟講演 伸二、会場の中へ
 これらを丁寧に説明していきました。

 この講演会・相談会の後、新潟を出発して長期旅行に出かけました。大阪に戻ったら、家田さんから、アンケートのコピーが送られてきていました。このように、僕の話がどう伝わったのか、感想を聞かせていただくことは、話し手にとって、情報発信者にとって、何よりもうれしいことです。
新潟講演 会場全体2
  
感想 アンケートから
・伊藤さんのことは以前から知っていましたが、話は初めて聞きました。伊藤さんの存在は貴重です。もっともっとお聞きしたかったです。
・吃音とともに歩む、深いことばだと思いました。なんとすてきなことでしょう。
・人生の哲学を吃音から学びました。
・先日、小3の男の子がワークで、「あなたにとって吃音が治るとはどういうことですか」の質問に、三択で答える形式で、「吃音があっても、やりたいことをやり、言いたいことを言う。吃音にしばられない状態」に○をしていました。教師という立場上、子どもに何か教えてあげなければならないと思いがちですが、たとえ子どもであっても、相手をリスペクトしながらつきあうべきだと再認識しました。
・自分が吃音だと分かった最初の頃は、吃音のことが嫌でしょうがなかったけれど、今は悪い風に感じなくなった。逆に吃音のおかげで出会えた人がいるのでよかったと思っている。
・伊藤さんの話を初めて聞きました。本を読んでも分からないことがたくさんありましたが、実際聞ける機会があり、ありがたかったです。
・吃音は、ひとりひとり皆違うので、「一般的に」は、学習(基礎知識として)話題にするものの、もっと深く、その人の考え方、思い、価値観を対話して理解していくこと、対話をしてもいい相手として受け入れてもらうことを大事にしたいと思います。ひとりひとりのことを理解していきたいです。今日は、たくさんのエピソードが心に残りました。吃音についてもっともっと学びます。
・「吃音は神様からのプレゼント」という小学生のことばがとてもしっくりきました。ストレスを自分なりの力で乗り越えることは豊かな人生を送ることにつながる、ストレス課題は、人それぞれということと理解しました。
・来てよかったです。仕事上も、自分が生きる上でも、視点をいただきました。これからも励みます。
・社会の理解がとても大切だと思っている。特に教師に理解をすすめなければと思う。どもっていいのだという考え方がもっと広がるといい。健康生成論、これからの社会に大切な考え方だと思う。多様な人が認め合って生きていくことにつながると思う。合理的配慮について、本人の意思を大切にすることを忘れてはいけないと思った。


 午後5時、終了予定時刻ぎりぎりに終わりました。台風17号の影響が出始め、風も強まってきました。帰りの電車が運休して、大変だった人もいるようです。それでも、行ってよかったと言ってもらい、うれしかったです。

 終わってから、家田さんのその仲間で、懇親会を持ちました。少数派としての覚悟と、それでも信念を持って生きていくことを確認できた、いい時間でした。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2019/10/13