自分のことばで自分を語り、卒業していく子どもたち

 最終日、劇の上演の後は、恒例の卒業式です。
 毎年、卒業生がいます。今年も、2人の高校3年生が参加しました。卒業式をするようになったのは、12年くらい前でしょうか。小学校4年生のときから高校3年生まで欠かさず参加していた子が高校3年生になり、最後のサマーキャンプだと思うと、何か記念に残るものを渡したくなって、でも、事前に何も用意してこなかったので、劇のときに使うかもしれないと思って持ってきていた、青い色画用紙に、メッセージを書きました。最終日の朝、即興の卒業証書が完成し、渡したのです。
卒業式会場 その年以降は、恒例になりましたが、高校3年生だから卒業証書を渡すのではありません。条件があります。3年以上キャンプに参加していることが条件です。3年以上参加しないと、「吃音を否定せずに、吃音を言い訳の材料にしないで、自分の人生を大切に生きる」の価値感がからだに浸みないと考えているからです。高校2年、3年と連続して参加し、とても濃厚な経験をしても3年に満たない高校3年生には卒業証書は渡せませんでした。何人もの子どもが悔しがっていました。岩手県から連続して高校の2年間参加した子どもが、ちょうど3年生の時、キャンプとその高校の一番大切な行事が重なりました。残念ながらその子は参加できないと考えていたので、卒業証書は渡せないなと思いました。ところが、「これは、今の僕の人生にとって、一番大事なことなのだ」と学校側に事情を話して、学校を休んで親子でキャンプに参加し、卒業していきました。これほどまでにキャンプの卒業式を大切に考えていてくれたのかと、胸がいっぱいになりました。
 卒業証書のメッセージは、もちろん統一されたものではなく、ひとりひとりのことを思い出し、文案を練ります。その子だけのための、完全にオリジナルの卒業証書です。今年の卒業生は、7年間参加している2人の女の子でした。僕が卒業証書を読み上げ、渡します。そして、「がんばろうな」の思いを込めて握手をします。そして、本人のあいさつがあります。いつも、僕は、この場面をすごいなと思います。どの子も、メモを見ず、今、浮かんでくる自分の思いを大切に、自分のことばを紡ぎ出して、みんなに語りかけます。キャンプに来る前のこと、初めてキャンプに来たときのこと、キャンプで得たもの、これからの生活についての思いなど、それは見事なあいさつです。
卒業式 角田 これまでの先輩の卒業式を見ているからでしょうか。どの子も、そのスタイルです。子どもたちは、自分のことばで語ることを、このキャンプで学んでくれたのだと思います。最後に、それを参加者の前で実践してみせている、そんな気がします。もちろん、どもりながら、でも、まぶしいくらいに輝いている卒業生です。子どものあいさつの後、子どもを連れてずっと参加している親も話します。

卒業生のあいさつを少し紹介します。

これまで生きてきた中で、どもりでよかったなと思える18年ではなかったかもしれないけれど、どもりでも悪くはなかったなと思える18年でした。このサマーキャンプに来て、学校の友だちとかクラスメイトも仲間だけど、それとはまた違った仲間に出会えました。もうすぐ大学受験もあるし、バイトもしたいと思っているし、これから、子どもではなく、大人として扱われることも多くなっていくと思います。不安ばっかりだけど、みんなのことを忘れずに、思い出しながら、勇気をもって、歩んでいきたいと思います。今まで支えてくれて、辛いときに話を聞いてくれて、本当にうれしかったです。来年は、スタッフとして来ようと思うので、来年もご縁があれば、お願いします。


 お母さんのあいさつも、少し紹介します。

 
7年前、小学生の時に、一緒に吃音親子サマーキャンプに来ました。そのときは、娘が、小学校で男の子にからかわれたとか、本が読めないとかで泣いている姿を見て、私が強くないといけないのに、私も一緒に、ふたりで泣いているようなお母さんでした。サマーキャンプに来た1年目は、会場の最寄り駅の河瀬の駅に着いたときから私は泣いていました。そのときに知り合った高校生のお母さんたちが、みんなすごく明るくて、自分の子どものどもりのことを泣かずに語っていました。私も将来、そんなお母さんになれたらいいなと思って、7年間、過ごしてきました。去年、あるお母さんから、「初めて来たときはずっと泣いていたね。あの涙、一体どこに行ったの?」と言われました。うれしくて、あの頃、憧れたお母さんに少し近づけたかなと思いました。まだまだ、不安がないわけではありませんが、この子は、親の私が言うのも何なんですけど、いつもにこにこしていて、明るくて、周りに人が集まってくるような子です。それを活かして、これからも、進んでいってくれたらいいなと思っています。この子の成長を見守ってくれたスタッフの皆さん、私の大切な友であるお母さんたち、私たち親子にとても幸せな時間を下さって、本当に感謝しています。


 参加していた高校3年生は、2人でしたが、昨年まで連続で参加していて、今年どうしても参加できなかった高校3年生がいます。サマーキャンプの前に、そのお母さんから手紙をもらいましたので、卒業式の時に読み上げました。

 
息子が小学5年の終わり頃、帰り道でひどく追いかけられ、上履きでなぐられ、泣きながら帰宅してきたのでびっくりしました。そのとき、たまたま母が図書館で借りてきた本『どもる君へ、いま伝えたいこと』(解放出版社)が手元にあって、じっと伊藤さんの写真を見つめてから、この人に電話してみようと息子と話をして、吃音ホットラインに電話をかけてみました。「サマーキャンプに来たらどうかな?」と言われて、ことばの教室もやめ、夏はサマーキャンプに参加してみることになりました。あのとき、手元にあの本がなかったらと考えると、想像がつきませんが、とても悪い方向へすすんだと思います。今があるのは、伊藤さんはじめ、スタッフの皆さんのおかげです。本当に感謝しかありません。
 サマーキャンプでは、話し合いの時間、部屋で他愛ないことを話す時間、最後に見る劇、親の表現も、先輩の体験談も、最後に聞く伊藤さんの話も、全てが大好きでした。人と気持ちが通い合えた経験、自分の気持ちを受け止めてもらった経験、他の人の苦労を知る経験、とても大切だと感じました。
 何よりも、「吃音者宣言」はやさしい。「あなたはあなたのままでいい」。さわやかな自己表現はまだうまくないけれど、ぼちぼちやっていこうと思います。今年のキャンプが皆さんにとって、実のあるものになりますように。
 これからも、いろいろとあると思うけれど、皆さんとの日々を胸に、のりこえていけると思います。息子のこと、これからも見守って下さい。私も、息子のことを大切にして、一緒に笑って過ごしていこうと思います。また、会える日を楽しみにしています。


 もう1人の卒業生のことは、明日に。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2019/9/11