子どもと取り組む演劇の事前レッスン 2

事前レッスン5 7月13日、午後、大阪市内のお寺に、吃音親子サマーキャンプのスタッフが集まってきます。子どもたちと取り組む演劇を、まず自分たちが演じてみます。誰に向かって言っていることばなのか、何を伝えたいのか、そんなことを、時に真剣に、時に大笑いしながら、練習していきます。2日間で仕上げて、キャンプの初日に、参加者の前で演じます。
 その演劇の指導をしてくれるのが、東京学芸大学教職大学院准教授の渡辺貴裕さん。専門は、教育方法学、教師教育学。「学びの空間研究会」を主宰し、身体と想像力を活かした授業の可能性を実践的に追求しています。
事前レッスン6 僕たちとの出会いは、渡辺貴裕さんが京都大学の大学院生だったころにさかのぼります。渡辺さんは、僕たちが事務局をしていた、竹内敏晴さんの大阪のからだとことばの定例レッスンへの参加者だったのです。「どもる子どもたちのキャンプをしているんだけど、おもしろいよ。参加してみない?」と、どうやら僕が誘ったようなのですが、大学院生のときから、吃音親子サマーキャンプにスタッフとして参加してくれています。吃音とは全く関係がないのですが、僕たちの考え方、子どもたちのことはよく分かってくれています。学生から大学の先生へと、肩書きは変わっても、ずっと欠かさず参加を続けて、「多分、今年で20回目だと思う」と話していました。長いおつきあいになりました。
 渡辺さんは、演劇の練習に入る前に、いつも、子どもたちと芝居に取り組むための、いくつかのエクササイズをして下さいます。今年も、まず、5人ずつの4グループに分かれました。5人の内、ひとりが話し手になり、残りの4人は、その話を聞いています。観客からは、話し手の顔は見えません。見えるのは、聞き手である4人の表情です。それを見て、話し手がどんな話をしているのか、想像しました。自分が冒険してきた数々の武勇伝を話す勇者だったり、悪いことをした生徒を前に説教する先生だったり、いつのまにか芝居の世界に引き込まれていきました。芝居はせりふを言う人だけではできません。そばにいて、話を聞いている人たちの動きで、芝居は厚みを増します。そんな表現のおもしろさを味わった後、今年のシナリオが配られ、とりあえず、入れ替わり立ち替わりいろんな役になって、話の筋を確かめていきました。
事前レッスン7 事前レッスンの参加者は、大阪スタタリングプロジェクトのメンバーなど、どもる人が半数以上います。学生時代は、芝居など無縁の世界だった人が少なくありません。楽しそうに弾けている姿を見て、こんなに楽しい世界を経験できるなんて、どもりでよかったとさえ思えてきます。
 話の筋が分かった頃から、配役を決め、立ち位置を確認し、小道具のことも頭に入れながら、練習しました。ナレーターも重要です。観客に、舞台で起きていることを伝え、舞台と観客をつなぐ役割があります。ナレーターが、「ここに、少年がいます」と言ったとたんに、そこに、ひとりの少年が立ち現れないといけないのです。あるフレーズを掛け合いのように言う場面があります。花いちもんめのように。前後に動きながらのやりとりは、見ている方にも本当におもしろいものでした。大人がこれだけ楽しんでいるのだから、きっと子どもたちも楽しんで取り組んでくれるだろうと思います。

事前レッスン3 今年の演題は、当日のお楽しみにしておきましょう。
 夜の9時過ぎまで練習をして、その後は、実行委員会です。サマーキャンプのスタッフは、遠いところからの参加もあり、事前に実行委員会をすることはできません。キャンプの当日、初めて顔を合わせる者もいます。この事前レッスンのときにする実行委員会が最初で最後の実行委員会といえます。
 今年は、30回を迎えたというので、サマーキャンプのもつ意味について、みんなで考える時間をとりたいなと思っています。単なるふりかえりでなく、サマーキャンプが意図したこと、サマーキャンプで起こっていること、ひとりひとりの参加者にとってどんな意味があったのか、それらをじっくりと考えてみたいと思います。

 そして、いつも録画を担当してくれている井上詠治さんから、新たな提案もありました。サマーキャンプへのビデオメッセージの募集です。テーマは、「自分にとってサマーキャンプはどういうものだったのか」です。できるだけ多くの人から募集していこうと話し合いました。
 例年になく、涼しかった事前レッスンの1日目、すでに時計は、12時を回っていました。ようやく実行委員会を終え、みんな寝ました。

 翌日の日曜日、ようやく雨があがり、セミも歓迎して鳴き始めました。
 2日目の午後、最終の練習風景を井上さんが録画してくれました。以前は、せっかく事前レッスンで完成しても、当日まで日があり、忘れてしまうということが起こっていましたが、最近は、録画したものを編集してくれる人がいて、それを見ながらみんなは復習をしてきて、当日を迎えます。吃音親子サマーキャンプは、事前レッスンから始まるとよく言われるのは、このためです。

 参加申し込みが少しずつ届くようになりました。またまだ定員には余裕があります。
 7月のはじめには、荒神山自然の家に行き、打ち合わせをしてきました。自然の家も、僕たちの来るのを待っていてくれます。
 さあ、ご一緒に、すてきな夏を過ごしましょう。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2019/7/19