吃音親子サマーキャンプの場の力 『児童心理』で4回連載

 吃音親子サマーキャンプについて、学会で発表してきたことを紹介してきました。
今日からは、金子書房の『児童心理』で4回にわたり、<学校外の子どもの今>というシリーズで紹介されたものを紹介します。
 <吃音親子サマーキャンプの場の力>とのタイトルで4回連載された1回目です。(『児童心理』2016年6月号)

吃音親子サマーキャンプの場の力 1
       悩んできた大人だからできること

            日本吃音臨床研究会会長    伊藤伸二  いとうしんじ

サマキャン 開会の集い 伸二挨拶


   ひとりで悩んだ学童期
 
 小学二年生の秋の学芸会。担任教師からセリフのある役を外されたことで、吃音に強い劣等感をもった私は、学童期・思春期の社会心理的発達課題を達成できず、「吃音が治る」ことだけを夢見て生きた。
 誰にも吃音の悩みを話さずひとりで悩んでいたこと、吃音について何も知らなかったことが、私の人生の旅立ちを遅らせることになった。
 21歳の夏の1か月、吃音治療所で必死に治す努力をしたが治らなかったことから、私は吃音に真剣に向き合い、どもる人のセルフヘルプグループを創立した。このグループ活動で、大勢のどもる人々と出会い、自分の体験を話し、他の人の体験に耳を傾けた。吃音について学び、原因が分からず治療法もないことを知って、吃音と共に生きる覚悟ができた。グループでの活動は、学童期・思春期にしたくてもできなかったことのやり直しになったようだ。
  
 どもる子どもの学校生活

 程度の差こそあれ、どもる子どもたちは、音読や発表、日直当番、健康観察などさまざまな場面で、他の子どもと同じようにできないことに、つらさを抱えている。授業中に困るだけでなく、休み時間の友だちとの会話が苦痛だという子どももいる。どもって言えないとき、「早く言えよ」と言われたり、「日本語、話してみろよ」とからかわれたりする子もいる。かつての私のように、周りに同じようにどもる子どもがいないので、自分だけが悩んでいると思っている。そんな子どもたちに、同じようにどもる子どもに出会い、仲間を作ってほしい。どもりながらさまざまな仕事に就いて豊かに生きている私たち先輩の体験を聞いてほしい。吃音について学び、話し合い、自分以外のどもる子どもが学校でどんな経験をし、吃音についてどう考えているのか知ってほしい。
 私がセルフヘルプグループで体験した、出会いや語り合いの場を通して、気持ち、情報の分かち合い、「どもっていても大丈夫」という価値観の分かち合いをしてほしい。また、ことばに関しても、これまで苦手にしていた表現活動に挑戦してほしい。吃音に深く悩んできたどもる大人だからこそできることを子どもたちに提供したいと考えた。
 成人のどもる私たちと、ことばの教室の教師の共同の取り組みによるキャンプの活動の柱は、吃音についての話し合いと、苦手なことに挑戦する劇の上演だ。プログラムは20年以上まったく変わっていない。

 プログラムとスタッフ

 1日目 出会いの広場/話し合い/スタッフによる見本の劇の上演
 2日目 作文教室/話し合い/野外活動/劇の稽古/親の学習会
 3日目 劇の稽古と上演/卒業式など全体でのふりかえり

 キャンプの参加者は総勢140名。45名ほどのスタッフの3分の1は、大阪のどもる人のセルフヘルプグループのリーダーで、残りは全国からことばの教室や支援学級の教師、言語聴覚士などの専門家が手弁当で集まる。全員が参加費を払って参加するキャンプは、参加者ひとりひとりが主役になる。当初どもる子どもの指導に生かしたいと参加したことばの教室の教師たちも、吃音の豊かなテーマに惹かれて、今は自分のために参加していると言う。
 27年間、キャンプはたくさんのドラマを生み出した。かけがえのない友だちをみつけた子は、大人になった今も連絡をとりあっている。小学生で参加していた子が卒業して、スタッフとして戻ってきている。一緒に参加する親も、スタッフも、ともに成長し、大きな吃音ファミリーになっているのである。
 学校外の活動である、2泊3日のキャンプが子どもの学校生活にどのように影響を与えていくか、子どもたちがどのように変わっていくか。 次回から子どもの声を拾いながら、吃音親子サマーキャンプで起こっていることを紹介したい。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2019/7/12