『どもる子どもとの対話〜ナラティヴ・アプローチがひきだす物語る力』のうれしいレビューの続き

 昨日に引き続き、レビューを紹介します。どもる人、ことばの教室の担当者や言語聴覚士などどもる子どもの支援者の方のレビューが多い中、最後に紹介する方は、「どもり」とは何の関係もなく、ナラティヴ・アプローチの関係者のようです。国重浩一さんが吃音に関心をもって下さったことで、この本が完成し、吃音に縁のなかった人々にも読まれること、大変にうれしいです。吃音の持つ、豊かな世界に触れていただいたように思いました。

今の時代こそ、対話が必要
 2018年に文部科学省が出した新学習指導要領の各教科に対話について書かれています。その中の「特別支援学校学習指導要領解説自立活動編」の吃音に関する記述に、「吃音について学び、吃音をより客観的に捉えられるようにする」が挙げられています。吃音についての知識を学び、対話をすることを求められています。この本には、自然な子どもとの対話の実際が載っていました。吃音がある子だけでなく、どの子とも対話が大事であることがわかりました。今の時代こそ対話を大事にしていきたいと感じました。


ナラティヴで景色が変わる
 本書は吃音の当事者(子ども、大人)のエピソードに加え、どもる子どもの保護者、吃音に関わる専門家(教員、言語聴覚士)など、いろんな立場からどもりを通じてその人のナラティヴ(物語)が変わったエピソードが掲載されている。
 そこには「治すべきどもり」でも「改善すべきどもり」でもなく、「ともに生きるどもり」の姿がある。どもりが「治す対象」から「生きるテーマ」に変わる時、世界の見え方が変わる。
 過去を変えることは不可能だが、できごとを今この瞬間から、自分がどう受け止めるか、どう物語っていくかによって変わるものがたくさんある。
 吃音の現実や、世界の動きについても語られた貴重な本だと思う。


どもる子どもへの対等なかかわり方を教えてくれます!
 本書は、うまく話すことのできない子どもに対して、私たち大人がどうかかわっていくべきかを丁寧に解説した書です。著者は、対等なかかわり方を重視しており、その背景には、うまく話せない子ども自身が吃音をどのように思い、日々をどう過ごしているかということを重視する視点があります。非常に暖かい目で子どもたちを見つめる一冊です。


どもる大人の人たちに読んで欲しい本 豊富な事例が、支援職の人たちへの福音にも
 待望の書籍が刊行されました。
 この本は、伊藤伸二さん、国重浩一さん、吃音を生きる子どもに同行する教師・言語聴覚士の会の皆さんが、知恵と労力を集めて制作しました。この本には、どもる子どもを前にした支援者が、外在化をもたらす対話をどう紡ぐかの実例が、豊富に掲載されています。ことばの教室や言語聴覚士の現場で、どもる子どもたちを相手にしている支援職の人たちには、読了後直ちに実践のヒントとなることでしょう。
 言い換えればこの本には、感性豊かで反応が素直な子どもたちが、ナラティヴ・アプローチに接した際の実際の会話が、たくさん収録されています。ナラティヴ・アプローチ、ナラティヴ・セラピーに関心のある人達には、外在化がうまく働いた際に起こること――外在化が開始されるのと同時に、またはすぐに後追いするように、苦悩の軽減が始まること――が描かれているこの本から、さまざまな気づきを得ることが可能です。
 ナラティヴ・アプローチという、日本人には馴染みにくいところのある考え方、技法が、吃音問題という格好の題材を得て、幾分かでも理解しやすいものになっています。これは同時に、吃音問題という複雑怪奇な現象が、ナラティヴ・アプローチのフィルターを通すと、幾分かでも取り組みの容易なものになっている、ということでもあります。
 成人のどもる人達の多くが気づいているでしょうが、吃音は一瞬々々様相を異にする、変幻自在な現象です。一方、ナラティヴ・アプローチはこの本では、次のように描かれています。「ナラティヴ・アプローチでは、特定の決まり切った効果や効用を約束することはありません。ナラティヴ・アプローチを実践しようとする者は、人によって、異なった話を聞く準備が必要となります。人によって、異なったところにたどり着くのだという想定をして話をする必要があるということです」(国重浩一、本書P.119)揺るぎない方針のもと、支援者が変幻自在な対処を行うことが前提となっているナラティヴ・アプローチは、まさに吃音問題への対処に相応しいものなのです。
 成人のどもる人達は、この本を熟読すれば、吃音問題には万人に通用する対処法などないこと、「吃音とともに生きるのだ」という覚悟を決めた上で、自分個人の対処法を模索し、その場その場で臨機応変にサバイバルしていくほかないことを学べるはずです。ぜひ手に取って隅から隅まで味わって頂きたい、そんな本です。


 
ナラティブ・セラピー関係ということで、一応、買っていたのだが、「どもり」というテーマは、自分の関心からは遠い感じだったので、しばし積読。だったのだが、本が「ちょっと読んでみて」とさそっているような感じがあって、読み出したら、これがすごく感動した。
 まずは、「どもり」に対する周りの人からの評価からくる苦しさ、そして、「どもり」を治そうとする努力の大変さと不毛さ、そしてそこからくる無力感と苦しさ、さらに、かりに滑らかに話すことがかなりできるようになってもつねにどもらないように自分を監視しつづけることの苦しさに、自分のこれまでの「どもり」への無知を恥じつつ、共感した。
そして、「どもり」を受け入れ、ともに生きていくこと。さらには、どもりたいだけ、どもりながら、自分らしく自分を表現すること。
こういった話が、多くの「どもり」の人のストーリーとして語られていくことの驚き。そして、その多様性のおどろき。なんか、たくさんの勇気をもらった気がした。
 そして、こうしたストーリーを読んだところで、ナラティブ・セラピーの基本的な考えと基礎スキルがとてもわかりやすく解説される。
 今まで、なんか小難しいナラティブ・セラピーの本を読んで来て、そうした「基本」は、すでにわかっているつもりであったが、「どもり」に関する具体的なストーリーをたくさん読んだあとで、読む解説はほんと頭にすっと入ってくる。そして、ポイントがぐっと絞ってあるがゆえに、なにが大切なのかが、しみじみと伝わってくる。
 「どもり」にフォーカスされているのだが、まさにそれゆえに、「どもり」に限らず、だれもが自分自身のなかにもつ「悩み」とともに生きる勇気をあたえる一般性に達しているな〜。そして、ナラティブ・セラピーが実際にどのようにワークするのかが、リアルにわかる感じがあった。




日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2019/2/27