第10回吃音キャンプ IN GUNMA

 「最低気温は5度の予定です。寒さ対策をしてお越し下さい」、事務局の佐藤雅次さんから、最後のメールをいただき、11月3日、群馬に向けて出発しました。東京へは飛行機が多いのですが、その後の乗り継ぎもあって、群馬のキャンプはずっと新幹線を使っていました。今年は初めて、東京まで飛行機を使いました。かかる時間は変わりないと思うのですが、長い時間、じっと座っていないといけないのがだんだん苦痛になってきています。
 覚悟をして行ったけれど、それほど寒くはなく、いい天気、秋晴れの2日間でした。昨年も、すごく寒いとの情報にも雪景色が見られるかもと、覚悟と期待をして行ったけれど、雪どころかいい天気でした。

 10回目というひとつの節目にあたる今回の群馬のキャンプ。花火のように最初に打ち上げることは比較的できますが、継続するのは大変です。群馬のキャンプ、よく10年間続いていると、スタッフの皆さんに大いなる敬意をもって臨んだキャンプでした。
 
 私のかかわっているキャンプにはそれぞれ特徴があります。それぞれの事情があるので、僕は皆さんの計画にのっていくだけです。
群馬キャンプ 幕
群馬キャンプ 佐藤さん群馬キャンプ 講演 伸二 群馬のキャンプの特徴の一つが、最初のセッションである僕の講演会には、キャンプ参加者だけでなく、講演だけの参加も呼びかけていることです。第1回の時は、初めて群馬県に呼んでいただいたということもあり、大勢の人が参加して下さり、たくさん用意した書籍も完売でした。驚いたことを覚えています。
 今回は10回目の講演ということになります。今年も参加人数が多く、何回も続けて参加して下さる方もいらっしゃるので、同じ話にならないよう、僕も、できるだけ工夫し、準備をしました。

 秋のキャンプロードは、千葉に始まり、岡山、島根、群馬と続き、沖縄で終わります。共通の基本の配布資料を用意するのですが、話して帰ってくるたびに、次のところでは、これを付け足そうとか、こういう言い方に変えようとか、かなり変化していきます。なので、事前に配布資料の印刷をお願いしていても、追加の資料印刷を直前にお願いすることになってしまうのです。

群馬キャンプ 講演 伸二とみんな群馬キャンプ 講演 伸二2群馬キャンプ 講演 伸二とみんな2 大好きな落語家の、立川志の輔さんの、連続5日間くらいの公演で3日目くらいに行くと、枕で「1日目、2日目と練習をしてきて、本日の3日目は、完成度の高いものをお届けします」なんて言って笑いをとるのですが、それを思い出します。もちろん、初日は初日で、きっと「もう今日で使い果たすくらいの全力投球をして、後は惰性で流します」なんて枕で言うのですが。僕にとっては、一回一回、この人たちに話すのはこれが最後かもしれないという気持ちで話をしています。一期一会です。

 金子書房から刊行される『どもる子どもとの対話〜ナラティヴ・アプローチがひきだす物語る力』で伝えたかったことが中心テーマです。発行が間に合わなかったので、そのさわりを話して、宣伝もしてきました。

 群馬のもうひとつの特徴は、帰りに、必ず感想をコピーして渡して下さることです。僕の話がどう伝わったのか、すぐに分かることはとてもありがたいことです。後片付けの忙しいときに、感想をまとめ、コピーをして下さることは、スタッフのみなさんにとってはあわただしいことだと思います。帰りの時間を気にしながら、でも、そのことを大切にして下さっています。感想を車中で読むのが、僕にとって、幸せなひとときでしたが、今回は飛行機の待ち時間に読ませていただきました。
  
 その感想の一部です。

<ことばの教室担当者や言語聴覚士の方の感想>
・初めて聞かせていただきました。ご自身の体験を振り返って、過去のとらえ直しをされたとのこと、その中で、活発に元気だった本来のご自分を取り戻し、克服していったとのお話を伺い、感動しました。今、小学2年生を担当していますが、通級でどんなことをすればいいか、今、していることの意味が見えてきたように思います。新しい著書との出会いもとても楽しみです。

・伊藤さんの話を毎年聞かせていただいていますが、吃音についていろいろ知ることができ、またもっと勉強しようと思わせていただき、ありがたいです。

・伊藤さんの話を聞くのは5回目くらいですが、毎回心に残る話があります。幼少期から2年生までの「非認知能力」の話、また、21歳から「どもれる体」になったとのことが心に残りました。また、伊藤さんの話を伺うのを楽しみにしています。

・ことばの教室で、どもる子どもを今年初めて担当し始めました。伊藤さんの講演を初めて聞かせていただきました。教室にある伊藤さんの著書や「スタタリング・ナウ」は読ませていただいています。「吃音から逃げずに、共に生きる」という気持ちの持ち方で、どもっても話したいことを話せる「どもれる体」になったという伊藤さんの話を聞いて、本では入らなかったいろいろなことがストンと心に落ちた気がしました。また、子どもが幸せに生きるために、親がオープンダイアローグの立場で、子どもと対していくことも、吃音の子だけでなく、自分の娘にもすごくつながることだなと思いました。


<保護者の感想>
・初めて参加しました。どもるのを治さなくちゃと思っていたのですが、話を聞いて、考え方が変わりました。今の子どものままでいいんだと思えるようになりました。子どもの良い部分をたくさんみつけ、できない部分ではなく、できることやがんばっていることに目を向けようと思います。子どもが安心していろんなことを自分らしく話してくれるような親子関係を築いていきたいと思います。ちゃんと向き合っていきたいと思います。

・1年に一度、伊藤さんの話を聞かせていただいています。毎回、講演会を聞く機会がいただけるこのキャンプに感謝しています。聞くたびに、自分の気持ちや環境が違ったりすると、いろんな視野で見られるので、新しい発見があったりします。「対話から自己肯定感を育てる」は、私も最近見えてなかったなあと、できてなかった気がして、また今日からがんばろうという気持ちになりました。

・2度目の参加です。伊藤さんの話を聞いてから、私も息子のどもりを心配するより、息子の良さをみつけ、本人に伝え、どもりへの悩みを話してくれることも増えました。それからは、息子へ、「吃音は個性であり、できないことも他の人と比べると多いわけじゃなく、何でもできる。言いたいことはちゃんと伝えていこうね」と話せることも増えています。本人への対話も増えたためか、自分で自分の良さを自信に変えて生きていっているように思います。まさに、今日のお話、自己肯定、他者への信頼は、本人も含め、自分の気持ちも変えてくれるように思います。「愛される自信」は、全ての方に本当に大切なんだなと感じています。吃音を通して、親子で自分をみつめ、探り、知るきっかけとして寄り添っていきたいです。

・うちの子はまだ5歳なので、どもって話すことを恥ずかしいと思ったり、話さないようにすることはありませんが、この先、「どもれる体」を意識して、対等の立場で対話していきたいと思いました。どもっていてもちゃんと生きている人がたくさんいることも教えていきたいです。私は介護の仕事をしているので、認知症の話もとても勉強になりました。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2018/11/13