第20回島根スタタリングフォーラム  子どもの強みをみつけよう
 

島根フォーラム 講演会島根フォーラム 講演会伸二 20回も続いている島根のキャンプ。連続して参加して下さる方も多いので、毎年、同じ話にならないようにと考えます。もちろん、伝えたいことはひとつで、それは変わりようがないのですが、少しでも、新しいことを、僕自身が学んだことをかみ砕いてお伝えしたいと思って、準備をしました。特に島根では、僕が保護者に話す時間がたっぷりあります。1泊2日の中で、7時間30分もあるのはすごいことです。急がず、じっくりと対話することができるのがありがたいです。

 今回は、金子書房からの新しい本『どもる子どもたちとの対話〜ナラティヴ・アプローチがひきだす物語る力』に書いたことで、今、僕が注目しているポジティブ心理学について話しました。これは、レジリエンス、アドラー心理学と通じていて、今まで大切だと思って追ってきたことと、見事につながっているのです。このことは、今まで考えてきたあのこととつながっている! そう発見したときは本当にうれしくなります。出会うべくして出会った!という感じともいえます。

島根フォーラム 円くなってみんな島根フォーラム 円くなって伸二 午後の3時間は、ひとりひとりの保護者の思いに耳を傾け、僕なりのコメントをしていきました。その中のひとりの母親が「みなさんの子どもが、どもりを受け止めて学校でがんばっているのに、うちの子どもは、学校へ行きたくないと言って行かなくなった。行っても保健室や会議室にいる」と涙ながらに話しました。少し話を聞いて、じっくりとみんなで考えるいいテーマだと思ったので、「みんなも一緒に考えた方がいいので、後で当事者研究をしましょう」と提案して、午後のセッションが終わりました。夕食前になって「実は、私たちは今日は泊まらずに、夕食後帰ります」と父親が言いに来たのであわてました。翌日にみんなで考えようと思っていたのですが、それができません。そこで、夕食の時に、父親、母親と私の3人で「当事者研究」をしました。
 
 小学6年の息子は、学校に行ったり行かなかったり。フォーラムに参加している他のどもる子どもたちはがんばって学校に行っているのを聞いて、お母さんは、自分の息子はみんなと比べてまだまだだなあと思ったそうです。そんな息子の強みなんて言われても、何もないなあと悲観的でした。
 僕は、それでも何かあるはずだと思い、詳しく様子を聞いていきました。すると、学校には行けていないが、地域の野球クラブにはがんばって参加し、ポジションはピッチャーだとのことでした。1対0の緊迫した試合に出て、ちゃんと抑えて勝ったこともあると言います。そんなすごいことをしていると聞き、僕は、この子の強みは、ちゃんとあるじゃないかと思いました。また、完全に行けていないわけではなく、時々、音楽や図工、体育の時間は行くこともあるそうです。学校に行っていないのに、地域の野球クラブには行っている。学校に行かないで地域の野球だけするなんて…と言われるのが嫌で、普通なら地域の野球に参加することはしないと思うのですが、それを超えて彼は参加しています。
 何が彼をそうさせているのだろう、社会などの教科の時間には行けないが、図工などは行けるのはなぜか。クラスでは、吃音について何か言われてうまく人間関係ができないのに、野球部ではちゃんとできているのはなぜか。
 「このようなことを子どもと話し合ったことはありますか」と尋ねると、「聞いたことはないし、なぜだか分からない」と言います。いろいろと話を聞いていくと、僕の目にはその子どものポジティヴな特徴、強みが探れそうに思えました。
 1対0の緊迫した試合で、投げ切って勝利したのは、彼にどんな力が、どんな強みがあるからだろうと考えます。「こんな緊迫した試合に勝って、すごいな」と親も周りも思うだけで、そのすごさがどこから来ているのか、その子の強みとして、どんなことにつながっているのか、言語化し、概念化していくことがまったくできていません。
 「粘り強さ」もあります。チームのことを思う連帯感も、責任感もあります。何よりも好きなことに「熱中する力」もあります。それらをひとつひとつことばにし、意味づけをして、子どもに伝えていくことを提案しました。親が子どもの強みを発見し、それをもとに対話を続け、その強みを、学校に行って、算数や社会などの教科の授業に参加することにつなげるのです。対話をしてこなかったことに気づいた両親にとって、食事をしながらの45分ほどの短い時間でしたが、新たな気づきとなってストンと落ちたようでした。強みなんて何もないと思っていたらしいのですが、母親と父親の表情が変わっていきました。
 そのやりとりを、僕は、翌日のプログラムの中で紹介しました。強みを探そう、そのために子どもと対話をしようと話をしていましたが、対話の大切さは分かったけれども、では、具体的にどう対話していったらいいのか、もうひとつ分からなかったという保護者やことばの教室の担当者が、この具体的な話を聞いて、よく分かったと言ってくれました。
 「子どもと会話」はよくしていると思っていたが、「対話」はしてこなかったと何人もの人が発言しました。苦手なところ、弱点はすぐにみつけることができるし、目につきやすいです。そうではなく、強みをさがし、みつけることです。子どもと一緒に対話しながら、強みをみつけていく過程は、楽しく愉快な旅だと思います。
島根フォーラム 伸二挨拶
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2018/11/6