新・吃音ショートコースの感想〜丁寧に、ことばを大切に生きる〜

 新・吃音ショートコースで出されたひとりひとりの問題や課題について、あるときは交流分析の手法で、あるときは論理療法で、あるときは当事者研究風に、関わりました。話題を提供した本人はもちろん、参加している周りの人たちのその場でのしっかりとした支えとその後のレスポンスが、充実していました。ニュースレター「スタタリング・ナウ」で紹介する予定です。ここでは、参加者の感想を紹介します。

・吃音を治す、改善するといった考え方でなく、うまくつきあう、吃音の自分を受け入れることを心がけていきたいと考えることができました。そのために必要な考え方として印象に残っていることばが「自分が自分を傷つけている。悩みは比較することから生まれる。要求水準の高さ」です。これらのことばは、吃音以外の悩みにも当てはまると思うので、自分自身の生き方を豊かにする材料にしたいです。もちろん悩むことがいけない訳ではなく、悩みをなくそうとは思いません。ただ、悩みに支配されない、前を向ける人間になろうと思います。
 そして一番大きいのが、吃音に対するプラスの誤解です。吃音が必ずしもマイナスなイメージではなく、誠実といったプラスのイメージにもなり、また、自分が抱えていた対人援助職として生きていけるかという不安も軽減されました。これが実際の場で定着するためには時間がかかるかもしれません。しかし、自分を大切にして、吃音とうまく向き合いたいと思います。

・「幸せになることは人間の権利であり、義務である。決心さえすれば、今からでもすぐに幸せになることができる」ということばに一番感銘を受けました。一日目に私の話を聞いてもらったとき、相手が自分を傷つけているのではなく、自分が自分を傷つけているということを言ってもらいました。自分で自分を苦しめていたんだと思います。
 自分のだめな考え方に気づく練習をしたり、相手の強みを認めてリスペクトしたりする、紹介されていた「ポジティヴ心理学」を学んでいきたいと思います。すぐにはできないでしょうけど、そのように意識して自分を大切にしていく姿勢を身につけていきたいです。自分の心が浄化できた2日間でした。多くの人のいろいろな考えや意見を聞くことができてよかったです。

・私は初めてこの会に参加したので、皆さんとお会いするのは初めてでしたが、そういった感じがしないくらいアットホームな場で、皆さんが「ここに来たらほっとする」とおっしゃっていた気持ちがよく分かりました。当事者研究では、皆さんが普段の生活の中でたくさん悩み、自分のことも周りの人のことも、とにかくたくさん考えて生きておられることが分かり、楽天的な私はいかに普段「なんとなく」生きているかを思い知りました。話し合いの中で出てきた「ていねいに、ことばを大切にしながら過ごしていく」ということをモットーにしてこれからより良く生きていこうと思います。ことばの教室が子どもたちにとっての安全基地にできるように、これからの教室経営を考えていこうと思います。

・ただなんとなく参加をしただけなのに、たくさんのことを学ばせていただきました。「強みを探す」ということばが心に残っています。「いいところをさがす」は、よく聞くことばですが、嫌いな人の特徴はどうしても「いいところ」とは考えることができずにいました。「強み」と考えることで、人と問題を切り離して考えることができるような気がします。まだしっかりと把握できているわけではありませんが、楽になりました。
 声を出すレッスンは楽しい時間でした。普段は大きな声をあまり出すことがない自分が、大きな声で歌った時、気持ちよかったです。

・普段は、ことばの教室で関わる、子どもや保護者のことを考え、自分のことはついつい後回しにしていました。この2日間で、皆さんのことを通じて自分の今を振り返ることができました。人の中で生きたいと思いつつ、人との関係について悩み苦しむこと、みんなもそうかと思ってほっとしたところもあります。今回、人との関わりで悩みながら今日まで過ごしてきたことを、ひとつひとつ確かめることができました。相手をリスペクトする、相手の強みを見つける、1年経ったときに自分の気持ちをそっと伝える、などです。ああ、よかったんだ、なんとなくではなく、私なりにきちんと丁寧に取り組んできたんだと、心がすーっとしました。私、すごい!と思って日常に戻ることができます。これからは、なんとなくに流されず、ていねいに自分をみつめていきたいと思います。

 ひとりひとりの感想は、真摯に自分をみつめ、自分のこととして考えたこの2日間の充実した時間を仲間と一緒に共有できたことへの感謝であふれていました。このような時間をともに過ごすことができ、僕もとても幸せでした。
 来年も、同じ時期に、第4回新・吃音ショートコースを行いたいと思っています。
 真剣に人生を考える人たちと過ごす時間は、心を豊かにします。
 よかったら是非。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二   2018/09/01