第29回吃音親子サマーキャンプ、無事、終了
8月17・18・19日、滋賀県彦根市の荒神山自然の家で、第29回吃音親子サマーキャンプを開催し、無事終わりました。
29回か、と感慨深いものがあります。少しずつ紹介していこうと思いますが、そのはじめに、吃音とは全く何の関係もないのに、京都大学大学院生のときから、このキャンプにかかわり、今は、竹内敏晴さんが亡くなられた後、スタッフへの演劇のレッスンをしてくれている、東京学芸大学大学院准教授の渡辺貴裕さんの、フェイスブック上のサマーキャンプ報告を、ご本人の了解を得て、紹介させていただきます。

『街に出る劇場』石黒広昭編 新曜社
第29回吃音親子サマーキャンプ(主催:日本吃音臨床研究会)に参加してきた。
滋賀県の山中の施設で2泊3日。全国から、どもる子どもとその親、それからスタッフ(どもる大人、ことばの教室の教師、言語聴覚士など)が集まる。今年は日程のせいか参加者が例年より少なく、トータルで100名弱。
私は学生時代から参加し続けもう19年目だ。
吃音の当事者・親でも専門家でもない私がこのキャンプに参加し続けている理由。
まあ、この8年ほどは、演出家・竹内敏晴さんの後を継いでスタッフ向けの劇の指導を担当しており、その点ではたしかに本業ともつながりがあるのだが、けれどもなにより、自分自身が、このキャンプに参加すると、リフレッシュされる、自分が日々(勝手に)背負い込んでしまっているものをいったん降ろして自分を取り戻せる感覚があるというのが大きい。
子どもたちの話し合いで、彼らの吃音をめぐる悩みや考えや将来のことを聞く。
作文で、吃音のことや自分のことを見つめた文章を子どもたちが書いたのを、読ませてもらう。
劇の練習で、劇づくりを一緒に楽しむ。
山登りでヘトヘトになる。
それらを通して、つながりの力って大きいなとか、子どもってすごいなとか、架空の世界を楽しむってなんて面白いんだろうとか、自分の根っこになっているような部分にあらためて触れることができる。
このキャンプでは、世話する人ーされる人、指導する人ーされる人、という区分がない(実際、私含めスタッフもみな他の参加者と同じように参加費を払って参加している)。
話し合いのときにファシリテーターとして入っている大人や、劇の練習を各グループでリードする人はいるが、多分誰も、「指導している」とか「教育活動を行っている」とかの意識がない(「ファシリテーターを務めている」という意識すら、たいていの場合、ない)。むしろ、初めてスタッフとして参加することばの教室の先生とかは、多分、「自分がキャンプのことを学びに来ている」と感じていることだろう。
集まってきたメンバーが役割分担しながらキャンプをつくって、3日間を過ごす。
プログラムは密だが、誰かがピッチリ仕切って、みたいなことがなく、進行はゆるい(何かを守れてなくてとか時間に遅れてとかで叱られている場面なんてまず見たことがないし、スタッフ同士でも「ちょっとしんどいから休むわ〜」みたいなことはざらにある)。
このキャンプでの過ごし方、かかわり方が文化として定着しており、参加者はそこに参入することで、それぞれ何かしらの影響を受けている。それだけのことなのだが、けれどもそれが、場合によっては、参加者にとって極めて大きな意味をもつことになる(2年目の参加の親御さんから「実は去年ここに来た時には、もう、この子と心中するしかない、と思い詰めていたんです。けれどもそれが変わりました」と話を聞いたこともある)。
このキャンプでの劇づくりのことは、先日出た石黒広昭編『街に出る劇場』所収の論考に書いた。
劇づくりについては、スタッフ向け事前レッスンのことも含めて、ある程度書けたと思うが、キャンプがもつこうした「文化」については、十分に伝えられていなかったなあと感じる。
自分にとってあまりにも近くなってしまったものについて書くのは難しい(劇のときの写真を載せさせてもらった子どもとその親に今回のキャンプで「これですよ〜」と本を見せていたら、当の子どもたち以上に親御さんたちにえらい喜んでもらえて、ちょっとうれしかった)。
来年はいよいよ第30回大会!(自分にとっても20回目!)
それぞれがどんな一年を過ごして再会することになるのだろう。
また、少しずつ紹介していきます。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2018/08/21