「けふもまた 声にならない 音(おん)が出る」

 日本吃音臨床研究会のホームページ、なかなか更新できないのですが、仲間たちが仕事をしながらその合間に時間を作って、情報を掲載してくれています。僕の講演記録やことばの教室の実践、最新のイベント案内など、読み応えのある内容なので、ぜひ、のぞいてみて下さい。そこに、掲載している問い合わせのメールから、こんな内容のメールがきました。

 
「伊藤伸二の吃音(どもり)相談室」のブログ記事を見てお伺いしたいことがあり、お問い合わせ致しました。今回お問い合わせしたのは2018年1月12日「大阪吃音教室 どもりカルタを作ろう」の記事についてです。
 私は趣味で漫画を描いていまして、新作漫画を自費出版本にしようと今制作中です。内容は「トーキー映画に変わる時代。吃音の映画俳優がトーキーになる事で俳優人生の危機に直面しつつも吃音を演技に取り入れる事で役者として成長する」といった内容です。
 お伺いしたい内容というのは、この記事の中のどもりカルタ読み札「けふも また 声にならない 音(おん)が出る」を、今制作中の漫画のタイトルに使わせていただけないかということです。参加者の方が作ったものですし、いきなりこんなお願いするのはどうかとも思い、ここ数週間、他のタイトルを考えたのですが、考えれば考える程この読み札が一番だと思えて来てしまい諦めきれず、せめてお伺いだけもと無理を承知でこうして筆をとりました。
 このような私事でお手数をおかけして申し訳ありませんが、ご返答いただければ幸いです。


 驚きましたが、興味津々のメールです。大阪吃音教室の講座で作ったどもりカルタの読み札なので、早速、会長などに問い合わせ、OKが得られたので、「できたら、ぜひ1冊、送ってほしい」と厚かましいお願いをして、すぐにOKの連絡をしました。けふもまた声にならない音が出る
 楽しみに待っていたら、送ってきて下さいました。想像していた以上の、本当にきれいな絵です。表紙だけですが、紹介します。

 添えられていた手紙には、こんなことが書かれていました。

 
今回、描いていて、何気ない一言であってもキャラの心情をこんなに考えて一音一句を考えたことはなかったと気がつきました。私は吃音ネイティブではないので、もしかしたら表現がおかしいところがあるかもしれません。ですが、日本映画史も吃音も勉強すればするほどもっと知りたいし描きたいと思いました。ご送付していただいた「スタタリング・ナウ」も、人の数だけ物語があり、自分の知らない世界や考え方に触れられて、とても勉強になり、おもしろかったです。
 ことば文学賞の作品を読んで思ったのですが、吃音で悩んでいる方々にとっては無くなって欲しいものなのかもしれませんが、自分の吃音を語ることでその人の人生を物語れるのはすごいなと思いました。私が自分の人生を語るとしたら漫画なのですが、友人曰く、そういった、人生に一貫して寄り添う物がある人はあまり居ないと言われました。私が日々、漫画のお話作りばかり考えて、自分の人生の引き出しをひっくり返しているからかもしれませんが、語れる物があるというのはとてもうらやましいことだと感じました。


 どもりさえなければ、と21歳までの僕は強く思っていました。今は、どもりのおかげで豊かに生きています。どもりのおかげで、自分を語ることができます。今回、連絡を下さった漫画家の方、そしてその友人の方の素直な感想に、大きく頷きました。

この漫画の話、もう少し続きます。

日本吃音臨床研究会会長 伊藤伸二 2018/06/15