昨年の活動で報告できていないものの紹介です。
 昨秋のキャンプロードの最終は、11月25・26日の群馬でした。群馬のキャンプは、今回、第9回目です。中心になって下さっている佐藤雅次さんは、始めた頃は、ことばの教室の担当者だったのですが、現在はLD・ADHD等通級指導教室の担当者に代わっていますが、ずっと事務局をして下さっています。
 佐藤さんとの出会いは、2001年、国立特別支援教育総合研究所の長期研修員として一年間研修されていた時、僕の講義を受けられたときからです。吃音の基礎や当事者の話を聞くことができたのが、吃音について学ぶきっかけになったのではないかと、佐藤さんは振り返っておられます。
 その後、2009年に、全国公立学校難聴・言語障害教育研究協議会全国大会山口大会で、『吃音のある子どもとその保護者を支えるために』〜自分を見つめる目と、保護者の目差し、そして支える担当者の目〜というタイトルで、ことばの教室でそれまでに出会った吃音の子ども達の様子を、佐藤さんが発表されました。そのとき、吃音の分科会のコーディネーターをしていたのが僕で、その全国大会の場で、群馬でキャンプをしたいから、僕に群馬に来てもらえないかと話がありました。「喜んで伺います」と返事をして、その年の秋から、『吃音キャンプ IN GUNMA』が始まりました。それから、毎年、僕は、群馬のキャンプに講師として呼ばれて行っているのです。
群馬6 集合写真 新
 今回は、僕の都合で、11月の末という日程になってしまいました。赤城の山は真っ白の雪景色かもしれないと、佐藤さんからメールをいただいていたので、寒がりの僕はかなり覚悟をして行ったのですが、予想が外れて、この頃にしてはかなりの暖かさでした。寒くなくてほっとしましたが、ちょっと残念な気持ちもありました。

 秋のキャンプロードのスタートは、静岡のキャンプで、9月末でした。約2か月経つと、話の内容はかなり違ってきます。資料も増えました。この間、いろいろと学んだことがあり、それらをぜひ伝えたいと思ったからです。
 そのひとつが、ムーミンの話でした。僕自身は、ムーミンの話はよく知らなかったのですが、ムーミンファンは多いらしく、参加者に「ムーミン、知ってる人?」と聞くと、よく手が挙がります。大好きだという人もいるようです。講演のトップにムーミンの話を持ってくることで、親しみやすくなり、興味を持って話を聞いてくれる人が少なくありませんでした。

 群馬のキャンプでは、ことばの教室担当者や言語聴覚士の人と話す時間、保護者との時間、どもる子どもたちと話す時間と、参加者全員とどこかの時間帯には共に過ごすことができるよう、プログラムが組まれています。これは、僕にとっては、大変ありがたいことです。どの時間帯でも、よくしゃべっていますが、話を聞いていただけることはうれしいことで、疲れることはありません。
群馬4 会場全体
群馬1 講演
群馬2 伸二講演

 また、ここ4、5年は、国立特別支援教育総合研究所の牧野泰美さんも、群馬のキャンプに加わって下さっています。僕と牧野さんが対談をしたり、子どもと僕が話し合いをしているときに、牧野さんが保護者との話し合いをしたりと、バラエティに富んだプログラムになっています。
 今年は、牧野さんは、ミニ講演会を担当しました。
群馬3 牧野さん
群馬5 ふたりの演題

 キャンプの最後に、参加者がキャンプの感想を書く時間があります。事務局の星野朋子さんが、その感想をコピーして、帰る時間には渡して下さいます。帰りの新幹線の中で、それらを読み、群馬のキャンプの余韻に浸りながら、僕は大阪への帰途につきます。心地よい疲れの中で、ゆったりと群馬のキャンプを思い出す、すてきな時間になっています。
群馬のキャンプは、その感想を紹介して、報告とします。

◇どもる子ども
・普段、どもる人と日常生活で会う機会はあまりないので、多くのどもる人と関われたことはとてもいい経験になりました。伊藤さんの昔の話を聞くことができてよかったです。
・伊藤さんの子どものころのことやつらかったことを聞いて、質問できたことがよかったです。
・伊藤さんの大学時代のアルバイトの選び方の話を聞けてよかったです。

◇どもる子どもの保護者
・ダメな部分を治そうとするのではなく、良い部分を伸ばそうということ、幼児期に非認知能力を育てることが大事だということが、とても勉強になりました。今後、周りから吃音のことをからかわれ、いじめられ、ひきこもってしまわないか心配ですが、今回の講演を聞いて、子どもと対等に向き合いながら、楽しく乗り越えていけそうな気がしてきました。吃音を前向きに考えられる、そんな1泊2日でした。
・自分の子どもがよりかわいいと思えました。思春期が怖くなく、楽しみになりました。同行するということ、本人に意思決定をさせること、勝手に親が決めないことを、大事にしたいと思います。
・吃音の講演は初めて聞くので、最初は難しい話かなと少し不安でしたが、最初から、大好きなムーミンの話が出てきて、とても興味深く、楽しく聞くことができました。私は、このキャンプに参加す前は、どう治すか、何をしたら治るのか、ばかり考えていましたが、吃音があっても完治しなくても、ありのままの娘を受け入れればよいのだと、はっとさせられました。「治らない」ということばは、正直ショックでしたが、私が強くなり、娘が大変なときは、時には助け、支えられる母になりたいと思いました。
・対等な親子関係でありたいと思いつつも、どうしても子どもを支配してしまいがちなので、今後も気をつけていきたいと思いました。どもりとつきあいながら幸せな人生を送ることができるよう、親が理解者となり、支えていきたいと思います。

◇言語聴覚士やことばの教室の担当者
・小児のリハビリをしていますが、「最近どう?」とネガティヴな話が多くなり、今回の講演でポジティヴ心理学を聞き、とても勉強になりました。
・ことばの教室を担当して4年目で、伊藤さんの話を聞くのは3回目です。2回目までは、吃音を特別なものとしてとらえることしかできていませんでした。だから、ことばの教室でも、身構えて子どもと向き合っていました。今日の話は、すとんと自分の中に入りました。対話、対等な対話、対等なんだ。一緒に考えていくということが全く理解できていなかったのですが、今回は、そうだなと思えました。月曜日から、子どもたちに会うのが楽しみになりました。
・あっという間の2時間半、とても有意義な時間を過ごさせてもらいました。今回、レジリエンスやポジティヴ心理学、オープンダイアローグなど、吃音という枠にかからわず、「生き方」として考え方、とらえ方、支え方を教えていただけ、教室の子どもたちとのかかわりだけでなく、自分の人生や家族とのかかわりまで、考えさせられる内容で、もっともっと聞きたいと思いました。
・どもる子どもと2年間関わっています。自分は、対等に向き合って対話をしてきただろうかと、深く反省させられました。子どもと保護者と3人4脚、一緒に考えていきたいと思いました。お話が心に染みました。
・ムーミンの3つの間、空間、時間、仲間は、とてもよいお話でした。言語教室の教員をしていますが、この3つの間を大切にしながら、対話をしていきたいと思いました。
・ことばの教室でやった方がよいこと、やってはいけないことを明確に教えていただき、とてもよかったです。哲学的対話を心がけ、レジリエンスを育てられるよう努力していきたいと思いました。自分自身も前向きな気持ちになれました。
・吃音症状の波とその人の悩む波は一致しないという話は、目から鱗が落ちる感覚がありました。また、吃音をもつ子は、学校生活で悩んでいるに違いないという先入観がある自分にも気づきました。
・初めて伊藤さんの話を聞きましたが、まるで一冊の本を読んだ後のようにとても興味深かったですす。レジリエンス、ポジティヴ心理学など断片的に知っていたことが、伊藤さんというフィルターを通すと、こうつながるのかと目から鱗でした。子どもたちと、考える力が伸びていくように対等な対話をしていきたいと思いました。
・なじみのあるムーミンの話から始まり、とてもわかりやすく納得できるお話でした。
「困ったことはない?」という質問をよくしていたことを反省しました。

群馬7 ホテルの芝生

 今年、群馬のキャンプは、第10回目になります。日程は、11月3・4日です。また、群馬のキャンプの歴史が刻まれていく場に立ち会えること、楽しみにしています。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2018/3/8