最後は必ずハッピーエンドで終わる話 今、子どもの世界に必要なこと

 キューピーと聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか。マヨネーズのマーク、ただのかわいいお人形、天使、妖精、などでしょうか。僕も、キューピーといえば、マヨネーズのマークに使われている、かわいい裸の人形くらいにしか思っていませんでした。
 1月28日、僕の家の近くの絵本カフェ・ハーゼで、「キューピーの本当のお話」と題した集いがありました。昨年、ムーミンのお話をして下さった、保育や絵本に詳しい長谷雄一さんによる第3回のお話会でした。
 長谷さんによると、キューピーには、実はいろいろと深い話があるそうです。

 キューピーの名前の由来は、ギリシヤ神話の、愛のキューピットです。そのまま、キューピットにしなかったのには理由があります。神話の中の愛のキューピットは、愛する二人の仲をとりもって、その愛が成就するようにしてくれるのですが、ときどきうまくいかない場合、愛が成就しない場合があります。キューピーの生みの親のローズオニールは、自分が描くものは、ときどき成就しないのでは困る、愛はすべて成就してほしいと思い、キューピットではなく、キューピーと名付けました。
 1909年、キューピーは、イラストレーターのローズオニールによって描かれました。イラスト入りの物語です。それは、アメリカの婦人雑誌「レディース・ホーム・ジャーナル」に掲載され、発表されました。その物語は、登場したすべての人が必ず幸せになります。最後は必ずハッピーエンドで終わる話だったのです。
 お話は広く読まれました。そして、キューピーの人形が作られたのは、1912年でした。当初から絵だけでなく人形をという話があったのですが、ローズオニールが気に入らなくて、なかなか実用化されませんでした。ようやく、ドイツの人形づくりのマイスターによって作られました。それ以後、キューピー狂時代と呼ばれるくらい、広まりました。

 長谷さんの好きな原画の1枚です。
キューピーアーミー

 よく見ると、すべての人が幸せになるという話なのに、ピストルを持って、ねらっているキューピーがいます。これは、キューピーアーミーと呼ばれます。このキューピーは、相手をやっつけるためのものではありません。ローズオニールは、すべての人が幸せになるためのものを描いています。では、このキューピーアーミーは、何を撃とうとしているのでしょうか。子どもたちを守るために何を撃とうとしているのかと考えたらわかりやすいのでは、と長谷さんは、参加している人たちに問いかけました。
 出てきた答えと長谷さんの解説を加えると、それは、病気や不安、悲しみや恐怖などでした。やつつけるものではなく、守るためのものだったのです。そして、物語の最後には、「あなたも、キューピーアーミーになりませんか。ピストルをもって、現場に出てみませんか」とあるそうです。

 キューピーの仲間たちです。
キューピー 仲間

 キューピーに仲間がいるなんて、全く知りませんでした。ムーミンにも、ムーミン谷に仲間がいました。アンパンマンにも、たくさんの仲間がいます。
それと同じような構成になっているようです。キューピーの仲間を一部紹介します。

ワグ…キューピーたちのリーダー。頭にKの旗をつけている。キューピームラの村長さん。
カーペンター…大工。かなづちをもっていて、壊れたものを直すのが得意。人の心の傷ついたものも直す。
コック…エプロンをしている。みんなにごちそうを作る。
ファーマー…農夫。麦わら帽子をかぶっている。
アーミー…兵隊。ピストルを持っているのは人を撃つためではなく、困っている人や苦しんでいる子どもの悲しみや恐れを退治するため。

キューピーのお話1 少年とおもちゃ

キューピー 話1

 キューピーは、困った人も、困らせた人も助けます。この絵は、持ち主の少年が引っ越しをしてしまって、使われなくなったおもちゃを描いています。よく見ると、屋根裏部屋に入れられたおもちゃたちはどれも寂しそうです。木馬の目には涙がありますし、ピエロも悲しそうです。この状態を見て、キューピーはどうするでしょうか。

キューピー話2

 おもちゃが汚れているのできれいにする、磨く、そうです。でも、それだけではありません。キューピーは、どうしたら、おもちゃが幸せになるかを考えるのです。木馬は、何をしてもらったら、涙が消えるでしょうか。それぞれのもつ使命というか、役割を、キューピーは考えます。そして、次の絵で、それが明らかになります。

キューピー話3

 おもちゃなどもらったことがない子どもたち、もらえない子どもたちのところに、キューピーは、おもちゃを持っていき、おもちゃを子どもたちに渡します。子どもは大喜びです。おもちゃも喜んでいます。そして、それを見て、キューピーも幸せな気持ちになっているのです。

キューピーのお話2 わんぱく三人組
 強くて、わんぱくな三人組がいました。三人は、みんなをいじめています。キューピーは、いじめられている子どもだけでなく、いじめている三人組も助けようとします。何をしたでしょうか。三人より強い、巨人の町に連れていって、三人に怖い思いをさせました。みんなは、こんなに怖かったのかという思いを三人にさせます。反省した三人は、戻ってきてから、みんなをいじめなくなったそうです。
 キューピーは、困った人だけでなく、困らせた人も助けるのです。
 いじられている子どもだけでなく、いじめている子どもも、何かの問題を抱えている場合もあります。その場合、いじめている子どもにも手をさしのべる。あんな昔にこのようなことを考えていたローズオニールはすごいです。 


キューピーのお話3 ゴブリン
 ゴブリンは、人をおどかすのが好きです。パーティなどに行って、みんなをおどかします。そんなゴブリンに、キューピーがしたことは何でしょう? 本当に、ゴブリンは、おどかすことが目的だろうか。本当はパーティに参加して、みんなと楽しみたいのではないか。そうキューピーは考えます。そして、一緒に仲間になって楽しみたいのなら、すなおに自分の気持ちを表していいんだよ。その手伝いをしてあげると、ゴブリンに言うのです。

 キューピーは、相手が一番何をしてほしいのか、その訳を考えて、援助します。ただ単に手を貸すのではありません。本質を分かっていないと真の援助にはならないことを知っているからです。また、キューピーは、ひとりで何もかもするのではなく、チームで動きます。それぞれ得意なこと、不得意なことがあります。それぞれの特徴を生かし、チームで、困った人も困らせている人も支援していく、今、さまざまな行きづらさを抱えている人たちの支援に関わる者に、必要で大切なことではないかと、聞いていて思いました。
 100年以上も前の時代に、ローズオニールは、こんな物語がなぜ書けたのでしょうか。作者の幼少期はどんな子どもだったのでしょうか。その辺りの詳しいことが分かっていません。2回離婚して、子どもはいないというくらいのことしか分かっていないのです。ローズオニールの背景を知りたいと、長谷さんは言っていました。

 僕はさっそく、アマゾンでキューピー物語や絵本などを買いました。今の時代に生きる子どもたちにもいろんなヒントがありそうだと、楽しみにしているのです。絵本の世界が広がっていくのが、これから楽しみです。

そのほか、たくさんのお話を聞かせていただいたのですが、いつか機会があればということにしましょう。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二   2018/02/17