沖縄キャンプの同窓会

昨年の活動の報告の続きです。 
11月4日から沖縄に行きました。5日には、嘉手納で、社会福祉協議会主催の「幼児吃音の理解と臨床」の講演会が予定されていました。その前の4日に、沖縄キャンプに参加した保護者の皆さんが集まりました。キャンプの同窓会のようなもので、保護者だけでなく子どもも同席して話し合いました。

沖縄幼児吃音1

 
「吃音親子サマーキャンプでも、沖縄キャンプでも、子どもに一度参加させればそれでいいという保護者がいます。私は何年も参加しないと、本当のところはつかめないと思うのですが、一度でいいと言う保護者にどう説明したらいいでしょう」


 沖縄キャンプにも、滋賀の吃音親子サマーキャンプにも参加している保護者から、このような質問が出ました。できれば、可能な限り参加し続けた方がいいと僕は思います。そして、次のような話をしました。

伊藤 吃音は、簡単に対処できるものではありません。生涯にわたって考えていくもので、繰り返し勉強し、確認する作業が必要です。滋賀県での吃音親子サマーキャンプでも、1回か2回の参加の子どもと、小学生から高校3年生までずっと続けて来た子とはずいぶん違うという印象をもっています。
 たとえば、伊藤由貴さんは、小学4年生から高校卒業まで連続して参加しました。キャンプに民間放送のTBSの取材が入り、「報道の魂」で放送された場面では、「これから吃音は私の人生に、決してマイナスにならないと思う」と発言して卒業しました。ところが、大学2年生の時、突然ひどくどもり始めました。親も周りもびっくりです。私も、少しずつどもらなくなっていく人はいても、彼女のように大きな変化をした人に会ったことはありません。母親から相談を受けましたが、「どもりは変化するものだから、またそのうち変わるから、話すことから逃げないで生活さえしていたらいいよ」とだけ言いました。
 彼女は大学での発表、コーヒーショップのアルバイトも休むことなく続けました。でも大変だったと思います。2年以上ひどくどもる状態が続きましたが、少しずつ元の状態にもどり、薬学部を卒業し、薬剤師として働いています。
 どもりの問題を症状の問題だと考えている人で、どもらずにしゃべる方がいいという価値観を持ってしまうと、突然ひどくどもり始めた時はショックを受けるでしょう。まるで、中途障害のような感じになるかもしれません。でも、彼女は、小学4年生からずっとどもりについて考え、話しあってきたから、どもり始めてもあまり動揺しません。吃音親子サマーキャンプの中で悩みながら考えてきた中で、信念、価値観、自己概念がしっかりと身についていました。それは、非認知能力と言われるものですが、粘り強さ、深く考える力などです。母親はオロオロしていたけれど、本人は大丈夫でした。僕も、彼女のことを信頼していました。ひどくどもりながらもアルバイトを続け、授業の中での発表も逃げずにやっていました。見通しのつかないことに耐える力を持っていたのでしょう。薬剤師として働き、結婚式には、サマーキャンプで出会った子たちが、お祝いに参加したと聞いています。私たちのニュースレター「スタタリング・ナウ」に母親の手記が載っています。
 小学生のときは明るく、元気で大丈夫だと思っていても、これから将来どんなことが起こるか分かりません。その中で大事なのは、生きる力です。状況や環境は変わります。状況が変わっても、挫折してしまわないような子育てをしたいです。どもって生きるという覚悟ともいえます。ネガティヴに考えて生きてきた人、吃音に触れずに生きてきた人は、環境やどもる状況の変化よって、心理状態や悩みが変わります。あまり変わらないものは、確固たる信念、自己概念です。それを身につけるためには、日常の生活で経験したことを吟味し、考え続ける必要があります。キャンプは、それができる場だと思います。

日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2018/01/31