雪の北陸から、間一髪で脱出


 1月21日(日)、金沢に行きました。金沢大学の小林宏明さんの吃音の研修会があることを知り、申し込んだのです。10時から始まるので、始発で出発し、大阪駅6時30分発のサンダーバード1号に乗りました。暗い中での出発でしたが、琵琶湖岸を走っているときに朝日がきれいでした。滋賀県を抜け、福井県や石川県に近づくにつれ、先週の大雪の名残のような雪景色になりました。金沢着は9時13分。そこから、いしかわ鉄道の森本まで行き、会場に向かいました。参加者は、スピーチセラピストの方がほとんどでした。

 吃音臨床はじめの一歩と題された研修は、吃音をめぐる国内外の動向の解説、吃音臨床の手引き−インテーク版の解説、初回面接の演習などでした。僕は、吃音の講義をすることは多いのですが、聞くことはめったにないので、新鮮で、参考になりました。

 金沢市には、以前はよく来ていました。九州大学の村山正治さんのエンカウンターグループに参加していた石川県の教育センター教育相談課長の関ひろさんと知り合ったことがきっかけで、歴代の教育相談課の課長さんにつながり、石川県の教員の新任研修を10年ほど、その他カウンセリングワークショップや、金沢ベーシックエンカウンターグループなど、一年に3度ほど、たくさん呼んでいただきました。
 また、金沢は、私たちの第3回吃音講習会の会場でもありました。会場の文教会館、宿泊した東横イン、懇親会会場のビストロ・シャレなど、なつかしかったです。
 そしてもうひとつ、金沢は、僕にとって、縁のある町なのです。理由はないのですが、小さい頃から、人生の最後は、金沢の繁華街・香林坊で行き倒れになる自分を想像していました。大学4年生の日本一周で金沢に来たとき、香林坊の路地裏が、僕のよく見た夢、行き倒れになっている場所ととてもよく似ていました。「野垂れ死に」が僕にはふさわしいと、吃音に深く悩んでいたときは、本気で思っていたのです。

 研修が終わって、夜の香林坊を歩きながら、これまでのいろいろなことを思い出していました。夕食は、有名な「赤玉」というおでん屋さんに行きました。薄味で出汁がしっかりきいていて、おいしかったです。赤巻という鳴門かまぼこのようなのが、金沢の名物のようでした。翌日は、近江町市場に行きました。下調べをしていたお店が生憎、大阪へ出張でお休みでした。たくさんの魚屋さん、お寿司屋さん、八百屋さんなどを見て歩きました。カニ、のどぐろなど、冬のおいしいものがいっぱいでした。

 加賀温泉でもう一泊して、1月23日に大阪に帰る予定でしたが、ここで、とんだハプニングが起こりました。加賀温泉駅に着いたときに、雨まじりの雪が降り始めました。水分の多い雪です。これでは積もらないなあと思っていたのですが、送迎バスでホテルに向かう途中で本格的な雪が降ってきました。宿に着いて窓の外をみると、きれいな雪景色。墨絵の世界でした。
金沢 雪景色
温泉で温まり、夕食でおなかいっぱいになった後、テレビを見ていたら、東京都心でかなりの雪が降ったというニュースでした。続く天気予報では、次第に北陸地方も大雪や暴風になるので注意を呼びかける内容でした。天気予報ではそういっていますが、バスに乗っているときに降っていた雪は夕方には止み、風もありません。でも、湖西線は風に弱く、よく運休することは知っていたので、念のため、インターネットで、帰る予定の23日の北陸線の運行状況を調べてみました。

 すると、「明日の北陸線のサンダーバードは、下記の列車の運行を取り止めます」とあり、ほとんどのサンダーバードの列車番号が出ています。予約している列車はもちろん含まれています。そのとき、すでに夜の10時を過ぎていました。最寄りの加賀温泉駅に電話しても、営業時刻を過ぎているということでつながらず、北陸案内センターも同じ、金沢駅も同じです。そのとき、ツイッターの「北陸線のほとんどが運休?! 早い列車は動くの?」みたいなつぶやきをみつけました。確かに、サンダーバードは6号から表示されています。サンダーバードの始発は4号のはず。ということは4号は動くのか。サンダーバード4号は、加賀温泉駅を6時35分発です。駅に問い合わせてもつながらない時間帯なので、それに賭けてみようと思いました。ホテルのフロントの人と何度も話をしました。とりあえず、少し寝て、朝早くタクシーで加賀温泉駅へ行ってみることにしました。

 朝4時半に起きました。雪は全く降っていません。風もほとんどありません。呼んでもらったタクシーに乗り、加賀温泉駅へ着くと、駅の電光掲示板には、サンダーバード4号の表示があります。予約していた列車をキャンセルして、4号に変えてもらいました。サンダーバードで動くのは、唯一この4号だけだとのことでした。

金沢 駅表示
金沢 運転休止の表示
金沢 サンダーバード運転取りやめ

 6時30分、アナウンスが入りました。「本日、最終列車の、6時35分発、サンダーバード4号が2番線に入ります」始発なのに、最終列車。ホームページの情報は正しいものでした。朝まだ暗いうちの最終列車に乗り込み、大阪駅には9時過ぎに到着しました。なんとかかろうじて雪の北陸から脱出し、帰ってくることができました。

 人生、何が起こるか分かりません。情報を知らないままだと、今、確実に大阪に帰っていないどころか、強風、大雪のためにも3日ほど大阪に帰れず、加賀温泉郷に閉じ込められていたと思います。僕は常に最悪の事態を想定し、できるだけ広い角度で物事をとらえるようにしています。そのクセが今回活かされました。正しい情報を早く得て、いろんな角度で考えてみる。そのことの大切さを思い知らされました。そして、すばやい対応、判断力と行動力が試されているようでした。
 こんなこともあるよなと思いながら、今、ほっとして、ブログを書いています。 

日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2018/01/23