竹内敏晴さんから、渡辺貴裕さんへ、バトンがつながって

 

吃音の夏の最後のイベント、第28回吃音親子サマーキャンプが終わって、10日あまり。参加者から、参加しての感想が少しずつ返ってきています。それらを読みながら、また、サマーキャンプの余韻に浸っています。

 吃音親子サマーキャンプは、7月の事前レッスンから始まります。キャンプの大きな柱、芝居のレッスンをまずスタッフが合宿で受けます。それを、初日の夜にみんなに見てもらい、翌日から練習をするのです。

 竹内敏晴さんは、亡くなる2009年の夏も、変わらぬレッスンをして下さいました。「伊藤さん、がんになったよ」と電話をいただいたのが6月の上旬で、がんの痛みの中で、キャンプのためのシナリオを書き上げ、その事前レッスンも7月にして下さいました。そして、亡くなられたのは、9月8日でした。ぎりぎりまで、僕たちのキャンプを大切にして下さっていたのです。

 竹内敏晴さんが亡くなられてから、その跡を引き継いでくれているのが、東京学芸大学大学院准教授の渡辺貴裕さん。
渡辺さんは、吃音とは全く関係がないのですが、大学生のときから、このサマーキャンプに関わってくれています。渡辺さんの専門は、演劇の手法を使っての教育実践の研究です。だから、事前レッスンも、お芝居を仕上げるということも大切にしていますが、そのプロセス、他者にどうかかわり、どう声を届けていくかというところにスポットを当ててくれています。
事前レッスンには、関東や九州からことばの教室の教師が参加しますが、多いのは、大阪近郊の教師と大阪吃音教室の仲間です。当然、せりふでも、ことばが出てこない場面があります。
 
 そんなとき、渡辺さんは、自分の決められたせりふを言おうとするその人に向かって、相手のことばをしっかり受け止めようと声をかけます。その相手のことばに自分のからだがどう反応するか、相手のことばを受け止めて自分のからだが動くままにことばを返していこうと言います。やりとりで生まれてくる空間を大切にしようということを伝えてくれているのです。
子どもたちと一緒に取り組むエクササイズもたくさん紹介して下さいます。せりふそのものより、他者とともにいる空間を楽しむことができることをまず味わおうというのです。

 今年のお芝居は、ミヒャエル・エンデの「モモ」をもとにした「モモと灰色の男たち」。竹内さんから渡辺さんに演出をバトンタッチしてすぐに上演して2度目の芝居です。たっぷり芝居のおもしろさを味わいました。
 録画を担当してくれている井上詠治さんがその様子を撮影し、映像を編集してくれました。それを見て、みんな復習したようです。
 小道具や衣装の担当は、元神戸のことばの教室の教員の西山佳代子さんと神奈川県の教員の鈴木尚美さん。毎年すばらしい衣装と小道具を作ってくれています。衣装と小道具が、お芝居をぐっと深みのあるものにしてくれるだけでなく、子どもたちが芝居に入っていくのを支えます。
 適材適所でどうしてこんないいチームワークがとれるのか、いつも不思議です。おかげで、うちには、いろんな小道具が段ボールに何箱もたまりました。

 吃音親子サマーキャンプは、吃音についての話し合い、芝居の稽古と上演、親の学習会が3つの柱ですが、子どもには、これらに作文教室とウォークラリーが加わります。
 どもる子どもにとって、これらの活動がうまく機能しています。吃音についての話し合いが大好きな子もいれば、作文が大好きな子、それらは少し苦手だけれど、芝居の稽古と上演が大好きな子。ウォークラリーでリーダーシップを発揮する子。それぞれ苦手や得意なことがありますが、バラエティに富んだプログラムなので、一人ひとりがどこかで主役になれるのです。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2017/8/29