年末年始の東京での滞在が、遠い過去のできごとのようになってしまいました。
 気を取り直して、3連休の東京行きの目的のひとつ、吃音プロジェクトの合宿の様子を報告します。吃音プロジェクトとは、日本吃音臨床研究会の中で、どもる子どもにかかわることばの教室や支援学教などの教員と、言語聴覚士でつくっている「吃音を生きる子どもに同行する教師・言語聴覚士の会」の略称です。

吃プロ合宿

 合宿は、1月7日の午後からスタートしました。会場は、滝野川会館と北とぴあです。
参加者は、遠い沖縄、鹿児島、兵庫、大阪、愛知、栃木、千葉、神奈川などから、全員で14人です。交通費と時間を使い、参加して下さることに、仲間としての深い感謝と敬意を感じています。

 2017年のテーマは、吃音哲学。レジリエンス、当事者研究、ナラティヴアプローチ、オープンダイアローグなどの理解と、それをどう吃音哲学と結びつけ、ことばの教室での実践に活かしていくのか、考える場にしたいと思っていました。

 もうひとつは、どもる子どもたちのグループ指導のあり方です。全国的な流れかどうかは、明確ではありませんが、どもる子どものグループ指導をしていることばの教室は少なくないように思います。個別指導も大切だけれど、グループ指導で得られるものもとても大きいと思っています。加えて、新しい担当者がどんどん増えていく中で、1時間の授業の組み立て方も、提示していけたらいいなあと感じています。その中に、僕が提案する対話のレッスンや日本語のレッスンをどう入れていけばいいのか、具体的な提案をしたかったのです。
 
 これまで何度も会い、濃い時間を過ごしているにもかかわらず、それぞれが、ことばの教室で、指導の1時間をどう過ごしているのか、出し合ったことはありませんでした。ひとりひとりが、子どもがことばの教室に入ってきてから、どんなことばをかけ、指導がスタートするのか、話していきました。これはとても興味深いものでした。普段の様子から、らしいなあという時間の使い方が見られたし、自分のことばの教室でのあり方をふりかえる時間にもなりました。自分のスタイル、個性、地域性を大事にしながら、たとえば、こんなこともできそうだよという提案ができそうです。

 レジリエンス、当事者研究、ナラティヴアプローチ、オープンダイアローグなどを共通の理解として押さえておく基本的ポイントも確認しました。
 対話の大切さを言っていますが、なぜ大切なのだろうか、をみんなで出し合いました。一人で考えていたら、ここまでは出ないだろうなというような内容が、たくさん集まれば、どんどん出てきます。たとえば、こんなことが出ました。

なぜ対話が必要なのか。
・しっかり聞いてもらうために、認めてもらうために。
・対等性を保つために。
・ともに考えるためのツールになる。
・ことばは思考の道具と言われるが、対話によって、語れるようになれる。レジリエンスで大事なのは洞察で、洞察のためには語ることが大切。
・多様な考え方ができる。たくさんの考えに触れ、不登校が解消していった例もある。
・語ることのできる場が大事。場をつくっていくことによって、参加している子どもたちは、今度は自分で場を作れる立場になっていく。その練習にもなる。
・自分がないと対話は成立しないから、自己概念が確立できる。
・素の自分、裸の自分になれる。
・対話の中で、ヒットすることばに出会うと、それが行動に移すきっかけになる。
・対話するには、相手が必要。応答する力のある相手が必要になる。そして、返ってきたことに喜びをみつける。
・考えるようになる。
・ことばを大事にするようになる。ことばは万能ではないけれど、ことばの力を信じることができる子になる。
・自分をみつけることができる。
・言語化することができる。
・新しい価値観をみつけることができる。
・多様性を認めることにつながる。
・変わる力につながる。援助者の方が先に変わってもいい。
・話すことが好きになる。
・伝える力があることに気づく。
・生きやすさにつながる。つまり、自分の環境を自分の力で変えていくことができる。分かってくれない人間ばかりの中でも、伝えていかないと生きていけない。吃音に対して、理解してほしいと言うだけではなく、目の前の人に自分のどもりのことを伝える力が大事。それが生きていく上で、理解の輪を広げていくことになる。
・話す量を増やすことになる。おしゃべりな人間になり、それは結果的に言語訓練になる。

 合宿は、7日の午後からスタートし、夜の10時まで続きました。翌日の8日は、北とぴあで、伊藤伸二・東京ワークショップがありましたが、それが終わった後、午後6時から10時まで。最終日の9日は、渋谷でのイベントの直前まで続きました。
 参加した人が、たった3日だけれど、1週間にも2週間にも感じる濃い時間た゜ったと表現していました。
この熱気は、今年1年間の活動を支えてくれるに値するエネルギー源になりました。

日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2017/01/27