大阪スタタリングプロジェクトの忘年会は、ひとりひとりのスピーチが、とびきりのごちそうです。笑いあり、涙あり、温かいヤジもあり、そんな中でひとり、前に立ち、今年一年を振り返ります。午後6時に始まって、終わるのが10時を過ぎるという、この珍しい忘年会。そこで語られるひとりひとりの人生を、参加した31人分、ほんの少しずつですが、紹介します。メモを元に再現されたものなので、正確さには欠けますが、大筋はまちがっていないと思います。メモをとってくれた人に感謝します。

☆北九州のお盆、普通は、お坊さんが檀家に行ってお参りするけれど、檀家が多いため反対に檀家の皆さんがお寺にやってくる。僧侶としてそのお手伝いに行き、1日10回、おつとめと法話のセットを行った。来て下さっている人に、どうしたら伝わるだろうかと考えた。借り物のことばでなく、聞いているその人にぴたっとくることばで話したとき、しっかりと聞いてくれるという経験をした。

☆NHKのバリバラの番組で、自分がしゃべっているのが放映された。普段、どもりというけれど分からないとよく言われるけれど、ちゃんとどもっている、分からないはずはないと思った。でも、どもりと一見分からない、そういうどもる人の思いを伝えていくのが私の役割かなと思った。もうひとつ、NHKスペシャルで、デイビッド・ミッチェルさんと自閉症の東田直樹さんの番組を見た。東田さんが言った「人は、命をつないでいくために生きるのではない。自分の命を完結するために生きているのだ」ということばに、感銘を受けた。

☆平凡な会社員から転職して、児童養護施設で働いている。僕は、困っている人を助けるというか、一緒に考えていくのが好きだ。採用の面接で、どもっていること、セルフヘルプグループに参加していること、人を支えるのが好きだということを伝えた。貢献感も味わえるし、楽しく仕事をしている。仕事以外では、北海道や四国へ旅行したし、海外旅行もした。

☆忘年会は、6年ぶり。そのときは、学生だったが、今は仕事をしている。姫路から参加した。仕事のため、金曜日の大阪吃音教室には行けないが、日曜の吃音教室には参加している。まだ、どもったら恥ずかしいという気持ちは変わらないし、どもりたくないと思う。でも、「ラブソング」の番組をきっかけに、得意先にカミングアウトしてみると、「どもっていても、ちゃんと仕事をしている」と言われて、うれしかった。

☆サマキャンの事前レッスン、吃音講習会、吃音親子サマーキャンプと、夏は、アクティヴになる。その後、当事者研究の全国交流会に参加し、500人くらいの前で発表した。後悔しないよう、何度も原稿を書き直した。喫茶店で、最終の原稿を書いているとき、「どもりのおかげで、こういう出会いがあったと思うと、どもり、ありがとう」との思いが浮かんできて、うれしくて泣いてしまった。私が出ている、Eテレのバリバラは、父と一緒に見ようと思い、実家に行ったが、私が出るちょうど前に父は席を立ち、見られなかった。そして、「ゆっくり、しゃべったらええんや」とつぶやいていた。昔なら、カチンときたと思うが、「そうやねえ」と返すことができた。父と吃音について話すことはできなかったが、原点は、父がどもっていたことだったので、父にも感謝している。テレビを見た人から、「ええとこ(大阪吃音教室のこと)に行ってるね」と言われた。

☆今年は、結婚をし、仕事でも責任のある仕事をするようになり、いろいろと考えることの多い1年だった。小学校3年生の時の文集に、自分の吃音のことを書いていたので、持ってきた。題名は、「ことばがつまる」(作文を朗読)。担任の先生が、作文のあとに、コメントを書いてくれている。「どもっていてもいい。あなたはあなたのままでいい」と。
両親も担任の先生も、どもっていてもいいんだよというメッセージをたくさん送ってくれていたことを改めて思い出した。

☆結婚をし、祝賀会をしてもらい、感謝している。どうも、僕は、一人でいるときは、気持ちが安定しているけれど、誰かと一緒に生活したり、家族と一緒だと、怒ってしまったり、甘えてしまったりするところがある。でも、大阪吃音教室でいろいろと勉強してきているので、学んだことを活かしながら、生活している。人生、無駄なことはないなと思う。
仕事にも変化があり、本来の仕事以外に、趣味だったカメラの商業写真の仕事の依頼があった。

☆仕事で異動があり、應典院の近くになり、吃音教室に参加することができるようになった。滋賀の吃音親子サマーキャンプに行っていないけれど、第一回の沖縄のキャンプに行った。「吃音理解」の話になったとき、自分のことばで自分の状態を伝えてこなかったのだから、からかったり、もっとはっきり言ったらと言ってきた人に分かってもらえないのは当たり前だと思った。でも、同時に、説明していないのに、笑わずに聞いてくれた友だちもいた。理解してほしいと思ったら、意識して、自分のことばで説明していかないといけないと思った。

☆仕事も趣味も充実していた。売り上げは、去年の3倍くらいになり、楽しく仕事ができた。趣味の山登りは、30回くらい行った。富士山にも登った。運営委員にもなったし、吃音教室の講座の担当も、レクの実行委員もした。それらが自信になっている。

☆定年を迎えたが、まだ週に3日、仕事をしている。火曜と木曜は自分の時間。同級生の話を聞くと、親の介護、妻の介護などをしている人もいる。何が起こるか分からないので、今日一日を大事に生きようと思う。来年の夏は、北海道に行きたい。「新生」のコラムは、自分のために書いている。

☆バリバラを見て、映っている自分の表情が硬くて、ショックだった。40歳を過ぎたら、自分の顔に責任を持たないといけないと言われる。責任を持てるよう、ライフスタイルを変えていきたい。昔の彼女と復縁し、来年は結婚をと思っている。

☆新潟の禅の老師・櫛谷宗則さんの講座に感動した。吃音に揺るがない考え方、生き方を櫛谷さんから改めて学んだ。吃音があったから、ここにいるみんなと出会え、すばらしい仲間と知り合えた。すごくよかったと思う。昔、編み物を習っていたが、その先生や仲間と30何年ぶりに会って食事をし、なつかしかった。生きていたら、いいことがあるなと思った。

☆うれしかったことが2つ。ひとつは、6月に会社を辞めて、新しい会社の見学に行ったら、自己紹介でめっちゃどもったけど、「君って、吃音があるんやね」と言われて、「気にしなくていいんや。正々堂々とどもったらいいんや。君は君でがんばってくれたらいい」と言ってくれた。1月から働いて貢献しようと思った。もうひとつは、昔からあこがれていた桂文福さんに会って、「気の笑顔はいいね」と言われたこと。

☆仕事を辞めることになり、もう嫌だと思ったけれど、みんなに聞いてもらえて、人の縁や人の温かさを思った。辞める前の有給休暇を利用して、念願の一人旅をして、大好きな相田みつを美術館に行った。続けている合唱団が、今年、全国大会に出場した。そのおかげで、四国の丹さんにも会うことができた。来年も、まだまだ迷走しそうだけど。

☆10月から、生活が激変した。仕事量が1.8倍くらいになり、からだがしんどい。来年は、からだを壊さないよう気をつけたい。そして、目標を持って、努力していきたいと思う。大阪吃音教室では、レク実行委員になったり、いい仲間ができて楽しかった。

☆産休、育休で休んでいたが、4月から教師の仕事に復帰して、ばたばたしている。普段、吃音教室に行くことができないでいるが、こうして温かく迎えてもらえて、いい仲間だなと改めて思った。今年は、仕事で、自分の吃音をカミングアウトする機会が2回あった。ひとつは、支援学級の先生向けの研修会。自分の体験を踏まえながら、合理的配慮の話をした。吃音を隠していたときならこういう講師依頼があったときどうしようと思っただろうけれども、引き受けてよかった。もうひとつは、就学前相談のとき。兄が通級教室に来ている子どもなので、知っている母親だが、弟がどもることで相談に来られたとき、「実は、私もどもります」と話ができた。どもりはマイナスだと思っていたけれど、どもりでよかったなと思えた。こんなふうに思えたのは、みんなと出会えたからで、ありがたいと思っている。

☆みんなが歌を歌っているのを聞いて、うらやましかった。国民学校の時代は音楽がなかったので、歌ってこなかったし、歌をあまり知らないから。外国の人に日本語を教えるボランティアをしているので、ことばを実践するのが私のライフワーク。そのため、金曜日の吃音教室には参加できないが、日曜の吃音教室には参加している。

☆昨日、初めて吃音教室に参加した。昔からどもっていて、周りの視線も気になっていたけれど、どうしたらいいか分からないまま、去年、社会人になった。仕事をする中で、どもりによる壁を感じるようになり、自分自身を変えようとしていた。仕事は一生懸命していたが、同期が退職してしまい、相談する人もいなくなった。先輩に話をしたら、ネットで調べてくれて、大阪吃音教室に参加した。共感することが多く、うれしかった。なぜ今まで知らなかったのだろうと思う。これから、継続して参加していきたい。

☆小学校3年生のときに書いた作文を聞いて、両親や先生がどもることを認めてくれることの大切さを思った。教師の仕事というのは、「あなたのしていることはおもしろい。いいで。それでいいで」ということを伝えることだと思っている。作文を書いたOさんも、沖縄に一緒に行ったAさんも、大阪吃音教室と出会うべくして出会っているのだと思う。

☆10月から参加している。子どものころから、連発でどもっていた。難発になって、こんなにしんどいものなのかと思って、ショックだった。人も避けるようになってしまい、これではやばい、ひきこもりまっしぐらになると思って参加するようになった。私は、人見知りする方だけど、多くの人から声をかけてもらってうれしかった。

☆学童保育の仕事から接客のアルバイトに変わって、今も続けている。教室では、レク実行委員をして、みんなと仲良くできた。1年半前から高校に行き始めて、3月に卒業する。自分でもよくがんばったなあと思う。そして、4月からは大学に進学する。楽しく生活できたらいいなと思っている。

☆吃音ショートコースに参加したとき、難発だけど、連発でしゃべれるようになりたいと言った。でも、それができていない。連発でどもることは恥ずかしいし、難しかった。私の吃音は、小学校6年生のとき一旦治って、また中学生でぶり返したと思っていたけれど、小さいときはあがり症だったけれど、ちゃんとしゃべっていた。中学生のとき入院して、そのときからどもるようになったんだということに、最近気がついた。

☆山口と大阪を往復する生活をしている。96歳の母は、長生きし過ぎたと言いながら、毎年、インフルエンザの予防注射をしている。今年の夏が一番暑いわと毎年言うし、風邪なんかひいたことがないわと言いながら毎年ひいている。このマッサージ器、使ったことがないから使うわと言って、いつも使っている。今までは、それらを訂正していた。でも、今は、訂正せず、軽く流すことにしている。それは母の課題であって、僕の課題ではないと学んだから。

☆吃音ドキュメンタリー映画、「The Way We Talk」に字幕を入れても日本語版をリリースできたことが一番心に残っている。映像化プロジェクトも何本か、映像を撮ることができてよかった。来年は、ドキュメンタリーを撮ってみたい。会社はばたばたしたけれど、沖縄のキャンプにも行けてよかった。
◇コメント 沖縄で、「先生」と言われていたIさん。半生を振り返って話すことで、どもる子どもや保護者に具体的な先輩としての姿勢を示すことができた。メンターの役割を果たしたことになる。千葉の看護師がどもることで落ち込んでいたが、Iさんの作成したYouTubeを見て元気になったという話を千葉のことばの教室の先生がしてくれた。映像が彼女を元気づけたということだろう。

☆いつも、年の初めに、その年のキーワードを決めている。今年は、「外」だった。一人暮らしを始めたこと、劇団で活動をしているが、今年初めてソロで歌う機会をもらったことなど、「外」に出て活動できたことがよかった。

☆忘年会は、昨年も一昨年も参加できなかったが、今年は予定が入ったけれど、こっちを優先した。ホームページの更新について少しずつしているが、近いうちに、スマホ対応画面にしたいと考えている。

☆初めてのことが多かった1年だった。運営委員になったし、吃音教室の講座も担当したし、「新生」の編集もした。自分の能力を超えていると思ったけれど、がんばれた。レクの世話人をして、みんなの輪をつなげたいと思っている。来年もいろいろ企画したい。

☆なぜこの場にいるかというと、上司が、大阪吃音教室をみつけてきてくれて、紹介してくれたから。忙しい時期で間に合うかどうか分からないけれど、行ってみようと思って、昨日の金曜日、終了ぎりぎりの片付けている時に会場に入った。遅れても行動することが大事と思った。どもりを隠していたけれど、上司が気づいてくれた。どもりながらでも、なんとかやれると思っている。

☆どもりを治す・改善するを目標に活動をしていた頃の仲間は、こんなにたくさんおしゃべりしなかった。どうしたら軽くなるかとか、また元に戻ったとか、あいつよりはまだ自分の方が軽いとか、そんな、幅の狭い会話でしかなかった。17歳のとき、初めて参加して、43年経った。吃音とともに豊かに生きるを目指している今は、幅広く人生を考え、対話がすすむ。先輩たちは、自分の体験を書いてこなかった。自分が経験した体験を話したり、書いたりする活動の大切さを伝えていく役割を果たしていきたい。

☆相変わらず忙しかった。多くは、退職したら暇になり、時間をもてあましているようだが、したいこと、しなければならないことがあることは幸せだ。吃音に関して、主流じゃないけど、本流をいく取り組みができることはありがたい。

☆今年も、たくさんのどもる子どもたちや保護者、ことばの教室の担当者との出会いがあった。特に、どもる子どもたちから直接質問を受け、やりとりをし、哲学的対話を試みたことが楽しかった。吃音ショートコースなどて、私たちに関わって下さったかたがたが、折りにつけて私たちとの出会いの体験を話して下さっていると聞いた。今日、明日と、国重浩一さんのナラティヴ・セラピーの研修会があって、参加している。そこで、ナラティヴ的実践をしているとして、吃音の話をする機会をもらった。吃音への取り組みが、吃音以外の分野の人にも、普遍的なものとして考えてもらえるということがうれしい。

日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2016/12/30