昨日、2016年度の大阪府人権擁護委員会連合会総会で、講演をしてきました。大阪府下の人権擁護委員の方、各市の市長など300人ほどの参加者でしょうか。
 僕の講演時間は、90分の予定でした。総会が30分長引き、予定どおり90分をまるまる使うと、当然、もともとの終了予定時刻を30分オーバーしてしまいます。短縮して60分で終えることもできたのですが、吃音にほとんど関心がない人への講演の機会はあまりないので、結局予定どおり90分を使って話しました。

 人権擁護委員会ですから、差別的なことばには敏感です。配慮にも人一倍敏感な人たちです。話は二部構成で、僕の吃音の人生が「配慮の暴力」から始まり、「どもり」を放送禁止用語にしたいきさつや、「どもり」がマスコミや教育関係で使われなくなったことのマイナスの影響について話しました。その後、病気や障害、様々なマイノリティーの生きづらさを考えるのに、僕がこれまで学んできたことを話しました。

 どもりとはどのようなものか、全く知らない人に、TBSで放送された「報道の魂」を見てもらった後、僕としては初めて、パワーポイントをもとに最後まで話しました。以下はその資料です。


          第67回大阪府人権擁護連合会総会
                 2016.6.2   ホテルアウィーナ大阪

    吃音を生きて、見えてきたこと 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二
大阪府人権擁護 講演1

今日の話
機〇笋梁慮
供〇笋吃音を生きて学んだこと
    1 問題の箱と氷山説
    2 共同体感覚
    3 レジリエンス
 
機〇笋梁慮
鬼 3歳から小学2年生の秋まで 悩むことも困ることもなく、平気でどもっていた。
挟 小学2年生の秋から21歳まで 吃音を否定し、深く悩み、問題が大きくなった。
郡 21歳から72歳の現在 吃音に悩むことも、困ることもなく幸せで充実した人生 私が悩み始めたきっかけ 小学校2年の秋の学芸会で、セリフのある役からはずされた。
 不当な差別か、教育的配慮か。
 「吃音は悪い、劣った、恥ずかしいもの」とのレッテルを担任教師から貼られたことになり、初めて吃音をマイナスのものと意識する。教師から押しつけられた吃音否定の価値観によって、吃音に強い劣等感をもつ。吃音否定の語りのはじまり

配慮の暴力 1 この詩に出会い、教師の教育的配慮だったと考えた。
   いじめられっ子のひとりごと 平井雷太
もし私がいじめられっ子でなかったら、/くやしさ、くちおしさ、無念さを/学ぶことはしなかった/いじめっ子たちをしかとすることが/最大の抵抗であることを/学ぶこともなかった/しかし/もっと私を傷つけたのは/やさしい子どもたちだった/私がどもると/私のそばで一生懸命助けてくれた子ども/私のかわりに本を読んであげようかと/出席の代弁をしてあげようかと/この屈辱にくらべれば/肉体的な苦痛などどうということはなかった/いじめの傷はいえても/やさしさの傷がいえることはなかった

配慮の暴力 2 「どもり」は差別語か。テレビなどのマスコミが放送禁止用語としたことにより、新聞や教育現場から「どもり」ということばが消えた。「吃音」としか使わない。そのため、何が起こったか。「吃」は吃音以外使わない古い漢字なので、吃音と言われても知らない人は多い。

苦しかった学童期・思春期
 アドラー心理学 劣等性(客観的)劣等感(主観的)劣等コンプレックス(吃音を言い訳にして、人生の課題から逃げる)  1 仕事  2 人間関係  3 愛

1965年夏、吃音治療所での経験
  「わーたーしーはー」とゆっくり話すと、どもらない方法や、 「わざとどもる」や、「軽くどもる」というアメリカの治療法による言語訓練。午前中は呼吸・発声練習、午後は毎日100人に話しかける街頭訓練、上野公園の西郷隆盛の銅像前や、山手線の電車での演説吃音は治らなかった。私だけでなく、300人全員が治らなかった。

転機 良かったこと
 同じようにどもり、吃音に悩む人と出会えた
 どもりについて初めて話し、聞いてもらえた
 愛してくれた、初恋の人と出会った
 悩みながらも、様々な仕事について社会人として生きている人に出会えた
 どもりについて学んだ
 どもりを治すことに、あきらめがついた

話すことから逃げない生活のはじまり
 家がとても貧しく、どもっていてもできる、新聞配達店に住み込み、大学に通う。新聞配達店から吃音治療所の寮生活へ。吃音が治らず、どもる覚悟ができてからの退寮後のアルバイト生活の2つのルール
,匹鵑覆砲弔蕕ても1か月は我慢しよう
△匹鵑覆望魴錣よく、人間関係ができても1か月でやめよう

セルフヘルプグループの設立
 1965年秋、吃音治療所で知り合った仲間たちと、「言友会」を創立。初めてリーダーになり、様々な力が身につく。人前で話すこと、人の話を聞くこと、文章を書くこと、企画して運営すること、対人関係の力。セルフヘルプグループの活動と、アルバイト生活で、どもるからといってできないことなど、何一つないことを知る
 共同体感覚が身につく 自己肯定、他者信頼、他者貢献

10年の活動の中で学んだこと
 どもる話しことばの特徴を、マイナスに意識することで悩みが始まり、問題になる。
 1吃音は、行動、思考、感情へのマイナスの影響が問題となる。
 2原因が解明できず、治療法もない。ほとんどの人が実際に治っていない。
 3吃音から受ける影響は大きな個人差がある。
 4社会から影響された否定的な物語を自らも語ることで、物語に沿って生きてしまう。

吃音否定の物語を変える
 吃音をマイナスのものとしてとらえることで、問題が発生する
 どもりは悪い劣ったもの→どもっていても楽しく豊かに生きることはできる
 社会の支配的な物語(ドミナントストーリー)を、違う物語(オルタナティヴストーリー)に変えていく

吃音者宣言
スキャットマン・ジョン
英国王のスピーチ 
第10回どもる人の世界大会で世界的小説家、デヴィッド・ミッチェルさんとの対話
 「これ以上、吃音との戦いを続けていたら自分が壊れる。吃音との内戦をやめたとき、楽になった。子どもの頃から、どもることばを言い換えて生き延びてきたことが、語彙を豊かにし、小説家としての私の能力を育てた。今では、吃音にとても感謝している。今は,どもりを治す薬があっても決して飲まない」

大阪府人権擁護 講演2

 供ゝ媛擦鮴犬て学んだこと
     1 問題の箱と氷山説
     2 共同体感覚
     3 レジリエンス

問題の箱
X軸・問題そのもの 病気、障害、老いなど、様々な生きづらさの原因だと考えていること。性的マイノリティーなど、様々な少数派、変えようがない、治せないもの

Y軸・環境
社会の障害に対する理解、人権教育、社会資本の充実
    牧口一二さんの場合…地下鉄のエレベーター設置運動
    谷口明広さんの場合…自立とは
    吃音の理解  掛田力哉さん

Z軸・本人の態度
 障害のある本人の、病気や障害や老いに対する気持ちや考え方。マイノリティ、少数者である自分自身に対する物の見方、受容。
共同体感覚 自己肯定・他者信頼・他者貢献
楽観的人生観
レジリエンス(回復力・逆境を生き抜く力)

氷山説

共同体感覚
 私は共同体の一員だという所属感。共同体は、私のために役に立ってくれているという安全感や信頼感。私は共同体のために役に立っているという貢献感
自己肯定  私は私のままでいい
他者信頼  私はひとりではない
他者貢献  私には人の役に立つ力がある

レジリエンス
 アメリカの心理学者、ウェルナーは、貧困、暴力など劣悪な環境で育った人を長年にわたって調査研究した。すべての人が貧困や犯罪など大変な生活を送っているだろうと思っていたが、3分の1の人が能力のある信頼できる成人になっていたと報告した。この人たちのことを「心的外傷となる可能性のあった苦難から新しい力で生き残る能力、回復力がある」として、「レジリエンス」があるとした。

子どもと語る肯定的物語
 吃音を治したい、軽減したいとのニーズ 奥にあるのは子どもが幸せに生きてほしい 
 吃音は訓練しなくても自然に変わる
 否定的な物語を肯定的な物語に
 吃音が治っても、症状が軽減しても、たいしたことはない
 どもれない悩み どもる人の本当の悩み

 
吃音親子サマーキャンプ
 宮城県女川町から3年連続で参加した4人家族。
阿部さんは、話し合いの中で、「今、学校に行っていないんです」と、その苦しさを語った。子どもたちは、共感的に聞くだけでなく、「学校に行きたいから、このキャンプに来たんだね」 と対話を続けた。彼女は「みんな、前向きにがんばっている。どもりは私にとって大事なものなんだ」と変化していく。新学期、彼女は学校に通い始めた。そして、2011年3月11日、津波に巻き込まれ、母と共に亡くなった。

最近、考えたこと 盲導犬の記事から

大阪府人権擁護 講演3

日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2016/06/03