大阪吃音教室の吃音基礎知識の続きです。


  7 <男女比> どもる人に男性が多いのはなぜ?

質問

 大阪吃音教室でもそうですが、吃音は男性の方が圧倒的に多いですよね。先ほどの進化論とはつながるものがあるのかもしれませんが、どういういきさつでこうなったのでしょうか?


【伊藤】

 いきさつというのは、どういう理由、原因かということでしょうが、事実としてどもる男性は、どもる女性の3倍から7倍だと言われています。この数字も研究者で幅はありますが、大きな差があることは事実です。男女比がこれだけ違うということが、吃音は遺伝的な因子があるのではないかという説が根強くあるのだと思います。
 
 男女比は、吃音の世界大会でも話題になりました。「男性は女性よりも社会的な期待が大きいから、ストレスやプレッシャーが大きい」「男尊女卑が影響している」「女性は結婚すると社会にでなくていいから」「もともと女性は子どもの頃は、男性より成長が早い」などいろいろな説が言われていますが、僕はそういうこととは全く関係ないと思います。スウェーデンでも日本でも、韓国でもどの国でも、男女の期待や社会的地位などにかなり差がある国であっても男女比は同じです。
 遺伝子についても分かっていません。アメリカではいろいろと研究して、論文は発表されているようですが。確実にこうだとは言い切れないものばかりです。もう「わからない」ということです。吃音にはわからないことばかりなのに、様々な研究がされています。もう「わかりません」といえばいいものを、何か理由をつけて成果を出さないと大学の教授や研究者としての役割ができてないように思うのでしょうか。いろんな仮説が出ますが、すべてが結局は否定され、何もわかっていません。

  「なぜ歌う時にはどもらないのか」という単純な吃音のメカニズムですらわかっていません。科学的な説明も誰もできていません。それくらいにわからないことばかりなんです。世の中には原因不明、解明できないことは山ほどあります。
 昔から吃音は謎の障害、謎の問題と言われており、科学や医学が進歩し、IPS細胞、STAP細胞などと言われるこの時代においても未だに何にもわかっていません。それなのに最近の吃音の本では「これだけのことが科学的な根拠でわかってきました」「遺伝が0パーセントです」などと、ごく一部の論文を紹介して、まことしやかに書かれていますが、嘘っぱちです。
 それほど吃音は、謎めいたもの、不思議なものなのです。

2016/05/24  伊藤伸二