吃音を生きるために、知っておきたい基礎知識 2
前回に続いて、大阪吃音教室での僕の担当の講座です。
出された質問
1.吃音と進化論
2.吃音は遺伝するのか
3.幸せに生きるには
4.相手によって喋りやすかったり喋りにくかったりするのはなぜか
5.なぜどもらない人は、どもる人を笑うのか
6.どもりは治るのか
7.男女比のなぞ
8.「環境調整」とは何ですか?
9.吃音を隠して生きる人、認めて生きる人の違いとは
2.「遺伝」
先週の映画「The Way We Talk」で、学者が「吃音の8割が遺伝」だと言っていました。その説を前提にした場合、残りの2割、つまり後天的に発症する人は、どういう理由で発症するのですか?
【伊藤】
あれは、真っ赤な嘘です。ああいうことを言うこと自体、吃音の研究者のレベルがあまりにも低く、アメリカにおいても、いい研究者が育っていない証明だと思います。
遺伝に関しても、脳に関しても、たくさんの説がありますが、今もほとんどわかっていません。それなのに「8割が遺伝」だと言い切る学者がいること自体信じられないですね。おそらく映画に出てきた、マイケルの家族のように、家族の中にどもる人がたくさんいる家族のことを調べた結果をもとにしているのでしょう。
吃音が人口の1パーセントとしたら、日本では100万人ほどいることになります。その数も信用できなくて、いいかげんだと思いますが、100万人の中のかなりの割合を調べなければ、こんなことはいえません。病院や、吃音研究所にくる人は、どもる人の中でごくごくわずかです。塵のような数です。
吃音に対していろんなパーセンテージが挙げられて、それをエビデンスだと紹介する吃音研究者がいますが、それらは、ほとんど勝手な推測で言っているに過ぎないと言っていいと思います。パーセンテージを挙げるためには、多くのどもる人のデータが必要です。しかし、吃音には目立つどもりと目立たないどもりがいます。それらの人を全て研究するということはありえない。どもりを隠している人を含めて、どもりを統計的に調べるなんてことは不可能です。
僕のような糖尿病の患者は病院に行かなくてはいけないので、データはある程度蓄積されます。それでも、糖尿病と思われる人でも、病院に行っていない、治療を受けていない人はとても多いのです。
アメリカの吃音研究が出しているパーセンテージは、大学や吃音治療所に来た人の数だけで出しているのです。どもる人の4割が社会不安障害があると、よく売れている吃音の本に書いてありますが、これもとんでもないことです。吃音に深く悩んでいるから、言語病理学のある大学や、吃音治療、研究機関に行くのであって、ある意味、精神的にしんどい思いを抱えている人でしょう。その人をベースにして4割だと言っているに過ぎない。吃音にこまることはあっても、なんとかサバイバルして生きている人がほとんどで、その人たちは相談にも行かない。 アメリカでも日本でも、ほとんどのどもる人が治療所や研究所を訪れないのです。当然その人たちの数字は全くカウントされません。ごく一部の悩みの深い人が治療所に訪れ、その人たちのデータん゜蓄積されていくのです。
ここでみなさんに質問します。僕の父親はどもりですが、みなさんの中で、家族にどもる人がいるという人、手を挙げてください。(30人中、手を挙げたのは5人程度)
この程度です。僕が講演会や研修会などて聞いても、この程度か、これよりももっと少ないです。となると、映画ではどのような意味で言っているか分かりませんが、「吃音の8割は遺伝」という表現は、単純にその文言だけを聞くと、びっくりしますよね。そんなことはありえないです。遺伝をどのように考えての8割なのか、もっと慎重に発言すべきです。
いかに吃音の研究者たちがいい加減な研究をして人を惑わしているか。吃音に関してパーセンテージや数値を挙げる人は、ほとんど眉唾ものだと考えていいと思います。
吃音は原因も分からず、なぜ独り言はあまりどもらないのか。歌ではどもらないのかなどの、単純なメカニズムも。憶測でいうことはできても、科学的に説明できる人はいません。独り言でどもる人もいますし、ぼくなんか夢で、寝言でもどもっているらしいですし、歌でどもらない人が圧倒的に多いですが、歌でどもる人を大人ひとり、子どもひとりに僕は会いました。遺伝子研究、脳の画像診断の技術で、分かった風なことを言う研究者はいますが、いいかげんなものです。数字にはほとんど意味がないと考えた方がいいです。
日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2016/05/19
前回に続いて、大阪吃音教室での僕の担当の講座です。
出された質問
1.吃音と進化論
2.吃音は遺伝するのか
3.幸せに生きるには
4.相手によって喋りやすかったり喋りにくかったりするのはなぜか
5.なぜどもらない人は、どもる人を笑うのか
6.どもりは治るのか
7.男女比のなぞ
8.「環境調整」とは何ですか?
9.吃音を隠して生きる人、認めて生きる人の違いとは
2.「遺伝」
先週の映画「The Way We Talk」で、学者が「吃音の8割が遺伝」だと言っていました。その説を前提にした場合、残りの2割、つまり後天的に発症する人は、どういう理由で発症するのですか?
【伊藤】
あれは、真っ赤な嘘です。ああいうことを言うこと自体、吃音の研究者のレベルがあまりにも低く、アメリカにおいても、いい研究者が育っていない証明だと思います。
遺伝に関しても、脳に関しても、たくさんの説がありますが、今もほとんどわかっていません。それなのに「8割が遺伝」だと言い切る学者がいること自体信じられないですね。おそらく映画に出てきた、マイケルの家族のように、家族の中にどもる人がたくさんいる家族のことを調べた結果をもとにしているのでしょう。
吃音が人口の1パーセントとしたら、日本では100万人ほどいることになります。その数も信用できなくて、いいかげんだと思いますが、100万人の中のかなりの割合を調べなければ、こんなことはいえません。病院や、吃音研究所にくる人は、どもる人の中でごくごくわずかです。塵のような数です。
吃音に対していろんなパーセンテージが挙げられて、それをエビデンスだと紹介する吃音研究者がいますが、それらは、ほとんど勝手な推測で言っているに過ぎないと言っていいと思います。パーセンテージを挙げるためには、多くのどもる人のデータが必要です。しかし、吃音には目立つどもりと目立たないどもりがいます。それらの人を全て研究するということはありえない。どもりを隠している人を含めて、どもりを統計的に調べるなんてことは不可能です。
僕のような糖尿病の患者は病院に行かなくてはいけないので、データはある程度蓄積されます。それでも、糖尿病と思われる人でも、病院に行っていない、治療を受けていない人はとても多いのです。
アメリカの吃音研究が出しているパーセンテージは、大学や吃音治療所に来た人の数だけで出しているのです。どもる人の4割が社会不安障害があると、よく売れている吃音の本に書いてありますが、これもとんでもないことです。吃音に深く悩んでいるから、言語病理学のある大学や、吃音治療、研究機関に行くのであって、ある意味、精神的にしんどい思いを抱えている人でしょう。その人をベースにして4割だと言っているに過ぎない。吃音にこまることはあっても、なんとかサバイバルして生きている人がほとんどで、その人たちは相談にも行かない。 アメリカでも日本でも、ほとんどのどもる人が治療所や研究所を訪れないのです。当然その人たちの数字は全くカウントされません。ごく一部の悩みの深い人が治療所に訪れ、その人たちのデータん゜蓄積されていくのです。
ここでみなさんに質問します。僕の父親はどもりですが、みなさんの中で、家族にどもる人がいるという人、手を挙げてください。(30人中、手を挙げたのは5人程度)
この程度です。僕が講演会や研修会などて聞いても、この程度か、これよりももっと少ないです。となると、映画ではどのような意味で言っているか分かりませんが、「吃音の8割は遺伝」という表現は、単純にその文言だけを聞くと、びっくりしますよね。そんなことはありえないです。遺伝をどのように考えての8割なのか、もっと慎重に発言すべきです。
いかに吃音の研究者たちがいい加減な研究をして人を惑わしているか。吃音に関してパーセンテージや数値を挙げる人は、ほとんど眉唾ものだと考えていいと思います。
吃音は原因も分からず、なぜ独り言はあまりどもらないのか。歌ではどもらないのかなどの、単純なメカニズムも。憶測でいうことはできても、科学的に説明できる人はいません。独り言でどもる人もいますし、ぼくなんか夢で、寝言でもどもっているらしいですし、歌でどもらない人が圧倒的に多いですが、歌でどもる人を大人ひとり、子どもひとりに僕は会いました。遺伝子研究、脳の画像診断の技術で、分かった風なことを言う研究者はいますが、いいかげんなものです。数字にはほとんど意味がないと考えた方がいいです。
日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2016/05/19