吃音者宣言裏表紙 001

 大学の教員に僕がなれたのは、100%神山先生のおかげです。今も心から感謝しています。
 大学はありがたいところでした。自由に時間が自分で使える。今の大学とはちがって随分と自由でした。
 大学の教員になって一番よかったのは、僕のこれまでの吃音の体験、セルフヘルプグループの経験を、時間をかけて検証できたことでした。振り返る間もなく、7年間駆け抜けるように必死で言友会の活動を続けてきました。一度立ち止まって、僕たちはどんな経験をし、何を得たのか、じっくりと検証する時間が必要でした。幸い、僕の研究室には全国からどもる人が集まってきました。専攻科の学生は、現職の教員で教育のベテランです。どもる人、これからことばの教室の教師になる人、さまざまな考えや経歴を持つ人と、時間をかけて話し合うことができました。

 中でも、吃音ショートコースと名付けた4泊5日の吃音の集中講義はすごい合宿でした。準備に大変な時間をかけました。そして、当時学芸大学の内須川洸教授が講師で来て下さいました。神山五郎、内須川洸という、日本の吃音研究では、この二人しかいないという、別格の専門家が二人揃うのですから、吃音に関心を持つ人なら誰もが参加したくなります。大学の集中講義でありながら、誰もが参加できるように神山先生が門を開きました。おかげで、全国のことばの教室の担当者のリーダー的存在の人、国立特殊教育総合研究所(当時)の研究員や病院のスピーチセラピストたちが、一大学の集中講義の枠をこえて集まってくれました。その時のテーマは僕が考えるのですから、全て、自分が検証したい、考えたいテーマにできました。

 「治らないどもりをどうするか」が常にベースにあるテーマでした。僕の研究室はいつも大学の門限ぎりぎりの夜の11時まで明かりがついています。ものすごい時間をかけてどもる人の人生、グループの経験を専攻科の学生、非常勤講師として来た下さった先生、大阪教育大学の先生たちなど、とても贅沢な組み合わせで、考えを深めることができました。その結果出版できたのが、「吃音者宣言」です。それが出版にいたる経過はまた紹介しますが、神山先生との関係では、この本の推薦文です。

 正直に言うと、神山先生に頼みたくなかったのです。これまでブログで書いてきたように、とても怖くて、厳しい先生です。厳しい指摘で推薦文にはならないのではないか。不安がありましたが、神山先生にお願いしないわけにはいきません。そして、書いて下さったのが次の文章です。やはり神山先生らしい文章です。


   つねにすがすがしい好漢   

 高倉健に惚れ、かつどもりである大学教官というふうに彼を紹介しておこう。事実、伊藤伸二を慕うどもる人びとや関係する学生は多い。彼自身も面倒見がよくつねにすがすがしい。
 彼がどもりながら話すせいか、聞き手はつい彼の指示に素直に従ってしまう。かようにどもりであるメリットを生かし続けている好漢である。
 この度、どもりであることを主張し、生かす自他の方法、体験などを集め、評価し、書となすという。草稿は全く見ていない。世のなかから厳しく批判されたほうが薬になる段階に彼はいる。読者の叩き方が強ければ強いほど、彼は強くなる。一つおおいにやっつけてください。彼がどうさばくか、それを見るのもまた楽しい。

         神山五郎   (郡山市熱海総合病院・健康教育センター所長)

たいまつ新書4
吃音者宣言
言友会運動十年
0236-7604-4434     680円