大阪吃音教室の忘年会  報告と決意を語る場

 今年も残すところ、10日。時の経つのがあまりに早く、驚くばかりです。
 ブログの更新がコンスタントにできず、今年も反省で終わりそうです。

 大阪吃音教室の今年の最後の集まりは、12月19日(土)の夜、6時から始まった忘年会でした。その忘年会のことをまずお知らせして、できる範囲でさかのぼり、今年の秋から冬をふり返ることができればいいなと思っています。

 忘年会の会場は、今回で7回目となる忍ヶ丘にあるカフェ・グッデイズです。大阪市内から30分ほど電車に乗らなければいけないのですが、大阪吃音教室の忘年会にはぴったりの会場なのです。なぜなら、この忘年会が終わったのが、今年も10時を過ぎていたからです。4時間を超える忘年会なんてそうざらにはありません。そして、その4時間があっという間に過ぎていくなんて、ほんとに不思議な空間です。こんなわがままを許して下さるカフェ・グッデイズのスタッフの方には心から感謝しています。

忘年会 ツリー

 今年の参加者は、総勢27名。くじを引いて席を決めて、みんなが座ったところで、午後6時、2015年の忘年会のはじまりです。
 今年のオープニングは、素敵なギター演奏から始まりました。井上さんが、得意のギターを持ってきてくれ、「大阪吃音教室定番のボイストレーニングです。スピーチの前に、声出しをしましょう」こんなことばからスタートしました。歌詞カードも用意してくれて、みんなで歌いました。
 ♪真っ赤な秋、♪津軽海峡冬景色、そしてクリスマスらしく、♪赤鼻のトナカイ の3曲を歌って、いい雰囲気の中、スピーチが始まりました。順番は、席決めのくじ引きの順です。1年を振り返り、自分のことばで自分を語る、いわゆるナラティヴ忘年会です。

 この1年をふりかえってみんなが語ります。どもる人はほんとにおしゃべりで、ひとりひとりが結構長く話をします。8時を過ぎても、まだ1/3も話していません。
 大阪吃音教室の講座のこと、吃音親子サマーキャンプや吃音ショートコースでのできごと、自分の仕事のこと、日常生活の何気ない一コマ、感じたことや考えたこと、統一性はないのに、いや、ないからこそ、参加した人たちの織りなす人生の色が混ざり合って、味わい深い時間になります。

忘年会 全体

 前日の金曜日の吃音教室に初めて参加した青年も、この忘年会に参加しました。休職している彼は、ひとりひとりがどもりながら自分のことを語る姿をどんな思いで見ていたのでしょう。先に入っていた忘年会をキャンセルして参加した彼は、休職明けの日、職場の人たちに自分のことを話そうと思っていると言いました。そのことばにみんなは大きな拍手を送りました。
 転職しようと思っていると話した人もいました。最初に参加したときは、どもるのが嫌さに新聞配達をしていたその人は、大阪吃音教室との出会いの中で刺激を受け、介護の仕事をしたいと思っていると話し、翌年は介護の仕事に就いたと報告しました。そして、今回は、ケアマネージャーの資格をとったので、転職したいと思っていると話したのです。
 学校に行けなくなっていた人もいました。大阪吃音教室と出会い、毎回まじめに参加し、いろいろなことを学んだ彼は、学校に戻ろうと思い、新しく高校に入り直しました。学校へ行き始めただけでなく、子どもたちと接する学童保育のアルバイトも始めています。

 1年間の自分のがんばりを素直に認め、それをみんなの前で話す姿は、すがすがしく、本当に素敵です。自分の力で変わっていく多くの人の姿を、目の前で見ることができました。この忘年会の、この場を、報告と決意を語る場として位置づけていている気がします。その場に立ち会えることの喜びを感じました。どもりながら自分を語るとき、それを聞くとき、お互いがお互いに応援し合っているのだと思います。笑いあり、ヤジあり、質問あり、コメントありのにぎやかな場ではありますが、それだけではなく、真剣に受け止めてもらえるという安心感があるからこそ、のほんとにすてきな、楽しい、そして、心に深く染みいる、いい時間でした。
 1年のしめくくりをこんなふうに過ごせることは、とても幸せなことです。
 来年の忘年会で、どんな話が聞けるのか、今から楽しみです。

忘年会 伊藤のスピーチ

 忘年会に参加した仲間から、こんなメールをいただきました。

 今年も忘年会の開催をありがとうございました。4時間の忘年会、びっくりするくらいあっという間でした。今年の忘年会はいつもに増して内容が濃かったです。ギター演奏でみんなで歌を歌ったことに加えて、一人ひとりのスピーチの内容がとても深いものでした。
高校に行き直したスピーチは感動的で、忘年会の序盤からいきなりレベルが高い話だと感じました。彼が「変わりたい」と強い思いを持ち、仲間の言葉から大切なメッセージを確実にキャッチされた感性の高さ、まさに彼のレジリエンスを感じました。始めて参加した、1年前のスピーチも別の意味で印象的でした。この1年でものすごく変化され、表情も話し方も柔らかくなりましたね。1人の人の変化を間近で感じられるのも、大阪吃音教室の醍醐味だと思います。
 前日の金曜日に大阪吃音教室に始めて参加し、その翌日の忘年会に参加した人のスピーチも心に響きました。これまで悩んでつらかったことと思いますが、日本吃音臨床研究会のホームページにたどり着き、伊藤さんと電話で話し、吃音教室に参加されたこと、仲間内の忘年会をパスして私たちの忘年会に来てくれたこと、人との関わりの大切さに気づかれ、職場への感謝、これからの目標が話され、その人のレジリエンスを感じさせてくれるスピーチでした。

 それにしても、みなさん本当にお喋りが止まらず、平均すると1人6〜7分は喋っていたと思います。どもりの人がこれほどお喋り好きだとは、「治す派」の臨床家の方たちには想像もできないと思います。溢れてくる思いをたくさん言葉にしたくなる場、本当に幸せです。

 溝口さんが吃音教室の参加者名簿をもとに、参加回数の多い人を紹介し、その人に合ったプレゼントをして下さるのは、交流分析でいうターゲットストロークのようなプレゼントで、毎回ちょっと感動します。溝口さん自身は、大阪吃音教室への参加は多くなくても、一人ひとりのことをちゃんと見てくれていることが伝わります。

 忘年会におなじみの顔が今回、都合が悪くて参加できなかったことは少しさみしかったですが、今年も大阪吃音教室の忘年会に参加できて本当に幸せです。ありがとうございました。


   日本吃音臨床研究会 伊藤伸二      2015/12/21