第26回吃音親子サマーキャンプ 12

親の学習会
親の学習会1
親の学習会2伊藤伸二
 サマーキャンプ2日目午後のプログラム、子どもは劇の練習と荒神山へのウォークラリー、親は学習会です。親の学習会は、午後1時から5時過ぎまであり、伊藤伸二が担当します。
 これまで、学習会は、吃音について聞きたいこと知りたいことを質問してもらってそれに答えたり、「吃音ワークブック」や「吃音とともに豊かに生きる」などをテキストにして吃音の基礎知識を学んだり、アサーション・トレーニングや論理療法のエクササイズを取り入れたり、どもる当事者の体験談を聞いて質疑応答をしたり、いろんなことをしてきました。今年は、レジリエンスを育てるというテーマに沿って、親からみた子どものレジリエンスを考えました。
 『サバイバーと心の回復力−逆境を乗り越えるための七つのリジリアンス』(金剛出版)を元にして、僕が、僕の体験を通して、レジリエンスとは何かについて説明した後、親たちに、自分の子どもの強み、子どものもつレジリエンスを、7つの構成要素の中のどれに当てはまるか考えながら、具体的なエピソードを書いてもらいました。ひとりひとりが書いた後、これまでの話し合いのグループごとに分かれ、模造紙に図解していきました。そして、最後に、みんなの前で発表したのです。

親から見た自分の子どものレジリエンス

親の学習会3

親の学習会4

 洞察(自分の問題について考え、学び、理解する)
・「どもる君へ」の本を読んで、自分のどもりと向き合う。サマキャンに行って、どもる子やどもる大人の人たちと会って、話を聞いたりして、どもりのことを知る。
・「この話し方は、僕の持病なんだよね」と自分から私に打ち明けてくれた。それまで親子の間でどもっている話し方について話題に話したことがなかったので、驚きましたが、息子なりに自分のしゃべり方が他人と違うことに気づいて、これは何かなと悩み、私の本棚からどもりについて書いてある本を取り出して読んでいたようです。認識は多少ズレていましたが、自分なりに理解しようしていたと知りました。そして、クラスにいるもう一人のどもる子どものことも「だから、オレは絶対その子のことも笑わへん」と言っている。・幼稚園年長から、小学校低学年にかけて、「私は他の子と違って、お話しようとするときにつまるの」と訴えてきた。
・息子が話し終わるまで、時間がかかる、妙な間に、聞きづらいなあという思いが顔に出た祖母が、「ゆっくり話したらいいねん」と息子に言ったとき、息子は一言「おばあちゃん、オレはこんなしゃべりかたやねん」と言った。
・小1のときにクラスでからかいがあり、「自分だけがこんな話し方なのかな」と言った。それから神戸の集いに参加するようになり、自分だけじゃないと気づきました。そこでの子ども同士の話し合いの中で、自分は吃音であることを知り、吃音について学んでいる。

イニシアティヴ(問題に向き合い、自分を主張し、自分が自分の人生のイニシアティヴをとっていく)・自分はどもりだということを、クラスのみんなに分かってもらうために、自分のどもりのことを書いて先生に発表してもらう。
・作文コンクールに自分のどもりのことを書いたり、サマキャンでの話し合いのときに、友だちに言われて心に残ったことを題材にして、どもりのことを多くの人に知ってもらおうとする。
・クラスの友だちに「お前、じゃまや」的なことを言われて落ち込んでいました。他にも嫌なことが重なり、学校へ行くことがどうしてもできなくなり、一日欠席しました。でも、次の日、学校へ行ったとき、その友だちのところへ自分から行き、「なんであんなひどいことを言ったの?」と聞いたそうです。相手の子はすぐに「ごめん」と言ってくれたから許してあげたそうです。
・クラスの中に、強い言い方をしてくる子がいて、そうじのときに毎回怒ったように言われて悩み、学校に行きたくない時期がありました。先生にも相談しました。先生が息子に「先生からその子に言おうか」と言って下さったのですが、息子は「自分で言うから大丈夫」と言い、「強く言われると怒られているように思うから、優しく言って」とその子に直接言えたそうです。すると翌日から、目立って強いことは言われなくなりました。自分から言えて状況が変えられたことで、本人はとてもうれしく自信になったようです。

関係性(人と結びつき、人を大切にする。人間関係を自ら求めて作り上げていく)
・友だちがとても多く、明るく、しゃべることが大好きな子なので、いつも周りに友だちがいる。仲良しの友だちと話すときはどもりを気にせずに話している様子。サマキャンで出会った友だちと手紙などやりとりをして、お互いの思いを深める。
・学校でも一緒にいて心地よい友だちとは自然と結びつきが深くなり、嫌なことを言って来る友だちには少し距離をとり、自分にとって、快の方向へ進む能力がある。
・このサマーキャンプに自分から「絶対行きたい」と言って申し込んだこと。どもっている仲間に出会いたいと心から思ったようだ。
・女の子の友だちがいなかったのですが、自分なりに、言えないときは笑顔を作ったり、積極的に行動したりして、友だちを作ることができた。中学生になっても、部活も一緒になり、相談したり受けたりと、なくてはならない友だちになっている。
・自分がどもるということを周りの友だちに知らせ、理解を求めている。
・なかなか友だちができなかった息子は、4年生で初めて一緒に帰る友だちができた。その友だちは、息子がどもってもことばが出るのを待ち、どうしても出ないときはタイミングよく助けてくれた。中学生になり、クラブも違うので、遊べなくなったが、そんな友だちができたことは息子にとってはとても心強く自信につながったと思う。
・サマキャンで年上のお兄ちゃんたちにばかりくっついて面倒をみてもらっていた子が、同級生の友だちをつくることができ、ここ数年は年下の子の面倒をみられるようになった。

創造性(音楽、絵、文章、詩など、自分を表現する手段をもち、そこから創造性へと発展させる)・小学校高学年からすごく本が好きになり、学校でも毎日図書室に通い、全校生徒で、たくさん本を借りた人の2位になりました。賞をいただき、とても喜んでいた。
・どもってうまく言えないなりにも、どうにか言える方法を探す。「あいうえ」と心の中で言い、「おはよう」と言うなど。言い換えのことばを探す。

ユーモア(自分の欠点や弱点を他人ごとのように笑い飛ばし、自分の嫌な気分を解放する)・細かいことを気にしないおおらかさがある。人の目をあまり気にせず、淡々としている。こちらが端で見ていて大丈夫かなと思うことでも、意外とケロッとしてい。小さいことを気にしないおおらかさは、彼の武器なんじゃないかなと思う。
・以前はつまずいてこけた、お茶をこぼした等のことを話すと、「そんなん、言わんといて」と泣き怒っていたが、最近は自分の失敗談を言って、「僕はようつまずくねん。めっちゃ、痛かったんで」と笑って言うようになった。家族でもお互いのマイナスネタを言い合って、ゲラゲラ笑ったりするときもある。学校の発表でどもったときに「あれっ?あれっ?」と、おどけて笑いをとるときもあるらしい。本人は、「みんな笑うけど、楽しいと思ってくれたらそれでいいねん」と言えるときもあるらしい。いつもではないが。

独立性(自分の人生は自分で切り開いていく)
・自分が参加したい行事などには友だちがいなくても参加するが、自分が興味のないこと、参加したくないと思うものには参加しない。周りに関係なく、自分のことを決められる。

モラル(充実した、よりよい人生を送りたいとの希望をもつ)
・サマキャンで接したいろいろな人の姿を見て、やってもらえたこと、教えてもらったことに感銘し、自分もこうありたいと考え、言語聴覚士になろうと進路を決めた。

親の学習会5

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 グループごとに集まり、模造紙を前にどんなふうに図解していこうか、楽しそうに作業が続きました。笑い声もあちこちから聞こえてきます。そして、できあがった模造紙を貼って、発表しました。一人が代表で発表するグループ、ひとりひとりが少しずつ発表するグループ、発表の仕方はそれぞれ違いますが、「うちの子にはこんないいところがあります」「さすが私の子どもです」「なかなかすごいでしょう」こんなことばが飛び交い、たくさんのレジリエンスが出てきました。
 ひとつのグループが図解の仕方をとらえ違いをしていて、発表ができませんでした。「追試だ」と言いながら、フリーの時間に再度集まり、完成させていました。発表は、参加者全員の前、自分の子どもが聞いている前で、自分の子どものいいところを発表したのです。親も子どもも誇らしげで、本当にうれしそうでした。

日本吃音臨床研究会  伊藤伸二  2015/9/28