神戸の相談会の続きです。

 理学療法士のように、吃音が大きな壁になり、逆境に陥ったとき、これまでの吃音の臨床では「吃音を治す、改善に」向かいます。しかし、このアプローチは、1903年からの治療の歴史の中で失敗してきています。100年以上たった今でも、吃音の治療法はゆっくり話すことしかない。アルバータ大学のアイスターという、世界有数のトップクラスの吃音治療所が何をしているかを知ってびっくりしました。

 1903年から始まっている「みーなーさーんー、わーたーしーのーなーまーえーはー、」というゆっくりしゃべる、スピードコントロールが治療法の中心です。僕が1965年に経験した東京正生学院で教えてもらったのと全く同じ方法です。どもりの治療法はひとつしかない。ゆっくり話す方法だけです。ゆっくり話すか、メトロノームに合わせて言うとか、ひどいもんでしょう。こんなもの、とっくの昔になくなっているだろうと思っていた。この方法を、2015年の今、この時代に、北米のトップクラスの大学でしている。

 僕は、言語聴覚士の専門学校に行っていますが、アルバーター大学の現実を話しても、それでも、何か、治療法があるはすだと期待している。これだけ科学・医学が進歩しているのだから、どもりぐらいの治療法がないわけがないと思い込んでいるのです。楽天的な考え方をもっている。

 アイスターで言語聴覚士として働いていた人の話では、15年間、治すために必死にがんばり、500万円のお金を使って、有名な大学の教授の治療を受けるなど、500万円も使ったそうです。年収1000万円を超えるファイナンシャルプランナーだからできたのかもしれないけれど、普通の人には、500万円も使っていられない。また、15年も諦められずに続けるのは、僕には信じられません。誰ひとり、「15年も治そうとしてだめなんだから、そろそろ諦めようよ」と言う人がいなかったことが、とても不思議です。

 じゃ、何をすればいいのか。もうそろそろあきらめて、個人差に注目したいんです。理学療法士と、消防士のこの大きな個人差はどこからくるのか。吃音の悩み、影響の大きな個人差はどこから来るのか、ここに注目するのが、レジリエンスです。

 7つのレジリエンスについては、また説明するとして、今ここで、皆さんの中に、どもりで苦しんだ時代はあったけれども、今こうしてどもりながら自分なりの人生を生きているのは、こういうきっかけがあったからじゃないか、こういうことがあったから自分はここまで生きてこれたんだという、何か自分で思いつくこと、思い浮かぶことがあったら、順番ではないので、手を挙げて話をして下さい。(つづく)

日本吃音臨床研究会 2015/07/21 伊藤伸二