どもるからできないと、悩みながらも、逃げずに読んだ

 先月、どもる中学一年生の女の子の母親から相談がありました。
 僕の著書「どもりと向き合う一問一答」(解放出版社)を読んで共感し、娘と一緒に、吃音とつきあうことを考え、友達にも恵まれて、楽しく中学生活を送っていた子どもです。ところが、書いた作文が、とってもいいと、担任から、寝屋川市の中学生の主張に出場することをすすめられました。いったん引き受けたものの、やはり、大勢の前でどもりそうな気がするし、引き受けたことを後悔し、やっぱり読めないと母親に言い、とても悩んでいます。

 僕の本を何度も読んでいる母親は、ここで逃げてしまうと、これからも逃げることになりそうなので、「がんばれ」と励まします。すると娘は「お母さんは、どもらないから、私の気持ちがわからない」と言います。どうしたらいいかと困っての相談でした。

 僕は、いつの場合も、「逃げる」という選択肢は必要だと思っています。
 「そんなに苦しいのなら、作文を読むことを断わってもいいんじゃないの」といいました。でも最終的に本人が判断すればいいことなので、どもる子どもに直接話しかけている、「どもる君へ いま伝えたいこと」(解放出版社)を子どもがしっかり読んだ上で、子どもの判断にまかせたらどうかとすすめました。そして、本を届けました。

 僕の吃音ホットラインには、毎日3件ほどは電話相談があります。彼女のこともすっかり忘れていました。それが、その子ども本人から電話がありました。とても可愛い声で「作文読みました」と言ったので、すぐに彼女だと分かりました。12月13日にその発表会があったのです。どうするか悩んだけれど、結局は逃げずに大勢の前で、作文を読み上げたのです。うまく乗り切った、明るい声です。

 それを、僕に報告したくて、母親からではなく、本人が電話をしてきてくれたことが、とてもうれしくで、「僕に、報告の電話をしてくれたの、がんばったんだね。うれしい報告、ありがとう」と電話を切りました。

 詳しく、どうしてがんばれたのか、どうだったのか、聞かなかったのが残念でした。機会があれば、作文にかいてもらおうかなあと思います。
 こんな、電話をもらうと、「どもる君へ いま伝えたいこと」(解放出版社)が少し役に立てたように思えて、うれしくなりました。うれしいクリスマスプレゼントになりました。

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2014/12/17