今日、ことばの教室を終了します

  「今ここにいる、小学3年生の子どもが、今日でことばの教室を終了するので、伊藤さんと話したいと言っていますが、代わってもいいですか」

 昨日、鹿児島市立名山小学校・ことばの教室の福田加寿子さんからの電話です。もちろん喜んで子どもと話しました。しっかりとした声です。こんな話をしてくれました。

 「3年生になって、学級で発表したいけど、クラスの子どもが自分のことを知らないし、「どもり(吃音)について知らないから、発表したくなかった。ことばの教室の先生に相談したら、どもりのことをみんなに分かってもらうために、自分で、どもりについて話したらと言われて、話そうと決めて話した。
 『僕は、話すときにどもります。でも、がんばって発表するので、聞いて下さい』
 こう言ったら、クラスのみんなは分かってくれたので、どもることについて、何も言われなくなった。だから、僕のどもりについての悩みは解消したので、ことばの教室を今日、終了します」

 「そうか、すごいね。僕は小学2年生からどもりに悩み始めてたけれど、君のようにはできなかったし、どもっても大丈夫と、とても思えなかった。今の3年生は、君が話して分かってくれたけれど、クラスが変わり、中学、高校に行って、今回と同じように理解してくれるとは限らないよ、それでも、君は大丈夫なの?}

 いろいろと揺さぶりをかけましたが、自分の力で、自分の言葉で、自分の直面する困難を解決したのは、彼にとって大きな実績です。この実績を強化していくことで、彼は今後も同じように困難に立ち向かうことができると思いました。
 今、僕が勉強している「ナラティヴ・アプーローチ」には、自分のつくった第二のストーリー(オルタナティブ・ストーリー)を誰かに話して証人なってもらう、聴衆になってもらう取り組みがあります。
 ことばの教室の福田さんは、彼の変化の物語の聴衆、証人として僕を選んでくれたのです。

 電話のことをつれあいに話して、その子どもは以前に手紙をくれた子じゃないの、返事もしていなかったのかと叱られました。今年の7月に彼の手紙をいれた福田さんからの手紙が来ていたのでした。一番忙しかった時期で、その手紙をすっかり忘れていたのです。

 ことばの教室ので、「親・教師・言語聴覚士の使える吃音ワークブック」(解放出版社)で勉強しているので、その表紙に吃音親子サマーキャンプの150人ほどの写真の中から、「伊藤さんは、どの人?」と福田さん聞いて、違う人を指していたので、僕に手紙を出そうと、書いてくれたのだそうです。

 その手紙には、「学習・どもりカルタ」(日本吃音臨床研究会発行)のカルタで、「いもりとやもりと それからどもり みんなちがって みんないい」が一番おもしろく、一番ぴんときたのは「ひとりじゃない 仲間がいるから がんばれる」ですと書かれていました。

 言いにくいときの工夫が書いてあり、「伊藤さんは、どうしていますか」の質問が書いてあったのに、それに答えられなかったことが残念です。手紙をもらっていたのに、初めてのように電話で話してもうしわけなかったと、深い反省をしています。

 明るい、元気な声に、3年来の途中の終了も、本人の決めたことに、すごいなあと思いました。困ったときはまた、ことばの教室を再開すればいいし、僕とも一度話しているので、電話してくれればいいと思いました。

 「吃音症状の軽減」を目指さず、子どもと吃音と向き合うことを実践する、ことばの教室のすばらしさを思いました。

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2014/10/01