どもりは治らない、と断言する

 僕の開設する吃音ホットライン(072−820−8244)には、ほとんど毎日、3件以上の電話相談があります。昨夜は私たちの大阪吃音教室の金曜日の例会です。僕は基本的には個人面接はしません。グループの大きな力を信頼しているからです。成人の場合は大阪吃音教室に参加するようにすすめます。しかし、高校生、大学生で、なんとか僕に会わせたいという保護者がいます。今日は、高校一年生に会いました。

 まじめに子で、つらいながらも高校にはいっているのですが、将来がとても不安です。高校3年までにどもりが治らなかったら死にたいと母親に訴えました。そこまで悩んでいるとはしらなかった親としては当然うろたえます。子どもは、インターネットで調べた「吃音改善」のサイトのあるところでカウンセリングを受けています。

 とりあえず、僕の本を読んで欲しいと紹介したら、「吃音の当事者研究」「認知療法・認知行動療法」(金子書房)「吃音と共に豊かに生きる」(NPO法人・ことばを育む会)のパンフレット、TBSのニュースバードを収録したDVDを注文し、まず、両親が本を読み、DVDをみました。そこで僕を信頼して子どもに会わせたいと考えたそうです。

 まず、現在困っていることを聞きましたが、「べつに」とそっけない。「べつに・・」なら僕になぜ会いにきたのかと聞きました。今、自己紹介で名前が言えないことなどはあるけれど、それほど切実ではありません。将来の面接や仕事につけるかなどね将来への不安が強い。実際自分の名前をいってもらうと、ブロックでいえません。

 なかなか自分でははなしそうにないので、僕は自分の高校時代のこと,治したいと切実に思い、治す努力をしたけれど、治らなかったこと、治らなかったけれど、話す仕事について楽しく生きてきたと、はいろんな経験を話しました。彼は、自分のことのように真剣に聞いてくれました。

 高校3年生まで治らないと困るそうだけど、どもりは治らない。治らないものだけど、君はどうするかと尋ねました。すると、「治った人もいるでしよ」と言います。何を根拠に治った人もいると思うのかと尋ねると、インターネットの情報です。それはほとんどインチキで、治った人などいないよと断言しました。

 この「治らないかもしれない」ではなく、「吃音は治らない」と断言することが、このような高校生には必要だと思いました。治らなくても君の自分の人生を生きることができると、人生について語り合いました。今、熱中する好きなことがあり、将来の仕事への漠然としてではあるものの理想は持っていました。

 夢中になれる、趣味については、そのことについて、いろいろと話してくれました。自分の好きなものかあるとうのは、自分に何か自信があるということよりも、将来大きな力になります。苦しいとき、落ち込んだとき、その好きなことをすることで、心のバランスがとれるからです。1時間があっという間に過ぎました。

 「高校3年に終わりに、まだどもりが治っていなかったら死ぬ」と母親に漏らしていた彼ですが、最初会った時の表情とは随分と変わってきた姿をみて、どもりながら生きていけると確信しました。

 心残りなく、話し合いが終わったのはうれしいことでした。その後の大阪吃音教室にも参加するようすすめたのですが、今回は変えると、参加して欲しい母を促して、彼は帰りました。

 翌朝、母親から電話がありました。内容は話してくれなかったが、プラスになったと話したそうです。母親にも話していなかった,将来のことまで話した彼は、「治す」から脱却してくれると思います。その時、「治らない」と断言することが、とても大事だと僕は考えています。

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2014/03/15