声が出ない時の対処法

 大阪吃音教室で講座の最終です。教室で話し合われたことを紹介します。 

 大阪吃音教室では、吃音を知る、基礎知識としてどもる人に役立つ知識を整理し学んでいます。予期不安と並んで大きなテーマは恐怖です。それが場面恐怖、吃語恐怖です。それに対する対処が、どもった時、声が出ないときの対処です。
 場面恐怖…ある特定の場面に対する恐怖
 吃語恐怖…ある特定の語に対する恐怖

 例えば二度と会わない人の前でどもる場面など、どもっても我慢ができる場面では気楽にどもろう。取るに足りない、どうでもいい場面では、できるだけ自然にどもるくせをつけておくと、いざと言うときでも楽にどもれる。どもってもいい場面をできるだけ作っていくのが、どもる人が楽に生きられる道。どもりたくない場面では、あの手この手を使って、サバイバルする。そのように、優先順位を決めていかないと、どの場面でも同じように「どもりたくない」と思うと、緊張するし、つらくなる。

 どうでもいい場面では、気楽にどもろう。従って、対処はしない。

 自分でどもりたくない場面、よくどもってしまう場面では、「どんな手を使ってでも生き延びる」ことが必要。大阪吃音教室でみんながどのように切り抜けているか聞きました。

 Q.声が出ないときにはどのようにして切り抜けていますか?何か工夫はありますか?
【対処】 どもりそうなことばの前に、言いやすくてかっこいいことばを緊急時に備えてレパートリーとして持っておく。自己紹介で、周りの人が名前だけ言っていっても、自分だけ、「藤井寺の藤田です」「緊張しやすい伊藤です」「阪神ファンの横山です」など。
 
【対処】随伴症状を行動として生かす。相手に向かって、息が流れるような、相手に向かっていくためのアクション。普段からジェスチャーを豊かにしておく。

【対処】ブロック(つまる)したら、どもったまま言わないで、一旦キャンセルする。一旦やめて「ハー」と息を吐く。息が流れたところで、もう一度挑戦する。

【対処】「えーと」「ん」など、言いやすいことばを頭につける。

【対処】低い声、高い声など声のバリエーションを持ち使い分ける。
・高い—低い ・早い—遅い ・大きい—小さい ・強い—弱い
 これら、どちらの方が言いやすいか実験、工夫してみる。人によってどちらが言いやすいか違う。

【対処】間を上手に活用する。「わたしは あなたが すき」の、どこを強調したいかで、どこに間を置くか変わってくる。どもることを間として生かす。

【対処】自分なりのゆっくりさを身につける。

◎どもってでも突破するか、それとも対処法を使って切り抜けるかはその人の選択。
バリエーションをたくさん持っておく。それを使うか使わないかは、その時の選択。

      ----- 対処法のおさらい ------
1.アクション使う(目立たない、かっこいいもの)

2.言いやすいことばをつける(「えーと」「ん」など)

3.音色(声のバリエーション)を豊かにもつ。
◎普段から声を出すことを意識して練習する。歌がおすすめ。

4.母音を常に意識する
例)「次の日」なら「つう ぎい のお ひい」(「ういおい」と母音の流れを意識する。まず母音だけで「ういおい」→次に頭にほんの少し「つ」をつけてみる。
◎日本語は母音が大事。「一音一音母音をつけて丁寧に」を心がける。
◎母音がどもる場合→語頭「あいうえお」がくる場合、「おつかれさまでした」→最初の「お」を子音と考え、その後ろに母音の「お」をつけるイメージで「ぉおつかれさまでした」
◎どもらないためのものではなく、いい日本語を喋る。
 吃音治療法がいろいろと考えられたが、結局はゆっくり喋るしかない。母音をつけて一音一音丁寧に発音することで、結果として、自分なりのゆっくりさになる。

5.リズム(自分なりのリズム)日常生活で声を出すことを取り入れる。
・好きな小説を一日10分でもいいから声に出して読む。
・「声に出して読みたい日本語(斎藤 孝)」
・谷川俊太郎さんの詩や、俳句、和歌などを声を出して読む
◎新聞のコラム(天声人語など)を声に出して読むと、論理的に考える力も身につく。

 大阪吃音教室で時々するのが、宗教学者・町田宗鳳さんの提唱する「ありがとう念仏」 

 ありがとうと言いたい人などを想像して息が続く限り「あーりーがーとーうー」と声に出してみる。それを繰り返す。「ことばのちから、音のちから、声のちから」
声を出すことで自分のちからになり、生きるエネルギーになる。

 常日頃から声を出すことで、緊急避難の時にも普段の時にも役に立つ。

 「どもって声がでない時の究極の対処法は、どもること」

 どもるから声が出ないのではない。どもりたくないから声を出さない。どもってもいいと思えば声が出る。僕らはどもるということを覚悟すること。「この場面ではどもってはいけない」と自分で勝手に決めてしまう。実際はどもってはいけない場面はない。 (大阪吃音教室の報告)

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2014/01/28