勇気を出して。一歩踏み出そう 


 仲間のことばの教室の先生から、電話が入りました。ことばの教室に通っている小学6年生の女の子が、僕に質問があるというのです。必ず返事をするからと、その子が書いた手紙をファックスで送ってもらいました。
 それに対する返事を紹介します。

 齊藤さんへ 

横山先生から、 齊藤さんの4つの質問をファックスでいただきました。
 齊藤さんのような質問は、、島根県、岡山県、静岡県、群馬県、そして、僕たちが滋賀県でしている吃音親子サマーキャンプどもる子どもとたくさん出会い、たくさん質問も受けました。その質問に僕が答えたのが、『どもる君へ いま伝えたいこと』(解放出版社)です。もう読んでいるかもしれませんが、もし、まだ読んでいなければ、を読んで下さい。齊藤さんが知りたいことは、この本にかいてあるかもしれません。
 それはそれとして、齊藤さんの質問については、僕のたいけんしたことをお答えします。同じようにどもる人でも、体験することは、ひとりひとり違います。僕のたいけんしたことは、あなたが求めていた答えではないかもしれませんが、お答えします。参考になればうれしいです。
  
 1 中学で友だちができましたか
 2 小学校の卒業式のりこえられましたか
 3 いじめとかいやがらせとかやられませんでしたか
 4 中学生になって女の子のグループを見て、ひとりぼっちの人とかいませんでしたか

1 中学で友だちができましたか
 僕は小学5年生の中頃から、中学校にはいっての最初の自己紹介がとてもふあんでした。いつも「いとう しんじ」の「いとう」では必ずどもっていたので、自己紹介では絶対にどもると思っていました。いじめや、からかいが始まることがとても不安でした。
 覚えていないのですが、じっさいにどもって自己紹介したと思います。だけど、からかいやいじめは、中学の3年間一度もありませんでした。だけど、どもることに強いれっとうかんをもっていたので、ともだちと気楽に話せませんでした。今から思えば、自分から友達の輪の中に入ることができませんでした。
 だから、ともだちと言える友達はひとりもできませんでした。今から思えば、とても損をしたと思います。どもっても、どもっても、友達に話しかけたら、友達ができたかもしれません。自分からみんなの輪の中に入れなかったのは、「どもりは悪いもの、恥ずかしいもの」と考えていたからです。悪いものでも恥ずかしいものでもないのに、どもっている僕とはだれも友達になってくれないと、勝手に思っていました。

 60歳をすぎて、中学の同窓会に行きました。みんなの前で特別に発言させてくれたので、どもりのことをみんなに話しました。すると、「いとうが、そんなにどもりに悩んでいるとは知らなかった、話してくれたらよかったのにと、何人もの人から言われました。みんなは、僕のどもりをもちろん知っていましたが、ともだちが「どもりは悪いものでも恥ずかしいものでも何でもない」と考えていたのです。なんだか、とても損をした気持ちになりました。  
 あなたが、どもっていても、あなたのことを認めて、友達になりたいと思う人はきっといます。僕のように、自分から身を引いて、友達をつくらないのは損だと思います。ただ、無理をして、自分を見失ってまで友達はつくらなくてもいいとおもいますよ。僕はひとりぼっちだったけれど、なんとか生きてきました。一人で、こどくだったから、本をたくさん読みました。映画もよく見に行きました。本と映画が僕の友達でした。ともだちができなくても、自分が好きなこと、大切にできること、夢中になれることが見つけられたらいいね。
 友達ができるかどうか、不安な気持ちは分かりますが、どんとぶつかれば案外うまくいくかもしれませんよ。

 2  小学校の卒業式のりこえられましたか
  50年以上もまえなので、あなたの卒業式のように、何か一言言うようなことはありませんでした。どんな卒業式かは分かりませんが、それなりに練習をして、「どもったら、どもっただけのこと、どもってもいいや」と考えることですよ。映画「英国王のスピーチ」をよかったら、DVDで見て下さい。日本語の吹き替え版もあります。国王が、戦争をしなければならないことを国民にうったえるとても大切なスピーチをするまでの映画ですが、国王は「どもる時は、どもってもいいや」と、どもるかくごができたために、スピーチをすることができました。国王のスピーチからすれば、卒業式のスピーチで、どもっても平気だとという気持ちでのぞんで下さい。うまくいっても、失敗しても、どっちでもいいと思えたらいいですね。

 3 いじめとかいやがらせとかやられませんでしたか
 中学3年間、高校3年間そのようなことは僕はありませんでした。だけど、そのようなことが起こるかもしれませんね。そのときは一人で悩まないで、友達に、先生に、家族に相談して下さい。きっと味方になってくれます。僕の所に電話してきてもいいですよ。

 4  中学生になって女の子のグループを見て、ひとりぼっちの人いませんでしたか
僕がひとりぼっちだったので、他人のことをかんさつするよゆうはありませんでした。

 僕は、どもりを否定して、自分がだいきらいだったから、ひとりぼっちでした。そんな僕でも、21歳で、「どもってもいいや」と思えるようになつたからは、友達がたくさんでき、世界大会を僕はしているので、日本中に世界中に友達がたくさんいて、とても幸せに生きています。あなたは、中学で友達ができればいいですね。でも、できなくても、自分をきらいにならないで、好きなことを見つけて下さい。
 お返事がおそくなってごめんなさい。少しでも、参考になればうれしいです。
 お元気で       

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2014/01/20