12回 静岡吃音キャンプの打ち上げ会


p1020706p1020708p1020720p1020709p1020714p1020713


 静岡のキャンプの終わった後は、打ち上げ会です。いつもは清水区の魚市場のおいしい寿司屋でするのですが、今年は、世界遺産に指定された「三保の松原」を私に見せてくれるために、その近くの居酒屋を借り切って行われました。以前、仕事の時間を離れて、どもる子どものために、吃音キャンプなどに取り組む人たちのことを、敬意を込めて「アホな人たち」と書いたことがあります。

 吃音は独特の豊かな世界があるのだろうと思います。土、日と勤務以外の時間にたくさんの、ことばの教室の先生たちが集まって、一所懸命キャンプに取り組む。このアホな人たちと、一緒にキャンプができること、終わった後、おいしい食事をして、キャンプを振り返る。親や、子どもたちの感想文を読み合う。これし至福の時なのです。

 そして、静岡の人たちにとっては、よく来ているはずの三保の松原にみんなで行ってくれました。これまで閑散としていた海岸に、大型の観光バスが何台もとまり、賑わっていました。砂浜はいつものと変わらないのに、世界遺産と登録されたとたんに大勢が集まってくる。なんか、日本人の一面をまた見ました。台風が去った後の海岸からは、富士山がよく見えました。これまで12回もこの辺りに来ているのに、海岸から富士山を見たのは初めてです。静岡のみなさんの心遣いが、とてもうれしかったです。

 静岡駅までの車の道中、キャンプのことや、吃音についていろいろと話すことができる。ぼくは、本当に、心底吃音に惚れ抜いているのだと思います。以前、僕たちのニュースレター、「スタタリングナウ」216号に書いた「吃音キャンプとアホな人たち」を紹介します。

 










   吃音キャンプとアホな人たち
              

 「アホな人たち」
 自分の仕事上の立場や損得を超え、自分の気持ちに正直に、本音で何事かに一所懸命取り組む人。それが結果として人の役に立っているのを自分のことのように喜ぶ人。大阪では、というより私たちだけかもしれないが、親しみと共感、尊敬を込めて、私たちはこう呼び合っている。
 ことばの教室の教師は、本来、自分の教室に通ってくる子どもを、その時間真剣に指導すれば、それで誠実に仕事をしていることになる。吃音の、いわゆる吃音の症状だけの改善を目指す教師であれば、言語指導が役割だと考える人なら、教室だけの指導で終わることが多いだろう。
 しかし、吃音を生き方の問題だと考えると、活動は教室だけの枠では収まらない場合がある。小学校を卒業してからもずっとつきあっている人がいる。どもる子どもに会わせたいと考え、どもる子どもの集まりを続ける人がいる。それらは勤務時間外のことが多い。それでも、嬉々として子どもたちのために、企画し運営する人がいる。
 7月28・29日に開かれた「島根スタタリングフォーラムin隠岐」のスタッフ。隠岐の子どもたちにも「吃音キャンプ」を経験させたいと、いろいろと大変な準備をする人たちの熱い思いと、姿を間近で見て、「アホな人たちだなあ」とつくづく思った。そのアホな人たちと一緒にキャンプができる幸せを思った。
 私のかかわる吃音キャンプは、毎年5月か6月の島根スタタリングフォーラムから始まる。今年で14回だ。昨年のフォーラム終了の打ち上げ会に、翌日の島根県の難聴言語障害教育研修会参加の隠岐のことばの教室の教師がいた。隠岐からも参加したい子はいるが、船の便などが大変で、参加できないと言う。それなら、私たちが隠岐の島に行けばいいと、お酒の席のこともあって、来年は隠岐でフォーラムをしようと盛り上がった。
 一年に2回も島根県での開催など、半信半疑だったが、「アホな人たち」の熱い思いで実現した。 人口1万五千人の小さな島、どもる子どもがそれほどいるとは思えない。まあ少なくても、2家族でも参加できれば、じっくりとつきあうことができるからと、参加者の少ないことは予想していた。しかし、隠岐のことばの教室に通う子どもに参加を勧めたら、全員参加で6家族、松江市から2家族の計8家族が参加した。ことばの教室の教師も隠岐から3名、松江市や浜田市などからの教師が5名、総勢27名の参加となった。子どもたちは全員が初参加だった。
 最初の私と子どもたちとの話すセッション。話し合いが初めての子どもばかりだ。これまで公開しなかった、「第9回静岡県わくわくキャンプ」の、話し合いのDVDを、特別に15分ほど見てもらった。自分と同じような子どもたちの、楽しそうに話し合う映像を、子どもたちはじっと見ていた。子どもたちに感想を聞くと、緊張しているのか、活発な発言は出なかったが、「みんな自分の考えをはっきりと言っていた」「治したくないと言う訳が分からなかった」「みんな真剣によく話していた」の感想に、自分たちも吃音について話し合いたいとの思いは伝わってきた。初めてのキャンプにもかかわらず、その後のグループでは、よく話し合っていたようだ。静岡のキャンプと隠岐のキャンプがつながったこと、静岡の人たちはDVDの公開を許し、喜んでくれるだろうと思った。
 8月11・12日には、岡山で第10回目のキャンプがあり、10月には静岡で11回目のキャンプ、11月には群馬で4回目のキャンプと続く。それらのキャンプは、「アホな人たち」が、真剣に、楽しく企画し、運営する。この人たちと一緒に、キャンプで、たくさんのどもる子どもや保護者と出会えることは、どもりに悩んできた私へのご褒美なのだと思う。
 これらのキャンプの出発となった滋賀の吃音親子サマーキャンプは、タイからの参加を含め150名ほどの参加で、第23回目になる。
 私はこれからも「アホな人」の輪の中にいたい。 
                                2012年8月22日 記