私のグループ体験
 

 金沢こころの電話では、カウンセリングのいろんな研修はあるのですが、エンカウンターグループは、これまでなかったようです。だから、グループとは何かについて知らない人もいたので、はじめに少し私のグループ体験を話しました。
 1967年頃でしょうか、カウンセリングに興味をもちはじめてころのグループは、エンカウンターグループという名称ではなく、カウンセリングワークショップという名前で開かれていました。当時、カールロジャーズの来談者中心療法といわれていたものが、日本に普及しつつあった時代だってように記憶しています。
 参加したグループは、「さあ始めます」とファシリテイターが発言したきり、みんな黙ってしまいます。1時間、2時間と沈黙が続きます。半日も黙って過ごした時もありました。このようなグループに何度も参加する中で、何かいやなものを感じ始めました。メンバーが自分なりに一所懸命話したことを「まだ、あなたは本当のことをはなしていない」と、無理矢理、自分に直面させるカウンセラーがいました。勇気を出してはつげんしたものを、カウンセラーの当人に気づかせてあげたいという意図なのでしょうが、私はいやな感じがしました。「自分にさあ向き合え」と責められているような感じがしたのです。当時、自分なりに悩みから解放されつつあった私は、そんなに深刻な問題はもうあまりなかったので、自分が責められているような感じがしました。何度かそのような経験をしたので、グループに嫌気がさして、ある時からまったく参加しなくなりました。私自身が、グループで傷ついた体験をまず話したのです。

 1989年の年末、私は10年続けたカレー専門店をたたんで、新しい人生を模索していました。その時、九州大学の村山正治先生の九重エンカウンターグループにとても行きたいとなぜか思ったのです。締め切りが過ぎており、満員だったにも関わらず、グループの始まる10日前に申し込み、無理を言って参加させていただきました。自分のこれまでを整理したかったのと、嫌な体験をしたグループの思いをなんとか払拭したい、村山先生のグループなら、これまでとは違う、グループ体験ができるに違いない。確信めいたものがあったからです。
 そこで、安心して自分を語り、他人の話に耳を傾け、心の底から大笑いする経験をしました。これまでのグループの嫌な緊張感がまったくなく、むしろ深刻な問題を笑い飛ばし、そして、真剣に向き合う。笑いのとても多いグループで、心地よさ、安心感。私が常に経験している、私たちのセルフヘルプグループのような、安心感、安全感をもつことができ、「グループっていいなあ」と思ったのです。それが、再び私をエンカウンターグループに向かわせた体験でした。
 こんな話を少しして、グループがはじまったのでした。
 
 2011年2月1日  日本吃音臨床研究会 伊藤伸二