2009年11月21日の横浜相談会の続きです。


理解できなくても、伝えようとする態度が大事

 

 前もって出されていた親からの質問に、こんなのがありました。
 
4歳6か月の子どもが、「どうして私だけこんな話し方なの?」と聞いてくるので、どう答えればいいですか?
 
 うっかりと、講演の中でその質問に答えずに終わったら、後で質問に来て下さいました。 そのお母さんは、私の本も読んでいて、子どもに「治らないよ」と言ったというのです。「ウーン、まだ治るとか治らないとか、はっきり言うのは早かったかな、治らないの?と聞いてきたら、分からないなあ」と正直に答えればいいけれど、「治らない」とは、ちょっと驚きました。でもまあ、そう言ったんだから、その線でいってもいいけれどいう前提で、子どもにどう説明するか話しました。

 4歳の子どもに、親としてどう説明するか、子どもが聞いてきたことには親としてきちんと向き合いたいという親の姿勢にうれしくなりました。いい加減にごまかして言う人が少なくないのに、ちゃんと説明したいという親は、4、5の子どもの場合あまりいません。もちろん私は、ちゃんと説明して欲しいとお願いしますが。
 
 4、5歳の子どもであっても、子ども扱いをしては失礼です。正直に、率直に子どもに「事実」を伝えて欲しいと思います。あなたのような話し方を「どもり」「吃音」「どもる」と言うこと。なぜそうなるのか原因が分からないこと。人口の1パーセントはいるということなど、今現在わかっていることを正直に話して下さいといいました。
 子どもが質問してきたときには、どう答えるか、近所の子どもが「おばちゃん、何々さんどうしてこんな話し方なの?」と聞いてきたとき、どう説明するか。説明するためには、親が吃音について勉強して、準備をしておく必要があります。そのために、少なくとも、私の書いた2冊の本はじっくり読んで、必要なことを盛り込んで、お母さんの説明文を作って準備して、練習して下さいとお願いしました。

 親は、子どもや友だちが「何でこんな話し方なの?」と聞いてくることに、とまどいや、恐れや不安をもっています。準備をしていないからです。子どもがこのような質問をしてくればチャンスです。ちゃんと答えて欲しいのです。
 友だちが聞いてきたときも、嫌がらずに、子どもの味方になってくれる可能性のある子どもかもしれないので、丁寧に説明して欲しいといいました。

 「子どもが理解できるでしょうか?」
 このように聞かれることがあります。子どもが理解ができる出来ないは問題ではありません。親が真剣に吃音について勉強し、知っており、逃げないでちゃんと説明してくれるという、その態度を示すことが大事なのだと話しました。わからなくてもいいのです。

 「吃音は、小学生まで続き、吃り始めてから年月が経っている場合、治らないことが多いから、治すことにこだわらずに、吃音と共に生きることを考えよう」
 私は親にいいますと言うと、ことばの教室の教師や、言語聴覚士は、そんなことを言っても親に納得してもらえません。伊藤さんは、吃る人間だから説得力があるけれど、吃音の経験も、臨床経験の浅い私たちには無理です、ともいいます。

 子どもが理解しようがしまいが、親が納得しようがしまいが、事実を伝えるのが、親の、臨床家の役割だと私は思っているのです。

 『どもりと向き合う一問一答』   解放出版社     1000円+税
『どもる君へ、いま伝えたいこと』   解放出版社    1200円+税

 この2冊の本は少なくともじっくり読んで、子どもの説明に備えて欲しいと話しました。

 私は最近、講演会などで本の宣伝をよくするようになりました。話を聞いて、そのときそうだと思っても、世間は「どもりは治る、治すべきだ」が根強くあります。その中で、子どもと一緒に、あるいは自分自身が吃音と共に生きる道に立つには、それなりの学習が必要だと思うからです。

2009年11月28日      日本吃音臨床研究会   伊藤伸二