あきらめるのは難しい
留守にすることも多いためか、何度も電話をしてくださっているのでしょう。自宅にいるときは、3件ほどは毎日電話相談があります。昨日は21歳の学生さんでした。
アルバイト先で思うように話せずにつらくて辞めて、また新しいバイトをしたがやはりだめだと言います。そんなにつらければバイトをやめたらとうかと話ました。彼は、普段の大学生活では困ることはないようなのですが、このままでは将来就職したときに困ると考えたようです。
アルバイトをして話していけば吃音が治るのではないかと思って、アルバイトを始めたそうです。真剣な様子が伝わってきましたので、私がどもりを治すのをあきらめ、アルバイト生活をした体験を話しました。吃音を否定していたために、話さなくてもいい新聞配達をしていたのを、あきらめてからは、話す仕事を含めて、たくさんの仕事をして、つらいこともあったけれど、家が貧しかったために、辞めるわけにはいかずに続けた経験を話しました。
治ること、改善することをあきらめて、どもりながら生活を精一杯生きることをすすめました。そして、深刻には悩んだかも知らないが、真剣に吃音と向き合ってこなかったのではないかと指摘して、僕の本を読むことをすすめました。
真剣ではないと言われていやだったのでしょう。
「最後にいいですか?」と言うので、何か質問かと思ったのですが、強い口調で「私は絶対、治ることはあきらめませんから。絶対治して見せますから」と言いました。「あきらめないでがんばるのはいいけれど。1年ほど限定した方がいいよ」と言うのが精一杯でした。
ちょうど「吃音の当事者研究」の本が、あきらめることの難しさを考え、書いていたところだったので、彼の気持ちもよく分かりました。僕も21歳まで、あきらめるなんて考えもしなかったことですから。
あきらめられない人は、やはり、治す努力を。一所懸命する必要がありそうです。ある人はぱっと分かって、人生を切り開いていくのですが、ある人には、理解しにくいようです。
私も1か月がんばったけれど治らなかったからあきらめられたことを思うと、早くあきらめるためには、早く、精一杯の治す努力に取り組んだ方がいいと思いました。最後に「治すために、がんばれ」と言うのがせいいっぱいでした。
1年程度に「治す努力」をとどめておいて欲しいと願うばかりです。
日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2013/05/02